第38話 校外学習⑨ (終)

 最初に動き始めたのはゴッドスライムだった。


「くっ────!?」


 頭部と尻尾、それから下半身を吹き飛ばされ、追い討ちとばかりに二本の前脚へワイヤーを絡められているにも関わらず、生徒と教師陣および騎士団がいるであろう南側を目指す。

 硬い脚で地面をえぐり、巨大な胴体で大木をなぎ倒しながら進むその姿に、酷く恐ろしいものを感じられずにはいられなかった。

 魔力を使い切ったところから更に力を引き出そうとした結果、彼女たちの恐れられる原因───「始まりの龍」と「魔物の始祖」の力が表層に顕現したと思われる。

 このゴッドスライムという魔物は、御伽噺や伝説として語られる存在たちから生き延びるために必死なのだ。自身の身体を半分も失いながら、それでもなお逃げるための力を補おうと生徒・教師・騎士エサを求めた。

 今まで脅威になるもの全てを極短時間で仕留めていたために経験が無かった。追い詰められたケモノとは斯くも恐ろしい存在なのだと思い知らされた。


「止まれって─────言ってんだろッ!」


 だが、悠長に怖気付いてはいられない。恐怖にはそれを上回る激怒で対抗するべく、全身に力を込めて咆哮を放ち、両前脚に絡ませてあるワイヤーをぐいっと引っ張り横転させる。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


「なっ、切れて、う、うおぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!??」


 止まらない。声にならないただの雑音を響かせながらバタバタと前脚を振り回し、ついにはワイヤーを引き千切られたばかりか、スライムの目標地点であろう生徒たちのところまで投げ飛ばされてしまう。

 空気を裂き、大木をすり抜け、そして固い地面が見えると叩きつけられる覚悟をした。

 ───ボフ。俺を待っていたのは固さとは反対に位置するようなものだった。厳選に厳選を重ねた上で最高の職人が仕上げたようなシルクがこの傷だらけの身体を優しく包み込んでくれた。


「───クロス」


 凛とした美しい声が俺を呼ぶ。

 一年近くを共に過ごしてきた強くて弱くて、それでいて凶悪ステキな笑顔がとても可愛い彼女───エルフィーネの声が聞こえた。


「大丈夫ですか、クロス」


「あ、ああ………大丈夫、ありがとうエル」


 夕陽に濡れた艶のある黒い体毛を持った美しいケモノとなった彼女が心配そうにコチラを覗き込んでいる。どうやら俺を包み込んでいたのは、そんな幻想的な姿をしたエルの柔らかく暖かい尻尾だったようだ。

 受け止めたこともさることながら、いきなり変身したその姿でよくもゴッドスライムに追いつき追い越したものだと思う。


「そうですね……。人間が二足歩行ができるように、魔族が魔法を使うように、鳥が翼で空を飛ぶように、魚が故郷で子孫を残すように───吾自身もこの身体をどう扱えばよいのかを本能で理解しているのだと思います。恐らく彼女も───」


 アゴをくいっと動かす。その先には純白の両翼を輝かせながら空中に佇む竜───レイチェルがスライムの動向に睨みを効かせていた。レイ、スライム、俺とエル、そして生徒・教師・騎士たちが一列に並んでいるかたちだ。

 助けられ周りがよく見えるようになった今だからこそハッキリと分かるが、本当にあと一歩というところまで危険が迫っていた。エルが守ったのは俺だけでなく、すぐ後ろの生徒や教師・騎士たち含め約三百人弱も含めてだった。


「一歩でも動けば灰すら残さず消し飛ばすわよ」


「■■■■■……………!」


 どれだけ傷つけられようが、それこそ下半身を吹き飛ばされようが止まることを知らないゴッドスライムが、レイの一言一睨みだけで次の行動を躊躇っている。

 それもそのはず、今の彼女には言葉通りの結果いみを実現させるほどの凄み───プレッシャーとも言い換えられるような何かがあった。

 一触即発、刀光剣影とうこうけんえい累卵之危るいらんのき………砂の一粒で簡単に傾く天秤の上のような、ひどく不安定な状況に空気を読まない声が響く。


「え、エルフィーネ様! クロスはこのアーサーにお任せくださいッ!」


(((…………居たんだ)))


「ちょ、そんな「あれ、キミ居たんだ?」みたいな目で見ないでくれませんか!? 一応、ボクも同級生なんですから居るのは当たり前じゃないですからね!?」

 

 金髪に金と銀のオッドアイ、端正な顔に一人称がボクで不思議と男と認識されがちの女の子、アーサーが輝く剣───聖剣とおぼしきものを片手に話しかけてきた。

 その後ろには青ざめ怯えた表情を浮かべている生徒たちがコチラを見つめてる。


「失礼しましたアーサー様。クロスのこと、よろしくお願い致します」


「エルフィーネ様っ、私は───ゲホッゲホッ……まだ………まだお役にッ!」


「いいえ、貴方はもう十分よく働いてくれました。今回はほかの皆様とともに、吾とレイチェルに守られていて下さい」


「……………ですが」


「後ろ─────!!!」


「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 一瞬、ほんのちょっとだけ目を離した隙を見逃さなかったヤツは、上半身だけしかないとは思えないスピードで飛びかかって来ていた───が。


「フンッ─────!!!」


「■■■……■■ッ…………!!?」


 消し飛ばすにはあまりにも俺たちと距離が近すぎたためか急遽、その細くも強靭でしなやかな尻尾を使いスライムの首に巻き付け、後方へと投げ飛ばす。

 地面が揺れるほどの衝撃であったにも関わらず、そこから体勢を整えて二人に勝負を挑むような構えをとった。

 レイはその間にエルと並び、俺たちを守れる位置につく。すると、他の生徒たちから徐々に悲鳴と嗚咽が聞こえて来る。

 無理もない。根源的恐怖を呼び起こさせる存在が二人も揃っているのだ。なぜか効かない俺や聖剣に選ばれた勇者のアーサーならまだしも、ただの魔族や魔族の中でも高い地位にいる貴族では彼女らの放つ異様な雰囲気に耐えられることはできないのだろう。

 だが、そんな彼ら彼女らに振り返り、レイは悲しげな声でなく勇気づけるような言葉を発した。


「皆さまが胸の内に湧き出る感情を私たちは知っています。それは古来より恐怖と呼ばれ、現代でもなお生物が克服できないでいるものの一つだと、我々は知っています。ですが、その恐怖の象徴たる存在に変貌した私たちは皆さまの味方であり、彼の者を討ち滅ぼして見せましょう」


「はい、彼女の言う通りでございます。吾らもこの姿でいられる時間は残り数分もございません。故に、残りある力全てでもって異形の存在を討伐いたします。ですので、どうか………どうか皆様を守らせて下さい」


「レイチェル様……エルフィーネ様………」


 言葉が出てこない。

 出会ったばかりの頃の彼女たちであれば悲しさを表に出さず、裏で枕を濡らすばかりであっただろう。しかし、傷つくことを恐れず自分自身と向き合い、そして相手に歩み寄ろうと努力してきたのを俺は知っている。

 二人は自身の感情に流されることなく、ただ貴族として己に課せられた責務を全することだけを考え、眼前の敵を見据えているのだ。

 ならば、俺は男として従者として、かける言葉はシンプルなものほど良いだろう。


「ご武運を………!」


「「ええはい───!」」


(いいな……いいな………! なんか三人だけの信頼関係がなせる頼み方と応え方だァ……。ボクもそんな風に、クロスに頼まれてみたいよぅ……!)


 たった一言、言葉を交わせばそれだけで十分。

 俺はエルの触り心地のいい尻尾から降ろされ、アーサーに受け渡される。

 だがアーサーよ、俺をお姫様だっこで抱えて「赤ちゃん」と蚊の鳴くような声でささやくのはやめてくれ。とてつもない羞恥が俺を全力で殺しにくるから。


「アーサー様、クロスをよろしくお願いします」


「は、はひっ! よ、よーし、ボクだってやる時はやるんだぞぅ………!」


 俺を地面に座らせ、再び聖剣を順手に持った彼女はやる気十分にこえをあげる。


「本来の使い方じゃないけど勝手に飛んできたのは聖剣キミのほうなんだからね、少しくらいボクのワガママを聞く義務があるはず! 聖剣よ汝の担い手は此処にあり、あらゆる災いから傷つくことなく終わりを迎えよ───『災厄祓う聖剣の加護セイント・リ・ヴェール』ッ!!!」


 轟ッ! アーサーを中心に突風が吹いたかと思えば、その手に持つ聖剣の刀身がキラキラと光る粒子となり、次の瞬間には巨大な半透明の壁となっていた。

 ゴッドスライムはレイたちの隙をついたつもりなのか、硬い前脚で地面と岩・大木をえぐり投げた。二人は微動だにせず真正面から受けても無傷であったが、それよりも驚いたのがこの半透明の壁が大木などの物質を完全に遮断したことだ。


「レイチェル様、エルフィーネ様! こ、コチラはもう大丈夫です! お二人は後ろを気にせず、あのスライム?をやっちゃって下さい!!!」


 舞台は整った。

 二人の身体は端から段々と粒子に変換されている。恐らく時間がないと言ったエルの言葉が指すのはこのことだろう。元より魔力が枯渇した状態から無理に力を引き出そうとした結果、奇跡的に恐怖の元凶たるあの姿へとなれただけなのだ。

 ならば、やるべき事はただ一つ。全身全霊の一撃でもって極短期決戦を仕掛けるのみ。

 眼前の敵をほふるため、純白の竜と漆黒の狼がその大口を向ける。それは地獄の門か───はたまた冥府への入り口か。

 側から見ているだけでさえ「死」を予感させるほどの力をその口に集中させていれば、それを直接向けられているゴッドスライムは最後の抵抗とばかりに頭部を再生させ、同じように口へと魔力を集め始めた。


「─────ッ、来ます!!!」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──────!!!!!!!!!」


 極彩色の殺意が辺り一面を焼き焦がす。

 聖剣による盾がなければ俺たちは簡単にあの世へ送られていただろうそれを、竜と狼は冷めた眼で見やり、そして───。


「『始まりへと還す無窮の輝きジェネシス・ゼロ』」


「『我、獣ノ王也ルプスレクス』」


 ───世界は白と黒に染められた。

 ───ドゴォォォォォンッ!!!

 強烈な轟音と共に、吹き飛ばされそうなほどの爆風が周囲一帯を襲う。


「……………終わった」


 ぱらぱらと土埃が舞い落ちる。ヤツがいた場所は地面ごと焼かれ、一部がきらきら光るガラスへと変化していた。

 また、二人の放った力の塊はスライムを消し去るだけにとどまらず、召喚された北側まで到達したのではないかと思うほどに何処までも果てしなく続く破壊の道が切り開かれている。


「ひっ───」


 幾人かの生徒たちから悲鳴が上がった。常軌を逸した力を持つ彼女らがコチラを向いたからだ。

 守るにしては過剰なまでの力───オーバーキルを直近で見せられれば恐ろしくもなるだろう。

 しかし、そんな二人にも大きな変化があった。身体の端っこだけ粒子となっていたが、ついに全ての力を出し尽くしたのかそれが一気に全身にまで回り、それぞれ白と黒の結晶を生み出した。二つの結晶は合わさるとハート型になり、そして───。


「へぶぅッ─────!??」


 俺の胸へと猛スピードで突撃してきた。

 バカみたいに痛すぎる。無防備で満身創痍に近かったにせよ、まったく反応ができなかったため数メートル吹き飛ばされ、胸を抑えながら咳き込む。


「く、クロス大丈夫!?」


「ゔぇ………な、なんとか……」


 慌てて近寄ってきたアーサーに肩を借りて何とか立ち上がることができた。

 俺たちのやり取りを見てから他の生徒や教師、騎士たちまでも安堵の表情を浮かべる。先ほどまでのプレッシャーが無くなっていることもあり、中には脱力して泣き出す者までいるようだ。

 すると、茂みのほうからガサリと音がして、ついでにレイとエルの声がした。


「ふぅ、一時はどうなると思ったけど何とかなったわね?」


「レイチェル、皆様がいることを忘れていますね? 口調が寮にいる時と同じですよ?」


「………こほん。それにしても、この森の木々はこのように高いのでしたか?」


「もう手遅れだと思いますが………確かに少し、いえ、かなり高い気がしますね」


 そう言って茂みから出てきたのは二人───の面影をした小さな女の子たちだった。


「お、お嬢様………なの、ですか?」


「何を当たり前のことを言っているのですか? それよりもクロス、アナタ少し大きいですね?」


「ちっ、違いますレイチェル! 吾が……吾らが小さくなっているのです!!!」


 自身の身体をペタペタ触りながら、いま自分たちに何が起こっているのかを冷静に伝えたエル。

 指摘通り自分の変化に気づいたレイは驚きのあまりペタンと腰を降ろしてしまった。ずるりと落ちそうになる服をアーサーに協力してもらい、なんとか肌けることだけは死守………と、そこに二人の生徒が現れた。


「あ、あの………お二人はレイチェル様とエルフィーネ様なのでしょうか?」


 おっかなびっくりな様子でレイたちを見やる二人はドワーフのネーレとエルフのチェチェン。声を上げたのはチェチェンのほうだった。

 確かに二人の面影がかなり残ってはいるものの、幼女になるなど誰が予想できただろうか。

 二人の質問に応えようとした時、どこからともなく耳に優しくない声が聞こえる……


「はっはっは! 皆のもの無事かなッ!!?」


「ゔぁ………速い、死ぬ」


 今にも死にそうな顔をしているギークを抱えた、この魔族の国の王子ブラッド・リィ・モールガンが宙に浮いていた。

 非常に愉快な様子の彼だが、レイとエルの二人に睨まれると借りてきた猫のように大人しくなり、ゆっくりと地上に降りた。


「さて、今回の校外学習は以上をもって終了とする! 予想外のことばかり起きただろう、自身の力が及ばぬことを知れただろう、だが、それら全ては今後の君達の糧になる! 将来この国を担う者として恥じる事ない働きであった! 勝鬨を挙げよ!」


「……う、うおおおぉぉぉーーーーーーー!!!」


「「「ウォォォーーーーーーーーーー!!!」」」


(あー……魔法使いやがったな?)


 妙に腹の下が熱い。事態を収集つけるため、無理にでもテンションを上げる魔法を使ったのだと分かった。

 ついさっきまで大怪獣バトルを観ていたんだ、無理にでも心を現実に引き戻さなければ放心したままであっただろう。結果としてそれは大成功のようだ。沈黙を破った一人を皮切りに各々が雄叫びを上げ、中にはお互いを抱きしめ合い勝利を実感している者までいる。


「では、皆は教師と騎士の指示に従いながら帰還せよ。寮に帰るまでが校外学習ということを忘れるなよ? よいなっ!!!」


「「「───はッ!!!」」」


 ああ、ブラッドって本当に王子様なんだなと思う。無駄に目をキラキラさせている生徒か何人かいるが騙されているぞ、キミのその高揚はそいつの魔法によるものだよと伝えたいが、こんなことを平気でやれる者でないと国のトップにはなれないか。


「ヴァイス嬢にシュヴァルツ嬢でよかったかな?」


「このような姿であることを恥ずべきばかりでごさいます、ブラッド王子。はい、私はレイチェル・ヴァイス、隣はエルフィーネ・シュヴァルツでございます」


「いや、構わん。しかし……姿


「「はい───?」」


 二人の声がハモった。俺も口には出さなかったが同じく疑問を呟いていた。一体、ブラッドは何を言っているのだろうと。


「チェチェンとネーレだったかな、キミたちも同じことを思ったから二人が本物かどうかを確認したのではないか?」


「「はっ、はい! その通りでございます!」」


姿


「その通りだ。しかし、姿


 ブラッド曰く、初めて会った時から二人には白と黒のモヤが掛かっており、その姿をうまく認識することが出来なかったそうだ。さらに、そのモヤを目にすれば恐怖に駆られまともに直視することも難しいという。

 幾分顔色が良くなったギークがコソコソ近づいて俺の耳元で言うには、ゲームでも原作でも彼女らの容姿については言及されないどころか最後まで出てこないそうな。唯一、二人の姿を見れるのはあの変身した竜と狼だけだったらしい。


(そう言えば、……?)


 あの時は会場自体が薄暗かったから見えずらいのだと思っていたが、それも彼女たちの魔力の影響だったのか。

 そう考えていれば周りにいた生徒たちのみならず、教師や騎士までも二人の姿に興味を示し出した。


「えっ、あの可愛らしいのがヴァイス嬢とシュヴァルツ嬢だって!?」「ウソだろ……」「私よりも艶のある髪……いいなぁ」「あの小さな子が大人になったら……くそ、怖がらずにいれば!」「告白っ……無理だな家格が違うや」「踏まれたい!」「騎士団の方ー犯罪予備軍がいます!」「恥ずかしがっているお姿も可愛い!」「小さい頃からあんなに美しいの!?」「可愛く美しく、それでいて強いって完璧ではありませんか!」「守ってくださってありがとうございます!」「貴族の矜持というものを見せられました!」「感謝致します!」「今度は私がお力になれるよう努力します!」「ありがとうございました!」


 徐々に大きくなる自分たちへの賞賛と感謝の声に、気恥ずかしいやら嬉しいやらで顔を赤くしてしまっているレイとエル。

 ブラッドには感謝をしなくてはならない。今回のことは全てが上手くいったわけではなく、イレギュラーこそが普通の状態であったが、それでも結果としては上の上だ。

 みんなから怖がられず、尊敬と好意をもって認められる二人。ようやく幼い頃からの努力が実を結んだと思うと涙が溢れてしまう。


「ぐすっ………レイ、エル、おめでとう」


 レイとエルを抱き寄せて囁く。

 大きな世界で小さな奇跡を掴み取れた二人に祝福を贈る。


「一足先に彼らを送る。数分ばかし三人で笑い合うといい」


「あぁ………ありがとうブラッド」


「フッ───礼を言うのは余のほうだクロス」


 言うや否や俺たちを残して全員をグレモリー学園に転送した。

 俺はもう一度、二人を強く抱きしめて「おめでとう」と囁くと、あとは三人して身体中の水分が全て出てしまうのではないかと思うほどにわんわんと泣いたんだ。悲しく冷たいのではなく、嬉しく温かいそんな涙を流した。

 ひとしきり泣いた後、これまでの疲労と蓄積されていたダメージが一気に襲いかかりフラリと態勢を崩してしまう。それは俺に限った話ではなく、魔力がすっからかんのレイたちも同様のようだ。


「ぶ、ブラッド……早く来てくれぇ………」


「私、魔力切れってこんなに辛いとは思わなかった……ぐぬぬ!」


「吾は忘れてませんよ……助けたら何でもしてくれるということを………クロス?」


「そういうことばかり覚えてんのか……」


 すぐ横で紫色の光が淡く発光し始めたのが見えた。どうやらいいタイミングでブラッドが戻ってくるようで、後のことは任せよう。俺はもう目の前が暗くなってきた。


「お休み………」


「私も……もうムリ………」


「吾もです………」


 眠りにつく少し前、二人の顔はとても穏やかに笑っていた。

 この後、俺も眠りにつき目が覚めると治療室のベッドに寝かされていることを知るが、それはまた今度の話になる。



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