第37話 校外学習⑧
華麗な回避術を披露してくれるブラッドを俺とギークは大丈夫だろうかと思った。いや、彼の実力自体は信じているのだ。しかし、何と言えばいいのかお調子者の言葉を聞いて素直に頷くことができるかと言われれば、多くの人は否と答えるだろう。
そう、今まさに俺たちが感じているのはそういった気持ちなのだ。
「マジで大丈夫なのか………?」
「フッ───」
ブラッドは不敵に笑うと次の瞬間には今までにない真剣な表情となっていた。
(嗚呼………これは大丈夫だ)
そう思わせる何かを彼は持っていた。
実力、実績、気迫、気合、カリスマ、リーダーシップ、どれかではなく、どれも兼ね備えた存在。それが魔族の王子ブラッド・リィ・モールガンなのだと改めて思い知らされた。
「魔法領域擬似
ブラッドが具体的に何をし終わったのか、それは側から見ていた俺たち二人にも分からなかった。
ただ、自分の目が確かならば彼の詠唱とともに、少しずつ半透明な何かが出現しそれらがブラッドの周囲をただよったり、装着されたりと忙しなく動いている。
「これより、余は全身全霊を持ってゴッドスライムから逃げる!!!」
そう言うや否や、彼を中心に強烈なつむじ風が巻き起こった。
目を細めるとすでにブラッドはそこにおらず、代わりに上空からうるさい笑い声が聞こえてくる。
「はっはっはっは! あばよ
先ほど発動させた魔法のおかげなのだろうか、ブラッドの足元に波紋のようなものが広がっており、それを足場に空を爆走していく。
足の速い優れた馬のことを
「ちょちょちょ!? 時間稼ぐってこと忘れてないですかね、あのバカ王子さまッ!?」
速い………のはとても素晴らしいのだが、肝心の「時間稼ぎ」という目的を見失ってはいないだろうか。
触手はまだしも本体が巨大なためそこまでスピードを出せないゴッドスライム。それを置き去りにしてしまうのではないかと思うほどに、今のブラッドは速すぎるのだ。
「ほら……ほらほらほら! スライムこっち狙ってるってェ! ブラッドのこと一人で勝手に逃げたって思われてるよ!!!」
ギークの言葉を聞いて視線をスライムへと移せば、確かにその巨大な身体から生やした何本もの触手が大きくしなって俺たちに襲い掛からんとしているのが見える。
絶体絶命───前世も含めて今の状況ほど、この言葉が似合う場面はなかなかないだろう。
危機的状況なのは認識できているのに血が足りないせいなのか、他人事のような感覚でまったくもって焦りがない。
いや、違う。そもそも焦る必要がないから焦らないだけなのだ。
何故なら─────。
「
ついに放たれた幾本もの
だが、触手は途中から走っていったブラッドを追いかけるように目標地点を大幅に反らされたのだ。理由はもちろん彼の魔法によるものだ。
さらに、ギークの間の抜けた声が漏れたのは何も攻撃が見当違いの方向へいったからだけではない。
「ズドドドドドドッッッ!!!」と連続した爆発音が触手に命中し、それらを跡形もなく消し飛ばしたからだ。
白と黒の塊───魔力弾。レイチェルとエルフィーネから放たれたそれが規格外の威力でもって、触手を迎撃した。
「ふぅ………ヴァイス嬢たちに手紙を送るなどいた以来だろうか? 「迎撃せよ」と書けば即座に行動できるのは流石と言うほかないが………何発か余のほうに来ていたのはコントロールが悪かったからかな? ハッハッハ、もしやクロスを攫ったからとは言うまい………違うよね?」
「ブラッド………!」
いつの間に戻ってきていたのか、空中に波紋を立たせながらギークの真上に引き攣らせた笑顔のブラッドがそこにいた。
彼にしては珍しく、その顔に冷や汗をかきながら先ほど自分が走っていった方向を見ている。
「嫌われてんのか……?」
「はっはっは、どうやらクロス絡みのことだと彼女らは容赦がないようだな!」
「や、やっぱコエーよ、あの二人………」
ゴッドスライムは自身の身体が今までにないダメージを受けたことに怒ったのか、再度、俺たちへ向けて触手のムチを叩きつけようと大きくしならせていた。
「ふっ、なまじ他の魔物とは違い知性があるからこそ、貴様は余の魔法から逃れることができんのだぞゴッドスライム? さあ、
一体は光の球体となって南へ行き、もう一体は何やらしわがれた声でゴッドスライムを馬鹿にするようケタケタと笑っている。
すると、より一層その怒りを激化させたスライムは触手の先端部分をまるで槍のように尖らせ、無防備と言ってもいい俺たちへと一斉に攻撃を仕掛ける。
「煽られて頭にくるのは分かるが………お前の相手はコッチではないぞ?」
「───!? ま、また攻撃が………!!?」
「………不自然に怒っているな?」
「はっはっは、そりゃあ怒らせているからな?」
ニヤリと笑ったブラッドは説明したそうにコチラを見ている。何となく予想は出来ているが魔法に関しては門外漢なため、より詳しい情報を聞いておく必要があるだろう。
しかし、そんな事もお見通しだと言わんばかりの彼の得意げな顔は一発ビンタしてもいいのではないか?
「あー……何で───」
「
「うるさっ! せっかくクロスが聞こうとしてたのに食い気味で被せてきた!?」
「細かいことを気にしていてはハゲるぞ二人とも? はっはっは、ワイヤーなんか持ち出してどうしたんだクロスお願いだからやめて下さい」
いちいち反応していたらキリがないな。さっさと説明するならしろと、目線で合図を送ればコホンと咳払いをして話し始めた。
「さすがに全ての魔法を説明するにはチョイと時間がないからな、デカブツの攻撃を反らしたのと挑発したモノを紹介しよう!」
ズドドドドドドッッッ!!!
またもや連続した爆発音が鳴り響く。白と黒の魔力弾が触手にぶち当たっているが、先ほどと同じ結果にはならずに原型をとどめている。
「
「はぁ………これは俺の悪癖みたいなもんだな、話の腰を折って悪い、続けてくれブラッド」
「よかろう! 簡潔に言えば南方へ飛んでいった発光体が攻撃を誘導させ、単調な攻撃しかやらない程に激昂させているのがこの
それからもブラッドの説明は続いた。
彼が発動した魔法の数々は、常時展開しているにはとてつもない量の魔力が必要とするらしいのだが、魔の森という広大な土地そのものをリソースにして補っているらしい。
また、一番初めに南側へ去っていったのは慣れない速度を出しすぎてしまったからではなく、レイチェルとエルフィーネの二人に発動した魔法の内いくつかを与えたという。
その魔法のどれもが、あのゴッドスライムの攻撃が当たっても身代わりになってくれるようなものであったり、攻撃そのものを無効化してくれるようなものであったりと、攻撃性は皆無だが保険としては十二分に活躍してくれるそうな。
「アレのダメージソースは二人頼りになるな……」
「倒しきれないのであればお前らの出番だぞ、クロスにギーク?」
「ああ、了解している」
「えっ? オレも? 何でェッ!?」
「「なんでェッ!?」ではないわい! お前が一番先のことを知ってるんじゃろがいっ! いざとなったら忘れている事も思い出させる劇薬があるから覚悟だけはしておくんだぞい!」
「クロス、お前からもこのバカ王子に何か言ってやってくれ! このままだと人体実験の被検体になっちまうよォ!」
「あーーーだんだん血がつくられてくーー」
「クロスさぁんッッッ!?!?」
「ハッハッハ、草」
「てめっ、この………うん? なんか……ゴッドスライムの様子変じゃないか?」
ギークの言葉ですぐさまゴッドスライムに視線をやると、ヤツは攻撃を止めてプルプルと震えている。
そして、震えもピタリと止めたかと思えば今度は体の両側から大きな翼のようなものを形作り、今まさに飛び立とうと羽ばたかせている。
「───ブラッド」
「わかっているともッ!」
ブラッドへ声をかけた時には、既に行動を開始していた。
透明な何かを握っている右腕を突き出せばズズンッと地響きが起こり、ヤツの両翼部分がまるで地面に縫い付けられたかのようにピクリとも動かなくなっている。
「
彼の笑い声とともに三度目の魔力弾が連続して叩き込まれる。
どうやら彼女たちもスライムが飛ぶなど予想ができていなかったのか、驚くべき行動を取ろうとしたアレを好きにはさせまいとしている。
「これなら勝てるかも……?」
「勝たねばぬぁらんのじゃい! だからこそギークよ、あのデカブツのことで忘れている事はないのだろうな?」
「忘れてること……忘れてること……う〜ん」
ギークがうんうん唸りながら自分の記憶を探っている。俺はその間に失った血を取り戻すため、新たにブラッドから増血薬を注入してもらった。
「クロスよ、これ一本で大の大人が泣くほどの激痛がくる筈なのだが……痛くないの?」
「バチくそ痛えよ、三本目だぞ?」
「うわぁ〜……スライムよりバケモンじゃあないか? 余はお前のほうが怖いぞ………」
人をバケモン呼ばわりとは失礼な男だ。
俺だって好きで注射を受けているわけではないし、なによりスライムが暴れたおかげで周囲の魔物がほとんど倒されてはいものの、それでも警戒をしておく必要があるんだ。
「───あ、そう言えば」
何かを思い出したのか、ギークが唸ることをやめて遠慮がちに話し始めた。
「フレーバーテキストに、ゴッドスライムには奥の手があるって書かれてたな………」
「奥の手?」
疑問を呈したのはブラッドだ。
確かに奥の手というのならば先ほどの飛行形態のことなのだろう。スライムが翼を生やして………いや、この場合は形作ってが正しいか。そうして空を飛ぼうとしていたのは、この魔の森にいる全員が予想できなかったことだ。
「いや、エンペラースライムにも必殺技みたいなやつがあったんだ。その時は口からすごい威力のビームを出そうとしたんだけど、レイチェルに止められたから………」
「ふむ、ゴッドスライムの変態はスタンダードな機能で本命───奥の手とやらは見せていないと、そういうことかいギーク?」
「そうなんじゃないかな………って、勝手にオレが心配性なだけかもしんないけど」
瞬間、突如として強風が俺たちを襲う。
「………ギークの予想が当たったな」
「疫病神の称号を与えよう!」
「お、思い出すのが遅かったのは悪かったケドこれはオレのせいじゃないよねぇ!?」
軽口をたたいてるが内心では焦っている、強風の原因は言わずもがなゴッドスライムだ。
ヤツはブラッドの魔法により地面へ縫い付けられているかのように動けずにいた筈なのだが、両翼を失くした代わりに大きな口を出現させて空気を取り込んでいる。
その吸引力は徐々に強くなり、ついには身体をどこかに縛り付けて固定しなくてはいけないほどになった。
「二人はコレが奥の手ってヤツだと思う!?」
「「思わん(ねえ)ッッ!!!」」
「だよねぇ!?」
血がどうのこうの言っていられる場合じゃあなくなった。
俺はすぐさまワイヤーを使い二人を掴み取り、何本かを地面の奥深くまで突き刺して飲み込まれないようにするが、スライムの吸引力は勢いを増し、ついには大木を根っこごと引っ剥がすまでに至る。
地面に突き刺すワイヤーを増やしたり、より深くまでいくよう魔力を流したりと、ヤツと普通に戦っていた時よりもなお苦しい状況が十分は経った頃だろうか、ピタリと強烈な風が止んだのだ。
嫌な予感がする。
嵐の前の静けさという言葉が似合うほどの静寂が辺りを支配している。
全ての生命体が生き絶えたのではないかと思うほどに、不気味な雰囲気が漂い───そして、予感は的中した。
「───む?」
「へ……消え───」
「消えたんじゃないッ!!! ブラッド、今すぐ俺らと彼女たちを攻撃から守ってくれッッ!!!!」
「───ッ! 潜航させよ
眩いばかりの光が魔の森全体を包み込んだのが見え、それと同時に俺たちはブラッドの魔法で暗い影に呑み込まれたのだった。
「ブラッド! ギーク!」
辺りは夜の海のように暗く、恐らく自分がこの世界に入ってきたであろう部分から光が差し込んでいる。
すぐ近くに二人を発見できたのは幸いだった。海中にいるように浮かんでいられるが、地上のように息を吸って話す事もできる。
「な、ななな、何だったんだ!?」
「ふぅ………なんとか全員無事なようだな」
驚くギークと参ったとばかりに天を仰ぐブラッド。
彼らも見たのだろう。俺たちがここに入る前、ゴッドスライムが居た場所を中心に巨大な衝撃波が発生したのを。
あと少し、ほんの一瞬でも遅ければみんな仲良くあの世に送られていたと言っても過言ではない。それほどの脅威が迫っていたんだ。
「知性が高い高いとは言っていたが……、ブチギレて全方位に攻撃を仕掛けるなぞ、短絡的思考すぎて笑いも起きんぞ。余はあのデカブツが消えたように見えたが、二人はどう思う?」
「オレも……急に消えてたように見えた。もしかして、アレの奥の手って自爆だったとか……?」
「自爆じゃない」
俺はそう断言した。
アレがただ怒ったからとまだ余力を残していながら自分諸共、俺たちを巻き込んでまで殺そうとするだろうか? ───否。全くもって否である。
知性があるんだ。ヤツには敵をどう殺そうかと考えられる知性があるんだ。
ならば先ほどの攻撃は一体何なのだろうか。
簡単だ。確実に相手を殺すための準備をしていたただけなのだ。
「ウソ……だろ? あんな威力の
「にわかに信じられん……が、自らの目で見れば分かることだろうな。この裏側の世界も長くは居れん、すぐに浮上するぞ」
「二人は大丈夫なんだろ、ブラッド?」
「無論、無事だ。ただ、彼女らもこの世界へ避難させることはできたが、与えた魔法がことごとく破壊されてしまった。いやはや馬鹿げた破壊力だぞ、本当に………」
それから数分間、地上へ戻った時の行動をどうするか決めた。
とは言ってもやるべき事は至極単純なもので、全力でゴッドスライムを叩くというものだ。
魔の森から脱出できないよう空間を歪曲させていた魔法と、北側に設置していた転送魔法が破壊されたとブラッドは言った。
そのため、魔物の集団という脅威は無くなったものの、今度は他の生徒たちにスライムが襲いかかる可能性が生まれた。ゆえに、ヤツと戦うのが正真正銘の最終決戦というわけだ。
「───出るぞ!」
ブラッドを先頭に眩しい光に突っ込むと、ぶわりと風が頬を撫でる。
「何だよ………あれ、スライム……だよな?」
「まるで四足歩行のケモノだな……?」
周囲一帯はなぎ倒された大木とガレキの山。
しかし、そんなことよりもなお目立つものが存在していた。
のっぺりとした顔に四本の脚、槍のような尻尾、それら全てが赤黒いカラーでコーティングされ鈍い光沢を放っている。
すると、べりべり、べりべりと何かを引きちぎる音がすればヤツの顔に口ができ上がる。
「GYAOoooooooooooooooooooooOOO!!!」
「───ァッ、止めるぞ!!!」
突如として咆哮を放ったヤツは、そのまま南へ向けて動き始めた。
ひどく鈍重ではあるが変形前と比較すれば速いと言わざるを得ず、何よりも一歩一歩が大きい。
「ギークは余のそばにおれぃ!」
「分かった! 死んでも離れないっ!」
「ワイヤートリック……『彼岸花───」
「クロス、それはっ───」
ギークの心配はもっともだが、そんな状況ではなくなったんだ。だが、安心してくれ、最初に使った時と同じような事は起こらない。
「───
俺の血液と魔力をムリヤリに特殊なワイヤーへ融合させた時だった。
ワイヤーはほのかに蒼い光を纏いながら柔軟性と伸縮性に特化し、なおかつ、俺の意志一つであり得ない軌道を描きながら相手を捕縛する。
いわば、この技はワイヤーを自分の身体の延長線にするようなものだ。
「GYA.........A...........!??」
「と、止めた………!」
「否、止めただけだッ! ヤツの頭上に
「ぐ……ぉ……………こい…つ! 動くんじゃ……ねぇよッ!」
スライムを止められたのはほんの一瞬だけだった。ブラッドにかけられた魔法は俺の身体能力を大きく向上させていると肌で感じられるものの、それ込みでもヤツの膂力のほうが上のようだ。
幸いなことにスピードを手に入れはいいが全身を硬化させてるらしく、ワイヤーをすり抜けられる心配はないみたいだ。
また、スライムの頭上に黒い点のようなものが出現しそれが段々と大きくなっている。
「ブラッド、あの黒い点みたいなのは何だ? オレ……オレはっ………!」
「
「え、ちょ、このっ……「シート」! コレでいいんだな!?」
「
時間さえあればゴッドスライムを倒すことができるとブラッドは言う。ならば、俺がやる事はただ一つ、死ぬ気でコイツの足止めをするだけだ。
ぐるぐるぐるぐるとヤツの脚と尻尾、それから首にワイヤーを絡ませてようやく自由に動かせなくすれば、そう遠くない場所で白と黒のマーブル模様をした魔力弾が見える。
「GAoooAAaaao........GUGYAaaaaaaaa!!!!!!!!!」
「は……はっ………! 怖ェーのか? ならよォ、もうちょっと邪魔しなきゃいけねェよなァッ!?」
幼い頃、よく両親から「自分がやられて嫌なことは他人にやってはいけない」と口を酸っぱくして言われたものだ。しかし、今まさに嫌なことをコイツにしているが全く罪悪感がなく、むしろもっと嫌がらせをしてやろうという気分になってくる。
「───きたっ!」
特大の魔力弾がついに完成した。高速に回転しているそれはスライムのイヤがっている反応からするに、脅威になる程の威力が秘められているのだろう。
逃がさないよう、外さないよう、まるで猛獣使いの如くワイヤーを操つり無理矢理ぶつけにいく。
「く……た………ば、れッ!!!」
「GA─────!??」
ドゴオォォォォォォォォォォンッッッ!!!
魔力弾はスライムの下顎を残した頭部全体を吹き飛ばし、ついでとばこりに直線状にあった尻尾までも千切り飛ばした。
四本の脚が崩れかけ、胴体が地面に沈もうとしたのが分かり少しだけ気を緩めてしまった時だった。
「─────◇◇◇◇◇◇◇◇!」
「コイツッ────!??」
動けたのだ。まだ俺たちみたいな小さな生き物を蹂躙するには十二分の余力を残していたのだ。
再びワイヤーで拘束を試みるも、動き始めたスライムを止めることはできない。
(レイにエル! 何をして───)
魔力の枯渇。
当初の目的であったそれを今になって達成してしまったのだ。
遠くにいると思っていた二人が予想外に近かった………のではなく、スライムの一歩が大きすぎたために彼女らへと到達してしまったらしい。
(間に合わな───)
「
間一髪というところでブラッドの魔法が右下半身から炸裂。横からの衝撃を受けたスライムは、そのまま横転し彼女たちから軌道をそらした。
だが、コイツの目的は魔力がない二人ではなく、最初から南側にいる教師並びに生徒だった。
「くそっ、止まれ! 止まれ止まれ止まれッ!!」
前脚にワイヤーを巻き右に左にと、なんとか目的地まで行かせないよう転倒させてはいるが、それが精一杯だ。
もう魔力が足りない。いくら節約しようが俺の限界はすぐそこまでやってきている。
(これじゃあ二人を守れ─────)
守れない。
(………違うだろ)
そうではないだろう、クロス。
守るためだけにお前はいるのではない。
守られるためだけに彼女たちがいるのではない。
(そうだよな………そうだよなァッ!!!)
世界がスローモーションになる。
後方のレイチェルとエルフィーネを見る。
覚悟を宿した強い瞳が俺を写し、自分たちが倒すべき相手を捉えている。
なら、甘えろよ
従者だからとか、男だからとか、そんなくだらない
「レイィィィィィ!!! エルゥゥゥゥゥ!!! 何でもするから助けてくれェーーーーーー!!!」
胸の契約紋が熱い。俺に誰かを頼らせてくれたのはきっと、この胸に刻まれた彼女たちの何かがそうさせたのだと根拠のない確信がある。
熱い……本当に熱い………いや熱い過ぎないだろうか!?
「うぁっ────!??」
熱すぎた胸を抑えた時だった。
ドンッと大きな爆発音が彼女たちの方から聞こえたと思ったらそこには───。
「魔物の始祖と始まりの竜………? なっ、どうして!?」
何かがトリガーとなってしまったのか、彼女たちはギークから聞いていたものと似ている姿へと変貌してしまっていた───黒い狼と白い龍へ。
取り返しのつかないことをしてしまったと考えたのは一瞬だけだった。なぜなら、俺を呼ぶ声が聞こえたからだ。
「あれ………クロスが小ちゃくなった?」
「本当ですねレイチェ………どこの龍です?」
「はぁ………? 何言って………狼?」
「「……………………まさか、
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