第35話 校外学習⑥
倒す倒す倒す。
斬っても斬ってもなお湧き続けてくる魔物たちは、さながら濁流の如く押し寄せてくる。
「ああ、本当に面倒だ」
ワイヤーを片手に効率よくその生命活動を終わらせる。
「いつまで出てくるんだ?」
かれこれ六時間は経過しているハズだ。日が沈み初めてくる時間に指をかけている。
「長丁場にレイたちは対応できるだろうか」
そもそも長期戦を想定しているのは、レイチェルとエルフィーネの魔力が膨大であるからだ。
実際、彼女らがどれほどのペースで魔力を使えば底を尽くのかが判らない。
「ギークは彼女たちがどれくらい魔力があるのか分かるか?」
ワイヤーを使っていない俺のもう一方の片腕に担がれているコイツに訊く。下手に意気込まずに安定して魔物を狩れるようになってから、アクビをするほど安心しきっているのはある意味で大物だな。
「………悪い、オレの記憶だとそんな描写はなかったと思う。力尽きたとかはあるんだけど、それって死んでるってコトだから」
「使えねぇ」
「ヒドくない?! まあオレも薄々感じてましたけどね、お荷物だって!!」
「はいはい、わかった悪かった、だから耳元で泣くのはやめてくれ」
やはりというか、何となくそんな気はしていた。彼女らは自分の魔力が外に出ることを極端に嫌う。
それもそのはず、下手に外へ漏れ出せば大抵の人(魔族だけど)が半狂乱に陥るかも知れないからだ。
(問答無用に恐怖させる魔力………優しい彼女たちには辛すぎるな)
他人を傷つけるくらいならば自分が……と、そんな自己犠牲の精神に似た考えを二人はしている。
(だからこそのこの計画だ)
他人を意識せずに全力が出せる場所。
ここ魔の森こそ舞台に相応しいと考えたブラッドは、なるほど確かに才能の塊なのだろう。
「魔物も土地の魔力も多いから魔の森か。そして、そこの魔力を使うことで連続転送を可能にしていると………なら止めてほしいんだけど?」
「それなんだけど───」
「うわっ聞きたくない!」
「できないって………、まだ彼女たちが戦えそうだから」
「スライムいんじゃん!?」
ゴッドスライムという名前からして強そうな魔物が微動だにせず、召喚場所から少しも動いていない。ギークの話からかなり厄介だというから、アレだけでもいい気がするのだが………?
「いや、ほら………クロスも主人の全力がどれくらいか知らないでしょ? 万が一、一撃で倒せる何かがあったら困るから間引いておくのはいいけど転送は止めないらしいよ?」
あのバカ王子、無駄に頭が回るから大変だ。話の筋が通っているのがまたムカつく。
つまり、俺がやらなければならない事は魔物を間引いてレイたちの所に行かないようにし、万が一スライムを相手にする時に備えて力を温存しておくと。
「某注文の多いなんちゃらだな………っと!」
「「「Ga───!?」」」
もう無心で流れ作業のように魔物を倒してはいるが、飛行型のプテラノドンみたいなヤツも見ているため全く油断がならない。
いっそのことレイたちと合流したほうがいいんじゃないかなと思ったが、そうなるとギークをどこに置いてこようか悩むところだ。
「ギーク、急に覚醒して強くならない?」
「んな漫画みたいなことできるか! 原作ある世界だけどもッ!」
ですよねー。
同じ転生者なら不思議なパワーを貰ってても納得はできるんだが、かくいう俺も女神様とかに会ってないしな。
「───クロスッ! アレ!」
「ん? んんッ───!?」
頭をペチペチされたから思わず反撃しようとしてしまった、アブナイアブナイ。
少し慌てたギークの指差す方向を見れば、黒いゴッドスライムがナメクジのようにゆっくりとした速度で確かに動いている。
いや、遠目から見て動いていると分かるのだから近くにいけばソコソコの速度が出ているのだろう。
「動いてんな……?」
「動いてんね……?」
何だろう………動かないでもらっていいっスか?
「「てか、コッチに来てね……?」」
嫌なハモり方をしてしまった。
たまたま魔物の多い俺たちの方向へ来てしまっているのだろうか?
「あ───」
「───あっぶねッ!?」
アイツ、あのゴッドスライムとかいうヤツ、自分の身体から細長い触手を伸ばして横薙ぎにしてきやがった!
「細長くても俺たちにとっちゃバカデカいぞ……いきなり何なんだアイツ、急にコッチを敵だと認識し始めたぞ!?」
「頑張ってクロス! お前が死んだらオレも死ぬ!」
「分かったからしがみつくなッ! 逆に動きづらいわバカ!!」
ドゴンッドゴンッと、俺たちがイチャイチャしている間にもムチのように攻撃してくる触手が何ともまあ恐ろしいこと。
攻撃の跡を見れば太い木はおろか、地面までも抉れるように削られている。
「ギーク、アレの弱点とか覚えてないのか!?」
「攻撃が当たれば飛び散って小さくなる───と思う!!」
「つまり無いってコトだな!?」
「そうっ!」
初めて二日酔いした時より酷い気分だ。
こんな耐久力のバケモノにレイとエルは勝てるんだろうか。そう考えていると、スライムの触手の形状が変化していた。
「さ、三十本くらいある……しかも先っぽが枝分かれしているし、避けられなくない!?」
「避けなきゃ、俺たち仲良くひき肉なんだ、全力で避けて───」
ズドドドドドドッッッ!!!
アホみたいに生やした触手のムチが地面を揺らすほどに叩きつけられた。
だが、その狙いは俺たちではなく別の方向へと攻撃が降り注いでいた。
(まさか………!?)
レイチェルとエルフィーネなのかと焦った瞬間、また別の方角から白と黒の魔力弾がスライムを攻撃した。
「え、ええっ!? クロス置いてかないで!!」
「違うわッ! 俺も攻撃して無事を知らせんの!」
「そ……うか! ヨッシャ、やってやれ!!」
言われんでもやってやるわ!
圧縮に圧縮を重ねたタネに高速回転をつけて、あとはシンプルに当てたい方向へ照準を合わせればイイだけのこと。
「撃ェ─────!!!」
「ファイア!!!」
ゴッドスライムは幾重にも束ね重ねた触手の盾で俺の攻撃を防ごうとしたのだが、それすらもぶち抜いてヤツの身体の一部を吹き飛ばした。
「ッシャア!!」
「すっ、すげぇよクロス!」
「ふっふっふ、あたぼーよ!」
「あれ………? なんか怒ってない、ゴッドスライム?」
ギークの言葉でゴッドスライムを見れると、なんと触手が数えるのが馬鹿らしいほどに増えているじゃあありませんか。
そのままヤツは触手を大きくしならせて………。
ズドドドドドドッッッ!!!
「うわわわあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ………アレ?」
「ハァ……ハァ……ハァ……、危ねぇな」
「クロス……がやったのか?」
「ああ………、ワイヤートリック「彼岸花」大成功だぜ」
「な、何だかカッコイイ技だな、凄えよ!」
褒められるのは素直に嬉しいのだが、この「彼岸花」は自分の血と魔力でワイヤーを補強する技だから諸刃の剣なんだよな。
「あー……これ最後まで持つかなぁ?」
「持ってくれなきゃオレは困るぞ!?」
未来の俺に期待しててくれ。頭がボーっとしちやってるから、いま。
「ちょっ、クロス? クロスさん? なに満身創痍みたいな様子になっちゃってんの!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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ゴッドスライムは持久戦です。
いつも応援していただきありがとうございます!
それではまた次回でお会いしましょう。
研究所
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