第34話 校外学習⑤

 魔の森をぐるぐるぐるぐると、いつまで経っても南側にたどり着くことができないのは、きっとブラッド王子の魔法陣による影響であるのでしょう。


「少し本気を出してみましょうか」


「ノッたわ………!」


「息を合わせて下さいねッ───!」


 彼女───レイチェルも気づいているようで、空間にできた歪みのような箇所を睨みつけている。恐らく考えていることは同じなのでしょう、自身の純粋な魔力をぶつける技「魔力弾」を片手に作り上げている。


「「「Grrrrrraaaaaaaa!!!」」」


「「───せーのッ!!!」」


「「G─────………


 ズドンッと、特大の轟音を響かせる。白い魔力と黒い魔力が合わさって最強に見えますね、周囲にいた魔物たちのほとんどが余波で消えてしまいました。


 しかし、肝心の歪み自体は大きな波を打つだけでなんの変化も見られません。生まれてから初めてではないでしょうか、こんなにも多くの魔力を使っているのは。


「結構………自信があったのですが」


「はぁ………壊せると思ったのに全くの無反応って悔しいけどバカでも王子なのね、魔法に関しては天才よ」


 五時間ほどが経過し体感で残りの魔力は半分くらいでしょう。いくら一年間鍛えたからとしても訓練と実戦では戦い方に無駄が多くなってしまう。長丁場になることも予想して魔力を温存しなければならなかったのに、いかんせん吾たちには経験が少なくそれが仇となってしまった。


「「「Grururururu...........」」」


 もう新しい魔物が集まってきている。小型のものしかいないが、それでもかなりの数が吾たちの周りを囲んでいる───いや、正確にはレイチェルだけを狙っているのでしょう。


「レイチェル、すみません貴女にばかり魔物が行ってしまって………」


「………何でアンタが申し訳なさそうなのよ?」


「昔から………その、魔物に襲われた事がなくて」


「私が襲われるのはそのせいだって言いたいの? 舐めないで、これくらいどうってことないわよ」


「………ふぅ、失礼しました。今は耐え忍ぶことだけ考えましょう」


「初めから考えてるわ、よッ!」


「Gagya───!?」


 そう言って勢いよく魔物を蹴り飛ばした彼女。クロスさえ絡まなければ割と頼りになる存在なのですよね。吾の悩んでいたことなど本当にどうでも良さそうに断言してくれるその優しい冷たさが少し嬉しい。


「「え───?」」


 そう思っていた矢先、魔の森全体を紫色の光が明るく照らしたのです。二人して間の抜けた声を出したのは、その光が何かを転送した合図だったから。


 いつまでも呆けていては埒が開かないため、吾は影を使いながら近くの一番高い木の上へと移動して、光の発生したであろう北側を見る。


「レイチェル、アレが何か分かりますか………?」


 同じように身体強化したレイチェルが横に着いたため、目の前に映るモノを聞いてみる。


「あんなポヨンポヨンしたやつなんか知らないわよ、アンタこそ何か分かんないの?」


 あの形状の魔物といえば思いつくのは「スライム」ですが、あまりに巨大過ぎて合っているのか自信がない。


「スライム……まあ、あんだけどデカいんだったら自信持ってそうだとは言えないわよね」


「仮にスライムだとしてもあれだけの大きさは異常すぎます。一度、自分の知識にあるスライムから切り離して別種の魔物として認識しましょう」


「ええ、そうね………。あれ、もしかしてあそこにクロス向かってたりしない………?」


 またクロスのことを言い始めたと思いましたが、意外にも彼女の考えは当たっているかも知れません。仮にあのスライムもブラッド王子の仕業だとしたら、それを止めようとクロスは必ず動くハズですから。


「行きましょう、王子に抗議もしなくてはなりませんから………!」


「一発ぶん殴ってやるわ!」



▽▽▽▽▽


「まったく、自分の才能にこれほど恐怖した覚えは生まれて初めてだ………」


 事前にギーク少年から余の失敗を聞いて対策を取っていたハズなのだが、それでも運命というのは変えることが難しいようだ。


 エンペラースライムという巨大な魔物を誤って呼び出してしまい、シュヴァルツ嬢が他の生徒から誤解されて心を痛めてしまう───それが余の失敗。


「故に、呼び出さないよう魔法陣を改良したハズなのだがこれも失敗か………だがしかーーしっ!! イレギュラーにはイレギュラーをぶつければイイだけの話だ! 行けクロス! やれクロス! お前の力を見せるのだっ!」


 そう、たとえ失敗をしたとしても挽回をすればいいだけの話なのだ。ここまで順調に来ているのだから必ず成功させねばならん。


「他力本願とはまさにこの事。だとしても頼れる者がヤツしかおらんのでは仕方ないだろう」


 伊達に誰かを顎で使う立場におらんわいっ! 王様王子様王族様なんてものは系譜を辿ればみーんなただの山賊だった奴らなんじゃい! だから諦めが悪いのは当然なのだ。


「Grurururu...........」


「おおっと! ここにも余のファンが現れるようになってしまったか。しかし、魔物はノーサンキューだぜ?」


「「Grrrrraaaaaaaa!!!!!」」


 ダメだ。言葉が通じネエ。


「三十六計逃げるに如かず。相手して欲しかったら魔族言語を話せるようになりなさい!」


「「Ga......a?」」


 ほらソコ「何言ってんのアイツ?」みたいな顔で困惑するんじゃあありません。キミたち理性のない魔物でしょうに。


 いや、逆に考えよう。理性のない魔物であっても困惑させるだけの知性を身に付けさせた、そう考えれば流石は余である。カリスマ性のなせる業だ。


「にっげろーい!」


「「「Grrrraaaaaaaa!!!」」」


 本当にボキャブラリーのない連中だ。まだウチの口うるさい爺やの方が言葉を知っているぞ。


「うむっ! クロスと合流して倒してもらおう!」


 他力本願とは何と素晴らしいのか。頼んだぞ未来のクロスよ!


(とは言えあのスライムは一体どうするか。仮に令嬢二人が倒し切れないとしたらクロスに頼むことになってしまうぞ?)


 既に追加で転送されてくる魔物を含め、彼には全部の魔物を狩るよう指示を出している。いかに情報を持っているギークが一緒でも、彼の体力と魔力はあとどれだけ持つのかが分からない。


「早めに会わなければ………、保険として騎士団を投入できる準備はしてあるが使いたくはない」


 騎士団に問題があるのではなく、これは余のワガママなのだ。魔力さえどうにか出来れば、彼女たちは誰とでも良い関係が作れると信じている、そんな根拠のない確信があるのだ。


「やり遂げてみせるぞぅ! ほぼクロスとギーク頼りなのだかNE!!」


 あ、そうだ。もしかしたら魔物のついでにスライムも討伐してもらうかもと、彼に手紙を送らねば。


「さらりさらり、まるまるもりもり、かくかくしかじか、まるまるうまうま………と、よし!」


 そーれ! 行ってこーい☆



▽▽▽▽▽


「クロス! またタカが来たぞ!」


「なんのっ! 今度こそ腕に止まらせて───!」


「失敗だな! 手紙を読むぞ!」


 頭に食い込んだ爪がとてつもなく痛い。そろそろクリ○ンみたいな模様になっちゃいそうだ。


「えーと『もしかしたらスライムも───』」


「あんのクソ王子ィ! どれだけ人が頑張ってるか知らねえだろ!? 二人の運命がかかってそうだからやるけど! やるけど………!!!」


「あー……かばえないな、コレは」


 スライム戦のときは意地でも参加させてやる!





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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短くてすみません……。


いつも応援していただきありがとうございます!

それではまた次回でお会いしましょう。


                    研究所

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