第33話 校外学習④

 木々の間を走り抜けて少しでも長く、少しでも多くの魔物を引きつけなければならない。魔の森北部に位置する湖を中心に、俺は恐竜やクマなどの普通に死んでしまう魔物相手に逃走劇を繰り広げている。


「「「Grrrrrrrraaaaaaaaa!!!」」」


「少しだけでも間引くか………?」


 道中一緒にいたギークを駆けつけられる距離に隠れてもらい、身軽になった俺は新たに届けられた手紙の指示に従っている。


『万が一計画が失敗、もしくは中断した場合に備えて魔物を一掃できる魔法陣を設置している。クロスとギークは上手いこと立ち回って多くの魔物を引きつけておいてくれ。なお、飛行型の魔物は最優先で討伐し、それ以外は身の危険が及ばないのならばなるべく数を減らさないでほしい。これは長時間の戦闘をヴァイス嬢、シュヴァルツ嬢にさせて魔力の枯渇を狙うためである。ヨロー♪』


 読み終わった瞬間ビリッビリに破いてしまうほどの苛立ちが俺を襲ってきた。最後の一言が余計なのに気づかないのだろうか………と、それはそれとして指示の通りに行動はしている。


(二人を教師陣と騎士たちに合流させないための魔法陣が仕掛けてあったり、教師らと話をつけてあったりと、随分と用意周到なのはそれだけ本気ということなのか)

 

 レイチェルとエルフィーネの距離はかなり離れているが、それでも出られないように空間が歪曲する魔法陣を突破しようと大きな力を使ったのが判った。大きな音とともに黒い影と透明な壁が波打ったのが見えたからだ。


「Graaaaaaaaaaa!!!」


「デカいの三体やるかな………ハッ!」


「「「Ga───!??」」」


 人間離れしたスコッチにも効いたんだ、この特注のワイヤーは下手な刃物よりも鋭い切れ味をしているし、魔力を通せば倍近くの鋭さと耐久力になる。魔物であっても首や胴体を断ち切られれば死ぬことに変わりはない。


「「「Gyagyagyagya!」」」


「うぇ……人の顔の集合体? 鳥肌がスゴい……」


 たまに意味不明な奴もいる。目の前の人の顔でできた肉団子だったり、何種類かの動物を融合させたやつだったり、生き物だけどどこかズレがあるのが魔物なんだろうな。


 こんな奴らを相手に俺はかなりの時間逃げ回っているんだ。メンタルが弱い人だったら不眠症になりかねんぞ、まったく。


「キィ─────!」


(もう一時間経ったのか?!)


 ブラッドのペットだろうタカが足に手紙を付けて飛んできた。例の如く俺の頭に爪を食い込ませて止まり、あくびをかましている。


 コイツは一時間ごとに飛んでくるため、今回で五回目になる。俺がブラッドと会っていないのに彼のやってきた事を把握しているのは、タカが定期的にやって来るのとブラッドが俺の懸念していることを、あらかじめ手紙で伝えているからだ。


(人の不安を先回りして取り除くって、よくよく考えたら少し怖いよな………)


 王様でもなければ王子でもない俺は帝王学なんぞ学んだことがない。もしや、他人の心配事を予想できるような教育が王族には必要なのだろうか………いやそんな訳ないな。バカなことを考えていないで送られてきた手紙を読もう。


「Grrrrraaaaaaaaaa!!!」


(外野がうるさい………えーと? 「順調♪ 彼女たちの様子から、あと五時間もすればほぼ枯渇かと思える。頑張ってくれ」か………)


 危なかった。最初の一言目で破きそうになったが何とか耐えれた。どうやらエルたちも順調に戦っているようで安心した───その時だった。


「なんだ………あの馬鹿でかい光は?!」


 この湖よりもさらに北側に転送魔法特有の紫色の光が目に入った。しかし、その発光は今までの比ではないくらい、恐らくエルたちですら分かったのではないかと思うほどに大きな光だった。


 明らかな異常事態を前に躊躇などしていられない。俺はギークが隠れている岩陰に全速力で走り出す。すると、意外にも彼は隠れているのをやめてコチラに合流しようと前から走ってきていた。


「ギーク!」


「クロスッ! オレを抱えて高く飛んで!」


「分かったッ!」


 魔力を通したワイヤーで一際大きな魔物を拘束し、ギークを抱えてそれを踏み台に高く高く飛び上がる。目標は言うまでもなく光の発生源だ。


「───す、スライム………?」


 間抜けな声が出てしまうのも仕方ないのではないか。飛び上がり、目標地点を眺めたらそこにはとてつもなく大きなポヨンポヨンとオノマトペを出しそうな黒いスライム(?)のような塊が居たのだ。


「あれは───」


 何かを言いかけたギークだがその前に着地と逃走、誘導をしなければならない。


「くそっ、あのスライムの方角から来てるから近づけば近づくほど面倒になるッ!」


 片腕はギークに使っているから、必然的にもう片方の腕で大量の魔物たちを相手取らねばならない。余裕はあるがあのスライムも相手にするならば両腕を使える状態にしておきたいところだ。


 チラリとギークを横目に見れば、彼は何かブツブツと呟いて少し前の怯えや恐怖などはどこかに忘れてきた様子だ。


「Grrraaaa......A!?!?」


「今うちのギークが考えてるとこでしょ! 黙っていられないおバカさんは死ねィッ!!!」


「「「Gyaooooooooooo───?!?!」」」」


 大変に頭のよろしい俺は先頭の魔物の脚を斬り飛ばし、後続にとどめを入れてもらうのと運が良ければ足止めにもなるだろうと考えた。その案が上手くいき、目に見えて追いかけてくるやつらとの距離が開いた。


「クロス………もしかしたらだけど、この周辺の魔物は全部倒してもいいかもしれない」


 ようやく何かを思い出したか、考えがまとまった様子のギークが話しかけてきた。しかし、今の提案だとレイとエルに魔物が行かなくなるのではないだろうか。


「あの黒いスライムなんだけどエンペラー………いや、ゴッドスライムという魔物かも?」


「ゴッドスライムだと何で魔物たちを倒していいことになるんだ? オラッ転んどけ!!」


 彼は一度頷くと倒していい理由を淡々と簡潔に説明し出した。


「あのゴッドスライムかもしれない奴は、凄まじく耐久力がある設定なんだ。原作では設定だけ出てたんだけど、その一個下のエンペラースライムってヤツが本編に登場してるんだ!」


「強いのは分かるが、それはこの大量の魔物たちよりもなのか!?」


 説明をゆっくりと聞きたいのだが魔物たちがそれを許さない。むしろゴッドスライムとやらが現れたから、より殺気立っているような気配がする。


「あれは他の魔物を食べて回復するんだ! ただでさえ単体でエンペラーより上回るのに、回復なんかされたら魔力の枯渇云々の話どころじゃないぞ!?」


「………本当?」


そうだよッ!」


「キィ─────!!!」


「アアアァァァァァァァタカァァァアアア!!!」


 甲高い鳴き声を上げて俺の頭を鷲掴みにしたのは、毎度お馴染みブラッドのペット───タカです。ギークに止まってもいいんじゃないか?


「あっ、手紙が付いてるぞ!」


「イダダダダダダッ! ギーク読んで!!」


「わっ、わかったぁ! えーとなになに………?」


『拝啓 春の気配もようやく整い心浮き立つ今日この頃クロスもお変わりなくご活躍のこととお喜び申しし上げます。この度は余の長年の計画に参加して頂き誠に有難う御座います。順調に彼女らの魔力を枯渇させていたところ、思い掛けないサプライズに出会い驚きの限りです。クロスには全ての魔物の処理をお願い致したく筆を取らせて頂きました。天候も運命も定まらぬ季節でございます、ご自愛専一に殲滅を。ブラッド』


「死ィィィィィねエエエェぇぇぇ!!!」


「うわっシンプルな暴言!?」


 無駄に丁寧で、無駄に達筆なのがムカつく。この一件が終わったら殴っても許されそうな気がする。


「倒すぞギーク!!!」


「へ!? おっ、応!!!」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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それではまた次回でお会いしましょう。


                    研究所

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