第32話 校外学習③

「先生たちの所に行くわよ、エルフィーネッ!」


「───っ、分かりました!!」


 ブラッド•リィ•モールガン様の手紙を受け取ったクロスが紫の光に呑まれて消えてしまった。その色で発動する魔法は、王族にし使用できない「転送魔法」であると記憶している。


 目の前で起きたことに呆然としていたエルフィーネに喝を入れて再起動させた。この子、私と同じくらい勉強も地頭もいいハズなんだけど、自分の許容量を超えた出来事に直面したらフリーズしちゃうクセがあんのよね。


「あのバカ───ブラッド王子が何を考えてるか分かんないけど、私たちはクロスのためにも生き残るわよ!」


「………クロスは無事だと信じましょう。流石にブラッド様でも無闇矢鱈に他人を傷つけるお方ではないはずですし!」


 エンジンが掛かってきた様子の彼女を見て少しだけ安心した。訳もわからず次の行動方針を決められない状態だと、今よりもっとヒドイ結果しか生まれなさそうだからね。


 一先ずの目標としてプロケル先生をはじめ、教師陣がいるであろう南側を目指し走る。この魔の森は広大するぎるから、たとえ私たち一年生全員が中央に集まっていたとしても、それぞれの姿を確認することは難しい。


「荷物に緊急時用の発煙筒があったはずです」


 発煙筒………そうだ、忘れてた。こんな時のために生徒全員がそれぞれ一つずつ、赤い煙が上がる発煙筒を渡されていたんだった。


「あった………!」


 置いてあった荷物の中を漁れば赤色の円柱が目に入る───発煙筒だ。


「───え!?」


 私たちがソレを使おうとする前にパシュッと乾いた破裂音が耳に聞こえた、それもほぼ同時に何発も。


(なんで………私たちはクロスがバカに拐われたから使おうとしたのに、なんで他の生徒たちも発煙筒を使ってんの?)


「レイチェル! 遠くない距離に魔物がいます!」


「チッ………そうゆうことね、周りが使った理由ってのは!」


 急いで発煙筒を使って赤色の煙を出す。続いてエルフィーネと一緒に周囲を警戒しながら、当初の目的である教師陣と合流するため走り出した。


 きっとこの魔物とクロスのことは偶然じゃない。一体、何を考えて魔物を使っているのかは分からないが、ここまで危険なことをする見境のない性格ではなかった筈だ。


「アンタはあのバカが何をしようとしてるか分かる? 私は全ッ然分かんないんだけど!」


「情報が少な過ぎて何も言えません! それよりも周りの警戒を………一足遅かったようですね」


 前を走っていた彼女が突然、その足を止めて周りに気を配っていた。私は急に立ち止まったエルフィーネを怪訝な顔で見たが、同じように周囲を警戒してみると───。


「「「Grururururu.........!!!」」」


「案の定というか………魔物ね」


「他の生徒たちは無事だといいのですが………戦いますか?」


「そうね……正面にいるやつを倒して残りは無視。馬鹿正直に戦っても仕方ないんだから、先生たちと合流優先で邪魔なやつだけ倒す!」


「「「Gaaaaaaaaaah!!!」」」


 私たちの周りに集まってきたのは獣型の魔物たちだった。しかし、その量が聞いていた話よりかなり違い多い。なるほど、これだけ大量の魔物と遭遇すれば誰でも異常自体だというのは納得いく。


 幸いにも大型の魔物は見当たらないため、このまま教師陣と合流すれば、そこには私たち生徒よりも多くの騎士たちがいるはずだ。そのため、今ここでこの魔物たち全てと戦う必要性はないのだ。


「帰ったら抗議の手紙を送りつけてやる、百枚くらい!」


「お手伝いしますよ、レイチェル!」



▽▽▽▽▽


「ぶうぇっくし───!」


 ふむ、不思議なものだな。今日は特別冷えるわけでもえるまいに、このブラッドがクシャミをするなど。さては余のことを噂している者がいるな?


「まあ、おおよその予想はつく。クロスかギーク、ついでヴァイス嬢かシュヴァルツ嬢あたりだろう。この計画の中心人物だからな、今頃余への不満を爆発させているのだろう」


 特にクロスには申し訳ないことをしている自覚はある。決して故意にやった訳ではないと弁明しておくが、余の予想をはるかに超えて魔法陣の調子が良かったらしい。


「ふっ………、自分の才能が恐ろすぃな!!」


 長年研究してきた「魔物の転送」という魔法陣を完成させたのだ。かねてより「二人の令嬢の魔力を尽きさせる」という計画を実現させるためには、どうしても大量の魔物が必要になる。


 彼女らは自身の魔力を忌避しているため、生まれてから一度も全力を出し切ったことがないのだ。確かに魔力が尽きるまで出し切れば、それはそれで身体に大きな負荷を与えてしまい最悪の場合、死に至ってしまう。


「だが、彼女らは大丈夫だろう。死んでしまうのは短期間に何度も魔力を尽きさせてしまう場合のみであるからだ」


 魔力を尽きさせて何がしたいのか………と訊かれれば、彼女らが怖がられなくなるようにしたいと答えるだろう。


 余は二人の婚約者であった。しかし、その二人に初めて会った時、自分の内側からどうしようもない恐怖が湧き起こってしまい拒絶したのだ。


「あの時の二人の悲しい表情は忘れない………、いくら幼い頃であったとしても紳士の行動ではなかったのだ」


 故に、贖罪の意味も込めて余は二人が怖がられないようにするため、長年研究しそれが実行できるまでにいたったのだ。


「この魔法陣を完成させるまでが長かった………」


 有史以来ではないだろうか? 生き物を生きたまま特定の場所に連続して送ることは今まで不可能とされてきた。しかし、詳細は省くがこのブラッドが開発した魔法陣はそれを可能としたのだ。


「ただ………時として大いなる才能は自分を窮地に立たせることもあるのだな?」


 実験を繰り返して安全性を確かめたのだが、いざこの魔の森で発動すれば想定よりも倍近く魔物が転送されてきてしまった。数は少ないが、中には大型のものまで現れている。


 騎士団と教師陣には既に連絡を済ませており、生徒二人を除いた全員を保護するように命令を下しておいた。この日のために余の裁量で動かせる直属の騎士たちを警備に当たらせたのだ。生徒たちの安否は逐次コチラと教師陣へ連絡が行っており、魔物の発生源である魔法陣付近にはクロスを転送しておいた。


「クロスは本当に人間か? まあ、魔族一の暗殺者として生きる伝説として名高いアルゴに鍛えられただけはあるか………。本人は全く知らないようだがな、HAHAHA!!!」


 例年通りとはいかない緊急事態を引き起こすことは事前に伝えている。学園側から猛反対されたが余の騎士たちを貸すことと、いざという時に転送魔法を使ってほしいという条件は呑まされたが構わないだろう。なにせ余がやろうとしていることは酷く自分勝手な、私情を全面に出した計画なのだから。


「彼女たちの周辺に空間歪曲を引き起こす魔法を展開している。コレがあれば少しの間、戦いを余儀なくされるバズだ」


 クロスたちが引きつけている群れ、そこからこぼれ出した魔物を彼女らに当てる。七割ほどを任せている彼には悪いが恐らく大丈夫な気がする。そんな妙な信頼感をクロスとギークには感じてしまうのだ。


「ふっ………、普段なら考えられない事ではあるが悪くない気分だ。さて、余も余で万が一魔物を倒せなかった場合に備えて爆発の陣を設置しに行かねばならんな! 魔力を温存するためにも徒歩でしか移動手段を用意していないとはぬかったぞ!!!」


 まったくもって独り言なのだが、それはそれで思考がクリアになる。さあ、クロスたち四人よ各自ガンバッてくれたまえよぅ!!!






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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それではまた次回でお会いしましょう。


                    研究所

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