第31話 校外学習②

「はぁ……はぁ……はぁ……、何とか逃げ、きれたな、大丈夫か………ギーク」


「お、おう……! クロスが担いでくれてたおかげで何とか……」


「そうか………、ったく、ブラッドの野郎め、今度会ったら一発殴ってやる………!」


「あ、あはは………、ほどほどにね?」


 ブラッドから計画を実行したと思わせる手紙を貰った俺は、王族にしか使用許可が降りない転送魔法によって、同じ転生者のギークの元へと飛ばされた。彼が今まさにティラノサウルスのような魔物に食べられそうになっている寸前で、なんとか助け出すことに成功したのだが、その後ろからゾロゾロと大量の魔物が飛び出てきたんだ。


 一匹ならば身体強化の魔法を使って倒すことは難しくないのだが、戦いというのは数がものを云うことがほとんどだ。決死の覚悟を持って対峙する必要はないため三十六計逃げるに如かず、俺は迷うことなくギークを米俵のように担ぎ上げて逃走した。


「はぁ……ここまで来たんだ、もう計画を止めようとか思ってないから全部話してくれ」


「………本当か?」


「本当だ。逆に今ここで隠されるほうが怪しく思うぞ?」


 ギークは少しだけ俯いてどうするべきか考えている様子だ。まだそう遠くない場所に魔物たちがうろついている気配があるから、なるべく早く決断して欲しいところだ。


(………教師陣が話していた強さの魔物より、明らかに格上のやつがチラホラいるぞ。一体どうやって、コイツらでレイとエルの二人を手助けするんだ?)


 この騒動の元凶であるブラッドは一応彼女らの味方ということなのだが、どういった手段でもって何をしたいのかが分からない。あの秘密主義野郎め、憎たらしい顔面を引っ叩いても口を割らなそうだから困ったもんだ───と、そんなことを考えている間に、ギークはどちらかに決めたようだ。


「ふぅ………、よし分かった。今からブラッドのやろうとしていることについて話すよ」


「ああ、頼むぞ」


 一先ず、俺はこの計画の内容を聞くことにした。何をゴールに設定しているのか、どういった方法でそこまで導くかを知らねば次の行動が曖昧になってしまうからな。


「この計画の目標………ゴールはどこに設定しているんだ? あの強そうな魔物たちと関係しているとは思えないんだけど?」


「魔物たちの強さ自体に関係はないんだけど、その量には関係あるんだ」


「………というと?」


「今まさに彼女たちの元にもオレたちほどではないにしろ、多くの魔物が現れているんだけど、生き残るためには魔法を使って戦うだろ? それが目的なんだ」


「………ん?」


 怪訝な顔をした。魔物と戦うことは校外学習の一環として理解しているが、何でわざわざ魔物の量を増加させてしまうのか理解できない。そんな俺の心情を読み取ったのか、ギークは続けて補足説明をいれた。


「すまん、すまん、説明が足りて無かった。肝心要なのは彼女たちが戦いで魔法を───魔力を使うことに意味があるんだ」


「魔力を………?」


「そっ! 彼女たちが他者を恐怖させるのは魔力だろ?」


「あ………、だからか。大量の魔物が必要なのは戦闘を長引かせることで、レイとエルの魔力を限りなくゼロに近づければ………」


「───もしかしたら怖がられなくなる。原因自体が無くなるからね」


 そうだ、最初以外まったく彼女たちを怖いと思ってなかったから頭から抜けていた。根源的な恐怖というのは理性よりも本能に訴えかけてくるものらしく、慣れるのにも一苦労だとピピも言っていたな。


「なるほどな………大量の魔物の発生と魔力が底を尽きる、その二つとも下手をすれば死にかねないな。だから俺には言えなかったってコトなのか」


「そうなんだ───でここからが本題なんだけど、この校外学習はイベントとしてゲームに登場しているんだ」


「ああ、前に言っていたな?」


「ブラッドは一つ失敗をするんだ。エルフィーネが生まれつき魔物に襲われないのを彼は知らず、大量発生した魔物が彼女を避けて他の生徒を食い殺すんだよ。運の悪いことに、他者からしたらまるで彼女が生徒を襲わせている風に見えてね、一人孤立してしまうんだ。それがブラッドの失敗さ」


「魔物に……襲われない?」


 そんなこと聞いたこともなかった。今はメイドさんをやっているティアと出会った時、ウナギかナマズかは分からないが魔獣と戦った事があった。だからこそこの世界の常識に当てはまれば魔物も襲ってくるだろうと思っていたんだ。


「うん、襲われないんだ。彼女の正体………というのは正しくないな。エルフィーネは世界を滅ぼす「魔物の始祖」の生まれ変わりで、今の魔物は「始まりの竜」と闘った時の残滓みたいなヤツなんだ。魔物に襲われないのは、奴らの王様ポジションにいるからってこと」


「………絶望すると世界が滅ぶってことは、魔物の始祖ってヤツに変身するから、か?」


「………察しがよ過ぎてホントに未プレイかと疑うぞ? そうなんだ、黒い狼みたいな感じになって結構カッコイイんだよ」


「それで「始まりの竜」はレイ───レイチェルってことだな? 彼女も生まれ変わりで」


「やってたよね? 絶対やってたよね?」


 整理してみて後でギークと答え合わせだ。


 まず、エルフィーネ。彼女は「魔物の始祖」の生まれ変わり。この世界において魔物は敵であるため、そのボスが目の前にいたら誰だって怖い筈だ。地球で言えばヤクザやマフィアのトップとエンカウントするようなものだろう。だから生物は本能的に、その生まれ変わりである彼女───正確には彼女の魔力に恐怖するのだろう。


「当たってる?」


「う、うん、正解。彼女じゃなくて彼女の魔力に「魔物の始祖」は宿っているからね」


「よしっ、移動しながらレイチェルについても考えてみる。立てるか?」


「ああ、大丈夫、オレ担がれてただけだから」


 そう言ったギークに手をかして、今度はレイチェルのことについて考えよう。


 「始まりの竜」。「竜」の部分は大いなる力とか存在とか、この場合は恐らく後者だな。それで「始まり」は………何だろうか、サッパリ思いつかない。


「………わからない。答えを教えてくれ」


「了解! レイチェルの魔力はね───」


 流石に情報量が少な過ぎてどんなふうに考えていいかも解らない。俺の言葉を聞いたギークは、それはそれは嬉しそうに語り始めた。なるほど、さては話したがりだなお前?


「この世界に生きる魔物以外の全ての生物のご先祖様なんだよ。だからエルフィーネと違って、自分の会社の社長が睨みを効かせているような恐怖なんじゃないかな?」


「あー………分かる気がする。それで、絶望すると竜に変身しちゃう感じ?」


「しちゃう感じ。どっちも魔力を暴走させた結果だと思うよ」


 ストーリーの道筋が見えてきたような気がする。


 感情によって世界を滅ぼす可能性を持った二人。それは第三者からすれば、いつ爆発するかも分からない核爆弾に近い恐怖だろう。だからこそ、爆発する前に処理(殺害)をして世界に平和をもたらそうとしたわけなのだろう。


「天秤に掛ければ二人の犠牲を選ぶよな、世界」


「そうさせないために、ブラッドは魔力を尽きさせて恐怖の無効化ができないか試してるんだよ」

 

「………ホントに彼女たちの味方っぽいな」


「そりゃあ、元婚約者だし………?」


「は………? はあああぁぁぁぁぁ!??!?」


「えっ、知らなかったの!?」


「知らんわいッ!!!」


 知らな過ぎてビックリじゃわいッ!!!


「「「Graaaaaaaaaaaaah!!!」」」


「ぎゃーーーーー!! クロスのアホーー!!」


「やべっ! 逃げるぞギーク!!!」


 校外学習と計画は始まったばかりだ。いや、そんなことよりも婚約者云々の話をもっと聞かせてもらわなきゃならん!


「後にしろバカッ!!!」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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婚約者なんだ………。


いつも応援していただきありがとうございます!

それではまた次回でお会いしましょう。


                    研究所

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