第30話 校外学習①
「ひえええぇぇぇーーーーーーーー!!!」
「黙ァってろギークッ───!!!」
「だだだ、だって!! 魔物がぁ〜〜〜!!!」
「「「Graaaaaaaaaaah!!!」」」
「だから全力で逃げてンだろうがッ!」
「クロスもっと速く! 追いつかれちゃうって!」
「抱えてる
「ゴメン〜〜ー! 何も言わないから全力で逃げて下さ〜〜〜いッ!!!」
俺たち二人は現在、グレモリー学園が管理している「魔の森」に来ている。レイチェルとエルフィーネの二人が一泊二日の校外学習をここで行うため、当然のごとく俺も参加しているのである。
「魔物ってゆうより恐竜じゃんっ! こんなの原作になかったよ!?」
「Graaaaaaaaaah!!!」
「恐竜って足遅いんじゃねェのか!? 魔物だから速いのか!? くそっ、ブラッドの野郎………戻ったら説教してやるッ!!」
そんな俺が何故、ブラッドに保護されているギークと共に魔物からの大逃走劇を繰り広げているのか。それは今から少しだけ時を遡る。
▽▽▽▽▽
校外学習当日。
俺ことクロスは、主人である二人の付き人として行動を共にしている。既に森鹿族のプロケル先生を含め教師陣とは別れており、この広大な魔の森の中央に移動している。
「ホンットに無駄に広いわね……この森」
そう言ったのはレイチェルだ。純白の髪を左右に結んでお団子のようになっている。服装は普段よりもかなりラフなショッキングピンクの長袖とスカイブルーの長ズボン、その中に伸縮性に優れたインナーを着込んでいる。
「他の生徒が見当たりませんね? 管理がされているとはいえ、こうも広大では万が一を考えてしまいます」
少しだけ不安を口にしたのはエルフィーネ。艶のある黒髪をローポニーにし、ライムグリーンの上とミルキーホワイトの下というレイと同様にラフな格好だ。
「生徒の数より教師陣と騎士団が三倍もいるし、魔物も弱いものしか出ないってことらしいけど、油断はしないようにな?」
「「はーーい」」
「後ろだッ───!」
「「───ッ! ん?」」
注意をしたのだが気の抜けた返事だったため、少し驚かす意味も込めたウソをついた。案の定、二人は引っかかってしまい抗議の目をくれるが知らんぷりを決め込む。
「ほう………クロスも吾相手によくやるようになりましたね? 今現在、この森で貴方にとって一番危険なのは誰だか教えてあげましょうか?」
「襲うわよ? 性的に襲うわよ? もう一般の雑誌には載せられないくらいエグいことされる覚悟がアナタにあるの?」
「思春期だなぁ………、二人とも本当に気ぃ抜けてたから危ないんだよ。照れ隠しに攻勢に出るのは止めなさい」
「「うぐ………!」」
彼女たちは俺のことを「ドスケベ」だと言い始めたあたりから、自分が好意を持っていることを隠さないようになってきた。まあ、約一名「貴方が吾を好きなんです」と言い張る人がいるけど。
立場云々を抜きにして、俺が彼女らに向ける好意は男女のそれではなく、あえて言語化するのならば父親のような目線からの好意なのだろうと思う。二人が友達を作ったり、出来ることが増えたりと、ささいな成長を見せるたびに嬉しくなるのだ。
「一先ずテントを張るから二人は薪木を取ってきてほしい。なるべく多く乾燥しているやつがいいな」
閑話休題。
ただ一つ、この校外学習で懸念事項がある。魔族の国の王子であるブラッド•リィ•モールガンが計画していることが、今回起こるのだ。
(詳細は訊けなかった………、俺が反対するからとこのとだから、恐らく二人に少ないくない危険が及ぶことをやるつもりなんだろう)
俺と同じようにこの世界に転生してきたギークが言っていたイベント。その舞台がこの校外学習であることは彼の口から聞けている。
(ヒントは離れないこと、信じること………か)
それを守ればレイたちにとって良い方向へ進むというのならば、俺は死んでも守ってやる。絶望が彼女たちを死へと運ぶなら、希望を持たせて意地汚くてもいいから生き残らせる───それが俺の目標だ。
「クロスー、こんなんでいいの?」
「おー、そんな感じのヤツをあと少し集めてくれ」
「二人とも、近くに川が流れて魚も泳いでいましたよ。後で捕まえましょう」
まだ起きていないことに気を揉んでも仕方がない。取り敢えずはこのキャンプ地を中心に、校外学習を完遂することを目標としよう。二人にテントの手伝いをしてもらえば、時間にして昼前だろうか。
「よっしゃ、テントができたら焚き火を確保して、その後にエルが言っていた川を見に行こうか」
「私が火を着けてみたい!」
小さな子供のようにはしゃぐレイを見ると、何だかアレコレと考えて悩んでいる自分がバカに思えてくる。彼女のように思考をシンプルにしよう。今は二人の手伝いを、ブラッドの計画が起こればそれをヒント頼りに達成すればいいのだ。
「うおぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」
「………その叫び声は必要なのですか?」
「必要に決まってるじゃない、火を起こすにはこうやるのがマナーって書いてあったのよ」
「それって………、レイがハマってたマンガに載ってたやつ?」
得意げな顔で「そうよ!」と云うのだから、これ以上何も言えない。マンガでやっているのは一種のパフォーマンスに近いものがあるので、全部が全部合っているとは限らないからね。
「───ほらっ!」
「はいはい、すごいですねレイチェル」
「ちょっと………バカにしてるでしょ?」
「叫ばなくてもよかったのでは………と、考えなくもないだけです」
「む…………必要だったのよ」
劣勢と悟ったのか、レイチェルは立ち上がるとすぐにエルの見つけた川へと歩いて行ってしまう。俺とエルもそれに続いてゆっくりと川の方へ足を運んだ。
「おー、透明度が高くて底にいる魚までくっきりと見えるな!」
「素手で捕まえるのもキャンプの醍醐味だと思ったのですが、魔物の襲撃を考えるとコチラのお手製釣竿のほうが良いかと考えまして」
「いつの間に作ってたのよ? なんか妙に手の込んだ作りになってない?」
「フフフ、もっと褒めてもらっても構いませんよ? この日のために練習したのですから」
エルもエルで釣竿を用意するくらい楽しみだったらしい。「浮かれてんのね」と言ったレイの一言で、彼女には珍しく顔を赤くしていたのがその証拠だ。
「せっかくだから使わせてもらうぞ、ありがとうなエル」
「………っ、か、構いません」
「私も使わしてもらうわよエルフィーネ」
こうして三人仲良く少し高い岩に乗って釣りを楽しむことにした。周囲への警戒を怠らずに耳を澄ますと、森の木々の間を通り抜ける風や流れる川の音が何とも心地よい。
チラリとレイを見れば、意外にも彼女は獲物が食いつくまで集中していられるようで、瞬きをする以外は微動だにしない。一方、釣竿の製作者であるエルは読書を好むのにジッとしていることができないでいる。
(知っているようで知らないことの方が多いっていうのは、なるほど本当のことだな)
穏やかな時間が流れる。
これから大変なイベントが起こるなんて考えられないくらいに平和だ。
焦りすぎていたのかも知れない。先のことを考えるあまりに今を大切にしていなかったのだ。
そう考えた時だった。足に手紙を付けた一匹のタカが俺の頭に爪を食い込ませてとまったのだ。
「クロス、そのタカは何ですか?」
「ちょっとだけゴメン、席外す。モールガン様のペットだと思うから、手紙も俺宛てだし………」
「分かった、あまり遠くにいっちゃダメよ〜〜?」
「お〜う」
タカを腕に移動させようとしてが更に爪を食い込ませてきたため断念。仕方なく頭に乗せたまま手紙を開いてみると、内容は簡潔なものであった。
『思ったより魔物出てきちゃった。対処してクレメンス♪ なお、この手紙を読み終わり次第自動的にキミは転送される』
「は………? えっ、ちょ、待っ─────!?」
「「─────クロス!?」」
「諦めんな! 生きろ! いいな!?」
それだけ伝えると俺は紫の光に呑まれた。
▽▽▽▽▽
「転送された瞬間にギークを抱えて地獄の鬼ごっこなんて、誰が考えんだよ!!!」
「ゴメーーーン!! オレが思うよりブラッドって頭ぶっ飛んでた!!!」
「Graaaaaaaaaaaaaaaah!!!」
「ドチクショー!!! 絶ッ対ェ殴ってやる!!」
逃走劇は始まったばかりなのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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それではまた次回でお会いしましょう。
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