第25話 鼓膜が死ぬ
「結局、この世界ってジャンル的になんなんだ? RPG? アクション? さすがにレースってことはないよな?」
地球ではないこの異世界はギーク曰く、ゲームかライトノベルを原作に持つようだ。だが、前に聞いた話だと彼自身もどちらをベースに作られているのか判断ができていなかったのだ。
「え? 普通に恋愛ゲームだけど?」
「………普通の恋愛ゲームで世界が滅ぶのか?」
「そうだけど………?」
何てこったい。ゲームやラノベなんかのサブカルチャーにほとんど触れてこなかった俺だが、どうやら生前の世界では、恋愛ゲームでも世界崩壊がデフォルトで設定されていたらしい。
「あー……そうだ! この前は分からなかったけど、この世界はゲームかラノベのどっちかは分かったのか?」
「ゴメン、それは分かってない……結末は大きく変わらないんだけど、登場人物が追加されているハズなんだ。その人を見つけられたらなぁ………」
あるあるだな。よく、原作にいなかったハズだがストーリーの整合性を保つために登場人物を追加させることは珍しくない。さて、問題はそれが誰であるのかなんだが、知り合いに居ればいいな。
「名前とか特徴とか……何かヒントになるものはないのか?」
「ああ、それなら簡単だよ。このグレモリー学園の二年生で魔王の息子ブラッド•リィ•モールガンって名前。その人がいるとゲームなんだ」
よかった、その人(魔族)なら今キミの後ろで決めポーズをしているよ。
「なら、この世界はゲームだな。入学式のときに在校生代表で挨拶をしていたから」
「そっかそっか………だとすると直近で起きるイベントは───」
そこまでギークが言いかけた時だった。今まで「転生者」だの「ゲーム」だの。この世界の住人である者からすれば、訳の分からないことばかり話していた俺たちを静観していた彼───ブラッドが突如として会話に入ってきた。
「ギイィィィィィイイイクッッッ!!!」
騒がしい。
「どわぁあああぁぁぁーー??!?!」
「コノッ! ブラッド!! リィ!!! モールガン!!!! がっ!!!!!」
存在がうるさい。
「まままっ、魔王の息子ォッ!?!?」
「キミうぉッ!!
無駄にハイテンションなのがまたウザい。ああ、ほら、驚いてたギークがノリについて行けなくてポカーンと呆けてしまっている。
「……………」
「うん? 余に保護されるのがお嫌いかな、転生者のギークくん? なに、
「で、ででっ、でも! アンタら魔族は人間が大っ嫌いで………!」
「ノンノンノンノン! どんな前提知識があるのか知らないが、人間も魔族も良いヤツ悪いヤツがいるだろう? ギークが知っている「人間大っ嫌いな魔族」はそういう奴らのことさ」
「決まった」みたいにウインクしたブラッド。しかし、そう簡単にギークが説得出来るとは思えないのだが………。
「そっ……そう、かも? そういえば、あのヴィッドでさえ殺そうとしてこなかったし、人間サイドから見ただけで本当は………」
それでいいのかギーク。まるで全巻揃えていた漫画を読み返してみたら、実はネットにも書かれていない裏の設定を偶然にも発見できてしまったかのような、そんなキラキラした目を彼はしていた。
直近のイベントについて話そうとしたギークに、話の続きを聞きたかったのだが、このタイミングでブラッドが会話に割り込んできたということは何かあるのだろう。
「モールガン様───」
「この三人であれば普通に話してよい。それと余のことはブラッドと呼べ」
「………ブラッ」
「ぬぁんだねッ!?」
「うるさっ───いや、何であのタイミングで会話に入ってきたんだ?」
もうこの騒音王子だか、拡声器殿下だかわからないヤツのテンションに、俺はついて行くのが疲れてきたぞ。
「ふむ、それはだな………直近のイベントというとギーク、一年生の校外学習のことではないか?」
「そうだけど………アンタがそこで───」
「おっと」
何かを言いかけたギークの口を、何処から取り出してのか先端がバッテンになっている棒でふさいだ。やはり何かを隠しているか、企んでいるな。
「そう怖い顔をするなクロス。確かにギークが言いかけたように余はある計画をしているのだが、それは彼女らを想ってのこと。決して悪意で動こうとしているわけじゃあないんだ」
「じゃあ何でギークに言わせない?」
「例え悪意がなくとも褒められた方法ではないからだ。しかし、何があろうとも余は実行に移すぞ? それで彼女らが、怖がられなくなる可能性が生まれるかも知れないのだからな?」
俺はその言葉を聞いて驚いてしまった。レイチェルとエルフィーネの二人が、他人から怖がられなくなくなる? 仮にそれが可能だとすれば、ますます彼女たちが死なないで済むかもしれない。視線をギークに移し、ブラッドが言っていることが本当なのか確認してみる。
「ギークよ、キミは余の計画の全てを知っていそう故、頼む。解決のヒントをクロスに教えるのみに留めておいてくれないか」
「うっ………それは───」
ブラッドが、一国の王子が頭を下げていた。例え、フィクションでしか王子という存在を知らなくとも、頭を下げるという行為の意味を知らないギークではない。
ギークは「うーん…」と唸りながらも決めたのか、俺の方へ向かって謝ってきた。
「………ごめん。オレ、自分を世話してくれる人を裏切らない。だからヒントだけ言うけど、イイ?」
「………ホントなら全部話してほしいけど、仕方ないよな。ああ、ヒントをくれギーク」
「ははっ、ありがとうクロス。ヒントは彼女たちから離れないことと、信じてあげること……かな?」
「わかった、ありがとうギーク。ブラッド、きっと俺が反対するようなことを起こすんだな?」
ブラッドはこの時ばかりは空気を読んだのか、ハイテンションな返しはして来ずに頷くだけだった。
俺は他にも何か色々訊こうとしていたことがあったのだが、変に気負っていたのか、精神的に疲れてしまった。ふと二人を見るとギークは俺と同じように疲労の色が見え、心なしかブラッドもテンションを落ち着かせている。コイツの場合、少し疲れさせてから話したほうがいいんじゃないかな。
「そうだな、余もその計画の準備をしておきたいから、今日はここまでにしておこう。クロスも、ヴァイス嬢とシュヴァルツ嬢の元へ帰りたまえ」
「いや、まだ時間は………え? もう一時間も経っていたのか!?」
「ご、ゴメン、オレが驚いたり悩んでばっかだったから、無駄に時間経っちゃった……?」
一応の断りを入れているとはいえ、こう何度も二人の側を離れることはあまりしたくはない。ギークに「気にするな」と声をかけて、俺は素直に帰りの支度を始めた。
帰りの途中、あの光る地下通路で俺は前を歩くブラッドに質問をする。
「ブラッド───本当に敵じゃないんだよな?」
「誓おう」
足を止め、振り返り、そして真っ直ぐに見つめて発した短い言葉。たったそれだけの言葉だったが、何故だか妙に信じられる気がした。
「………ありがとう」
「ふっはははっ! なに、構わんともッッ!!!」
うるさかった。やはりコイツと会話する時は、少しだけ疲れさせてからじゃないと鼓膜が死ぬな。
苦笑いをしながらも俺は彼の後ろをついて地上に出て、そして自分の主人たちが待つ寮へと帰るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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タンスの悪魔に小指を持って行かれた作者です。
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