第24話 土下座から始まる交渉術
「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁああああああああぁぁあぁぁぁぁーーーーー!!??!?」
部屋を破壊せんばかりの大絶叫だった。
「おっ、おおお、お前……お前がおっ、俺と同じてんっ、転生者だってぇ!?!? はぁぁぁ!?? なっななな、なん、えぇ……?? マジで……?」
まだ朝早い時間に加えて、仮にも病み上がりのギーク。しかし、そんなことはお構いなしに大声を上げ、混乱の極みに彼はいた。
「落ち着けギーク。俺もお前に訊きたい事があるんだから、そんなに取り乱されると困るぞ」
何故こんなにもオーバーなリアクションが返ってきたのか、てんで分からない。兎にも角にも、これ以上焦ってもらっても時間を無駄に消費するだけで、まったくもって建設的ではないだろう。
「お互いに一つずつ質問していこう。そうすれば俺もギークも前に進める───どうだ?」
「あっ、ああ………分かった、そうだな……うん」
三回ほど深呼吸をした彼は、幾分か血色の良い顔色を取り戻した。しきりに指を動かしながら恐る恐るコチラの様子を伺い、そして覚悟を決めたように話し合いを開始する。
「クロス……は、転生者ってホント?」
「本当だ、前世もあるしな。ギークは何でそんなに焦っているんだ?」
「だって……転生者同士は殺し合ったり、する、のがほとんどだろ?」
彼曰く、異世界などで転生した者同士はお互いの主義主張がまるっきり噛み合わないため、どこかしらのタイミングで殺し合いや騙し合いに発展するとのことらしい。当然のごとく俺はギークを殺そうなどとも、騙そうなどとも考えていないため、その心配事はまったくの無駄だと思うのだが。
「俺はそう考えていないんだが……。そうだな、当面の目標は確かにある」
「それは……なんだ?」
「待て、次は俺の番だ。ギークの目標というか目的なんかはあるのか?」
「オレの目的………」
質問自体はそう難しくないはずなのだが、彼は俯いたまま答えようとしない。いや、答えようとしてはいるのだが、明確にコレだという目的やら目標というものが思い浮かんでいないのかも知れない。
「ギークはさ、この世界に来てどう思った?」
「どうって……そりゃあ、異世界なんだから魔法とかあるのかなって……」
「ワクワクした?」
「うん……」
「異世界で魔法があって魔族がいて……それで、何でワクワクしたんだ?」
「何でって……魔法だぞ? 魔法なんて眉唾モノだった科学の世界から、こうやって魔法が存在しているんだ! 興奮するなってほうが無理だろ!?」
「魔法が好きなんだな」
「ああ、大好きだ! オレってば小学生の頃からイジメられてたから、それでゲームや漫画、ライトノベルなんかをずっと読んでたんだ。ジャンルはそれぞれで違っているんだけど、やっぱり異世界に転生とか転移とかしてさ! 魔法やスキル、現代科学の知識チートなんかしてるのを見ると「ああ……オレもやってみてぇ」って思うわけよ! 例えどんなに現実がクソみたいでも、そこに出てくる主人公ってヤツは輝いてるんだ! 新しい目標をもって、カワイイ女の子たちにモテて、世界を救って! 登場する人物を片っ端から助けて………………みんなから認められるんだ」
「カッコいいな」
「あぁ……めっちゃカッコいい」
ポロポロと不意に涙を流し始めたギーク。興奮気味に語っていた彼の前世での出来事と今の自分とを重ね合わせ、どこか理想と外れたように尻すぼみに声が小さくなっていった。サブカルチャーが大好きで、それに登場する主人公のようになりたかった彼は、まさか本当に夢にまで見た「異世界転生」というビッグイベントに直面し、自分も主人公になれたのだと考えたのだろう。
しかし、例えここが魔法が使える異世界だとしても現実に変わりはない。理想としていた主人公たちがやってきた事を彼がやれているかと訊かれれば、恐らく「ノー」だ。ギークも喋っているうちに、今の自分と漫画の主人公との差を感じたのだ。
「そんな主人公にオレはなりたかった」
「………もう過去のことなのか?」
「ああ……もう過去のことだよ。異世界でも現実なんだって、改めて思い知らされた」
「そうか……」
「あのさ……クロスの目標ってなんだ?」
目標───決まっているじゃないか。俺はそのために買われて、そのために身体も心も強くあろうと頑張ってきたのだから。しっかりと彼の目を見て、笑いながら答えた。
「俺の目標はさ、
「嗚呼………すごいなぁ……それがクロスの目標なのか」
もう一度ギークは「すごいなぁ」と呟いた。諦めた夢を目の当たりにしたような、羨望が混じったような、或いはもっと別の何かが彼の口からこぼれ出た。
「きっと、クロスこそがこの世界の主役───」
「それは違うぞ」
「え………?」
「ギーク、お前も言ってたじゃないか、ここは異世界でも現実だって」
「……そうだよ、だから同じ転生者でもクロスこそが、この世界に選ばれた」
「だから違うんだって」
ギークは怪訝な顔をして何を言っているのか分からなそうにしている。馬鹿なヤツだ、きっと大きな勘違いを───自分が脇役のような何かだと思い違いをしているのだ。
「主役や主人公なんてな、どこの世界にも溢れかえっているんだぜギーク?」
「主役があふれ………何を言って」
「お前、まさか自分のことを脇役だとかモブだとか、そういった類の枠に当て嵌めてないか?」
「だっ、だって! だってそうだろう!? クロスは大きな目標があるのにオレは何もないんだ! これがモブじゃなくて何だって言うんだよ!!」
そうだ、そうなんだよギーク。怒ってもいいんだよ。自分を卑下して貶めて、それでもやっぱり心のどこかでは諦められない部分が人にはあるんだ。諦めたフリをしてモブだの脇役だのに逃げ込むのではなく、自分こそが主人公だと胸を張っていいんだ。
「ギーク聴いてくれ」
「………なにさ」
「俺が守りたいのはレイチェル•ヴァイスとエルフィーネ•シュヴァルツなんだ」
「………は? はぁっ!?? クロス、お前!?」
分かっている、と言って彼を落ち着かせる。レイたち二人が世界を滅ぼすこと、アーサーが二人を倒すことを教えてくれたのは、何を隠そうギーク本人なのだ。
だけど、本当に彼女たちは良い子なんだ。優しくて思いやりがあって、人付き合いが苦手で意地っ張りで、凶悪な笑顔がカワイイ、そんな普通の女の子たちなんだ。だからこうして、プライドもクソもなく土下座までして真摯に頼み込むんだ。
「ちょっ───土下座なんかして何してんの!?」
「頼むギーク、彼女たちを守りたいんだ」
「守りたいって……前に話しただろ!? 彼女たちがこの世界を滅ぼすんだぞ! そんなの無理に決まってるじゃないか!?」
「ギークは言ったよな、「絶望した彼女が世界を滅ぼす」って……」
彼は黙って俺の言葉を聞いてくれた。彼女たちを助けたいこと、絶望させないこと、そしてその為にギークの力を借りたいことを。この先、彼の助力を得られれば最悪の未来を回避できるかも知れないのだ。俺はみんなが笑顔になって終わるハッピーエンドが大好きなんだ。
「………オレが実際に彼女たちを見て、それで決めてもいいなら……いいよ」
「本当かっ!? 本当にいいのか!?」
「怖いのは前に体験したけど、それな本人の性格と繋がっているとは思っていないから………。それに、上部だけの情報に惑わされて酷いことをしたくない。オレはそれでイジメられたことがあるから」
心の中でガッツポーズをした。ありがたい、本当にありがたい。俺は彼のように事前情報も何も持っていないから、この先に待ち受けているものが何かを予想もできなかったんだ。ギークは「ところで」
と続ける。
「───何で彼女たちを守りたいの?」
「ん? カワイイは正義、だろ?」
「綺麗事言って、結局は性欲かよっ!?!?」
「失礼だな、純愛だよ」
ホントだよ? クロス、ウソ、ツカナイ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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