第21話 ティアは秘密を知っている
「ふぁ………朝だぁ〜〜」
おはようございます、ティアです。今日も元気にメイドさんをやっていく、えっと、一…二……八歳の女の子です。
気がついたらご主人様のエルフィーネ•シュヴァルツおじょう様に出会って、まだ名前もなかったからティアと名づけてくれました。
ティアはおじょう様と会う前のことをなにも覚えていません。お父さんもお母さんも、もしかしたら姉妹や兄弟がいたかもしれないけど、なにも覚えていません。きおくそーしつ? というものらしいです。
「準備しなきゃ……ふぁ…」
でも大丈夫です。だってティアには、おじょう様たちやクロスお兄ちゃんがいるから!
「う〜〜〜水つめたいよぉ」
おじょう様と会った時は怖かったですが、今では少しだけしか怖くありません。最初のころは下からお水がジョジョジョーーっと、それはそれは勢いよくやってしまいました。
「スーパーメイド! ティアッ!!」
うん、カンペキです、パーフェクトです、フルアーマーティアです。これなら今日もメイドさんができます。
「フルアーマーティアさーん、カワイイから早く朝ごはん食べに行くぞー」
「ピョッ!? おおお、お兄ちゃんいつからそこにいたの!? ノックぐらいしてよ!」
いつの間にか扉の前にいたのはクロスお兄ちゃんでした。身体が大きくて優しくて、お料理がとても上手なティアの大好きなお兄ちゃんです。
「三回はノックしたよ。したのに出てこないからこうやって入って来たんです。ほらっ、準備が終わってるなら行くぞ」
「あっ、まってまっていま行くから!」
クロスお兄ちゃんは夜おそくまでお勉強をして、おじょう様たちの身の回りのお世話をして、それで朝早くからティアを迎えに来てくれたり、朝ごはんの準備までしているスーパーひつじさん……しつじさん? なのです。
先にいったお兄ちゃんを追いかけて、ティアも急いで準備をします。
「いただきまーす!」
「はい、どうぞ。よく噛んで食べるんだぞ?」
「あい!」
ティアはよく挨拶や返事が元気いっぱいで良いとほめられます。元気に挨拶をするとみんな笑ってくれて、ティアも嬉しくなるからです。
この学校に来てからは毎日がとってもたいへんだけど面白くて楽しくて、それで新しいお友達もできました。その一人がゆーしゃのお兄さんです。アーサーお兄ちゃんはとっても優しくて、ティアといっつも遊んでくれるから大好きです。
「ごちそうさま! いってきます!」
クロスお兄ちゃんにお礼を言って、さっそくエルフィーネおじょう様を起こしにいきます。これもメイドさんのお仕事なんだけど、ティアが起こす前におじょう様はもうとっくに起きているのです。
扉を三回ノックして少し返事を待つのができるメイドさんらしいです。つまり、ティアはとても優秀なメイドさん、スーパーメイドさんなのです。
『ティアですか?』
「あい! おはようございます、エルフィーネおじょう様! 朝ごはんができています!」
ギギギと扉が少し開くとエルフィーネおじょう様がスキマから顔を出して「少しまってて」と言います。やっぱりチョットだけ怖いです。
でも、おじょう様よりももっと怖いのが、おじょう様の部屋の中なんです。だって、この前お部屋の空気を入れ換えしようと入ったら、カベや床、天井のあらゆるところにビッシリとクロスお兄ちゃんの写真が貼ってあったのだから。
『貴女は何も見ていない、いいですね……?』
ビックリして動けないティアの肩を、いつの間にか部屋に戻っていたエルフィーネおじょう様につかまれて、そう言われてしまった。その時だけは魔力とか関係なく、色んな意味で怖かったです。
「おはようございますティア。今日もしっかりメイドさんをしていますね」
「おじょう様もカワイイですね!」
「んっ………そう、です、か。ティアはいい子ですね、クロスにお菓子をあげるよう言っておきます」
「わぁ……! ありがとうございます、おじょう様!!」
うん、おじょう様はとっても優しい。怖いけど、ティアにとっても親切にしてくれるから大好きです。
「吾は朝食を頂きに行きますので、ティアはレイチェルを起こしに行ってください」
そう言っておじょう様は朝ごはんを食べに行ってしまった。言いつけ通りにレイチェル様を起こしに行かなくてはいけません。
レイチェル様はクロスお兄ちゃんのもう一人のご主人様です。エルフィーネ様と同じくらいキレイで優しくて、とってもティアは大好きです。なので廊下を走らないくらいのスピードでレイチェル様を起こしに向かいます。ノックを三回。
『んぁ……? ティア……? もう朝なんだ』
レイチェル様は少しだけお寝坊さんです。ティアが起こさないとお昼まで寝ていることがあったくらい、とっても自由な人です。
「ふぁ……おはようティア………」
「あい! おはようございます、レイチェル様!」
「今日の朝ごはんって何かしら……?」
「パンとサラダに目玉焼きです! あっ、スープもありました!」
「サラダかぁ……お肉出してほしいなぁ〜〜」
レイチェル様と最初に会った時はエルフィーネ様と同じように怖くて、二人っきりだと下からお水が出てくるほどでした。でも、今ではまったく問題ありません、ティアも日に日に成長しているのです。
「お兄ちゃんがレイチェル様用にソーセージを焼いていました!」
「ホント! やったー!!」
レイチェル様はとってもお肉が大好きです。
この学校に来る前の四人で住んでいた時、レイチェル様がお兄ちゃんをガブガブしているところに出会ってしまったことがあった。ティアはレイチェル様が、お肉が大好きすぎてついにお兄ちゃんまで食べてしまうんじゃないかと思ってしまったんです。
だから大好きなお兄ちゃんを食べられないよう、わんわん泣きながらも守ろうとしたことがありました。ただ、それはティアの勘違いだったらしく、お兄ちゃんが言うには「一種の愛情表現」とのことらしい。
だったらティアもやろうとしたら、色々言われて止めました。一回しか見たことないけど、ガブガブするのはレイチェル様だけの特権らしいです。
「それじゃあティアはアーサーをよろしくね?」
「あい! アーサーお兄ちゃんを起こします!」
レイチェル様は少しだけ眠そうにしながら朝ごはんを食べに行きました。ここだけの秘密だけど、レイチェル様のベッドはヌルヌルして濡れていることがあります。多分おねしょをしてしまい、それが言い出せないのだと思います。
それをコッソリとクロスお兄ちゃんに伝えると、どうやら大きくなってもしてしまう人はいるらしいので、もう誰にも言やないよう約束させられました。ティアはできるメイドさんなので、きっちり約束するとお菓子をくれました。えっへん。
そんなことを考えていると廊下の先にアーサーお兄ちゃんが歩いて来ました。
「アーサーお兄ちゃんおはよう!」
「おはようティアちゃん、今日も元気にメイドさんをやっていてスゴいね!」
「えっへん! スーパーメイドのティアです!」
アーサーお兄ちゃんは男の人なのにスッゴくキレイなんです。サラサラの金色の髪が少しだけ羨ましいです。ティアはくせっ毛なので。
「ティアちゃんは朝ごはん食べた?」
「残さず食べたよ! エライでしょ!」
「わおっ、それはとってもエライぞぉ!」
とっても褒めてくれて頭もナデナデしてくれるアーサーお兄ちゃん。そんな優しいお兄ちゃんですが、ティアしか知らないチョットした秘密があります。
それは、アーサーお兄ちゃんは趣味で女の人の格好をするのが大好きなことです。これは例えクロスお兄ちゃんでも言ってはいけないことだと、さすがのティアでも分かります。
この前、クロスお兄ちゃんを探している時にお部屋に行ったら少しだけ扉が開いていて、そこのスキマからアーサーお兄ちゃんが見えました。声を出そうとしたら、露出の多い服を鏡の前で持っていて声が出せませんでした。
レイチェル様の勘違いもあったので目をゴシゴシしてもう一度見ると、すでに着替えは完了していて疑いようのない現実がティアを襲いました。でも大丈夫、そんな趣味の人がいることをティアは知っているので、スーパーメイドは心が広いので受け止めますとも。
「アーサーお兄ちゃん、ティアは味方だよ?」
「へ……? あ、うん、ありがとう。でも何でボクのことを同情するような目で見るの?」
人には言えない秘密が一つや二つあるのをティアは理解しています、スーパーメイドなので。
そんなアーサーお兄ちゃんの手を引いて、ご主人様たちがいるところに連れて行きます。
「いこっアーサーお兄ちゃん!」
「えっ、あっ、うん!」
ティアは今日も元気にメイドさんをしています!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここまで読んで頂きありがとうございます。
いいね、感想、誤字脱字のご報告お待ちしております!
新作『ネロ•エスピーナのリドル─初見殺しの魔法使い─』を公開しておりますので、どうぞ読んでいただけたら幸いです!
いつも応援していただきありがとうございます!
それではまた次回でお会いしましょう。
研究所
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます