第20話 見られたくない作業をしているならカギはかけておけ

 ボクの名前はアーサー。聖剣の選ばれた勇者です。


 ボクが生まれた育った場所は自分で言うのもなんだけどひどく貧しい村で、身寄りのなかった子どもを同じ年齢の子どもたちがイジメて遊ぶような碌でもないところでした。


 ああ、察しのいい人は気づいたかも知れないけど、そのイジメにあっていたのはボクなんです。


 殴られて蹴られて石を投げられる。彼らは子どもだから手加減なんて一切なく、ボクが痛がって泣いて苦しむ姿がとても面白くて楽しかったらしい。


 そんな村ですが焼かれました。ええ、もちろん魔族の手によって焼かれたのです。正直に言いましょう、魔族さんナイス!


 ボクのことを薄情なヤツだと思いますか? ええ、普通の人間であればそう思うのも仕方ないのかもしれません。


 ですが、実際に被害を受けていないからそう言えるのであって当事者からすれば「ざまあ見ろ!」と中指を立てて煽り散らかすほど鬱憤がたまっていたのです。


 まあ、そんなこんながありまして魔族の手から逃れたボクは教会に拾われました。拾われて次の日に聖剣を抜いてしまい、ただの孤児から勇者としての生活がスタートしちゃったんです。何で?


 剣を振るう毎日にいい加減飽きてきた頃、なんだか教会のお偉いさんたちが魔族の国でやらかしたらしく、その尻拭いとしてボクたち勇者パーティーが留学することが決定いたしました。待って待って、これって留学生という名の人質だよね!?


 やらかしたお偉いさんは絶対に許さない。頭部が段々とと寂しくなるようにと呪いをかけておこう。憂鬱な気持ちで船にユラユラ馬車にガタガタ、着きました、着いてしまいました魔族の国。


「ワタクシ、こんな遠くまで来たのは初めてです」


「ルルは魔族の本を早く読みたい」


「ウオー! オレ、肉食いてぇぞ!!」


 マリア、ルル、ウェンディの三人は聞いたことしかなかった魔族の国をその目で見れて終始テンションが高かった。


 ボクはボクで、国の発展具合とか見たこともない道具とかに興味は引かれた。剣を振る毎日から一転、貴族のように学校に通えて同年代の人(魔族だけど)たちと遊べるなんて素晴らしいとも思った。


 でも、ボクは教会所属の勇者だから命令が出されれば従わなくちゃいけない。それはマリアも同様だけど彼女、能力と信仰心だけが高くて他人に隠し事や嘘をつくことができないらしく命令が一切寄越されないらしい。いいなぁ……。


 教会からの命令は「ヴァイス家、シュヴァルツ家の娘を見張って殺せ」だそうだ。


 断然拒否しますっ!


 だって彼女ら良い子たちなんだもん。監視するために潜り込んだ寮で初めて出会ったんだけど、すっごく真面目で誠実さが溢れてた。でも、さすがにボクのことは男の子だと思っているみたい。


 生まれつきと言っていいのか分からないけれど、何故かボクは他人から男の子だと思われる。本当は女の子なのだけれど、それを一眼でわかってくれた人はただ一人だけ。その一人というのが、レイチェル様とエルフィーネ様の奴隷になったという特殊な境遇を持つクロスという人間だ。


 男の子としてしか見られていなかったため、彼女たちの奴隷と仲良くなれば楽に監視できるんじゃないかと考えたんだけど、まさか初手で女の子だとバレてしまうとは思わなかった。


 しかも、女の子だとバレるだけでなく監視のことまで勘付かれてしまうなんて誰が予想できた? もう、なんでこうボクは大事なところでつまづいてしまうんだろう───と、その時は思った。


 でも、そんな彼も今ではボクの大切な友達の一人になったよ。だって、ただ優しいだけじゃなくて、ちゃんとダメなときはダメだと叱ってくれるんだ。


『女の子なんだからお腹を冷やすな』

『十分にカワイイから化粧の厚塗りはやめろ』

『パンケーキ作ってやるから生で食べ物を食うな』

『ファーストレディだ、先に食べてな』


だってよ? 今までこんなに女の子扱いされた事ないから嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだよ。


 クロスは自分のご主人様たちがとてもカワイイと自慢しているけど、なんだろう……男女の好きというよりは父親が娘に向ける愛情に近いんだよね。


 逆にレイチェル様とエルフィーネ様がクロスに向ける好意は男女のそれと同じで、それに加えてどこか依存めいたなにかがあるんだ。まあ、彼女たちの境遇を考えれば無理もないのかな、クロスという人物に寄り掛かりたいのだろう。


(───いいな)


 ちょっとだけ羨ましい。もしも仮にクロスと最初に会っていたのが自分だったらどうなっていたんだろうとも考えてしまう。彼の同世代ながら大人じみた安心感というか安定感? それが彼の魅力をさらに引き立てているんだ。


(ボクの周りの大人は嫌な人、争いごとにご執心の中身が子どもな人しかいない……だから子どもだけど大人な彼が好き)


 そんな彼を独り占めならぬ二人占めをしている彼女たちに、ほんのちょっぴり嫉妬してしまう。


(クロスってどんな人が好きなんだろ……?)


 レイチェル様もエルフィーネ様も、どっちもすっごい美人さんなんだけどクロスはなびかない。


 決して彼女たちの恐怖させる魔力のせいというワケじゃないし、なんなら彼はその魔力の影響を受けない。


(なら普通に好みじゃないのかな?)


 ………いや、ないな。もしかして男の人が好きなのかもと思ったが、前にボクとの関係を彼女らに疑われて男色のけはないと言っていた。


(もしかして……同年代ではない?)


 同年代で頭ひとつ抜けてキレイな彼女らにそういった好意を持っていないとすれば、もしかしたら年下か年上のどちらかが好きなのだろうか。


(年下……ティアちゃんには妹のような愛情しか見せていなかったから、年上ッ!?)


 しまった、盲点だった。


 クロスの周りには同い年か年下しかいなかった。だから年上の大人なレディが候補から外れていたんだ。


「たしか前に面白半分で買ったアレがあるはず!」


 自分の私物が押し込めてある箱をゴソゴソと探していると───あった。弱い魅了の魔法効果が付与されている【女教師の服】。


 クロスのいない今のうちに試着してみよう。魅了といっても何となく見てしまう程度のもので、惚れられるほど強力なものではない。


「うんしょ、うんしょ………こうやって……よし、着れた!!」


 でもこれ本当に教師の服なのかな。すっごい露出が多くてまるで───。


「いけない女王様にでも目覚めたのか、アーサー?あんまり人目のつく場所ではおススメしないから、気をつけてな」


 いつの間にか部屋に戻ってきていたクロス。


「ちっちが───待ってえぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 誤解を解くのに数日かかった。


 今なら恥ずかしさで世界を滅ぼせそうだよ、クロス。みんなも見られたくない作業をしている時は、しっかりとカギをかけておこう。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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カップラーメン今日も失敗した作者です。


いつも応援していただきありがとうございます!

それではまた次回でお会いしましょう。


                    研究所

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