第19話 レシピ通りの料理が一番美味い
ヴィッドらとの決闘騒ぎから早一週間が経過した。およそ決闘と呼べるほど闘ってはいないが、それは相手の力量を見極められず、あまつさえ常識はずれの人数で挑んだのが悪い。
決闘が終了したあと気絶から目を覚ました彼らは案の定、難癖をつけて決闘は無効だのなんだのとゴネた。
そんなことを学園側は許すはずもなく、勝利報酬の履行を即座に実行するよう迫った。しかし、納得がいかないヴィッドらは大暴れをしてなかった事にしようとするも教師たちに取り押さえられたのち、謹慎と事前に決めていた借金の無効を強制されたらしい。
それを知ったのは決闘から三日後で、 ネーレとチェチェンの二人はその事実に静かに涙を流した。
また、彼女らは怖がりながらもレイチェルとエルフィーネの友達としてお茶をしてくれたり、なるべく恐怖しているのが顔に出ないよう話しかけてくれたりしている。うん、本当に素晴らしい二人だ。
さて、話は変わるが二週間後に校外授業がある。教師たちを伴って、魔物が出現する森へ一泊二日のキャンプをするそうだ。将来、国を背負う立場として魔物の脅威を身をもって感じ、自身でどう対処するべきかを考えさせるのがこの校外授業の目的らしい。
キャンプをするということは、つまり自分たちで料理をしなければならないという事である。
「レイチェル、どっちが美味しい料理を作れるか勝負です」
「構わないわ。私の勝利は揺るがないもの」
どこからその自信が出てくるのか訊いてみたいが、それより隣に視線を移すと。
「ワタクシ、料理には自信がありますわ」
「ん、ルルは負けない」
「ヨッシャー! このオレが美味いモン作ってやるぜー!!」
アーサーお前もか、俺と同じ境遇に立たされているのは。その顔、どこから料理に対する自信が出てくるんだと言いたそうだ。
言葉を発した順にマリア、ルル、ウェンディの三人は勇者であるアーサーの仲間たちである。彼女らもアーサーに褒められようと料理対決をすることになったそうな。
(アーサー、ちなみに彼女らの料理の腕は?)
(世の飲食店って普通に食べられるからスゴいよね……? レイチェル様とエルフィーネ様は?)
(お嬢様だから……とだけ言っておく)
お互いに苦労をしているんだなと、変なシンパシーを感じた今日この頃。
せっかく五人が料理対決をするという事なので、材料がバラバラにならず失敗もし難いカレーを題材にしてもらった。
大量に作っても不思議と食べ切れることが多いカレーはやはり偉大だと思う。これを発明した先人たちにはノーベルうまいで賞を授与したい。
「ではレシピはこの通りになっております。基本的に注意するべきポイントは、具材の炒める順番だけでしょうか。それでは刃物などでケガをされませんよう注意をしつつ、初めてください」
俺がそう言うと慣れない手つきながらも落ち着いて調理を始める五人。よかった、いきなりアレンジをしようとしなくて。料理下手な人の大半は分量を正確に計らないか、もしくは急なアレンジを加えるてしまうからなぁ……前世でもいたな。
アーサーも心なしか、どこかほったとしたような顔で胸を撫で下ろしていた。かく言う俺もムダな緊張が全身から解けていったようだ。
(なんとか無事に終わりそうだな?)
(ぼ、ボクは最初から信じてたよ……?)
(ウソつけこのっ)
(あだっ?! な、何すんのさ!?)
俺たちがコソコソとやり取りしていると、料理組の五人から非難の目が向けられてしまった。
「クロス、ここは大丈夫なので完成を楽しみに少し出ていってもらえますか?」
「うっ……申し訳ありません」
「アーサー、ルルたちは大丈夫、完成までサプライズしたい」
「ご、ごめんなさい………」
俺たちのために作ろうとしてくれているのに、そんな彼女たちを放っておいて二人で盛り上がるのはさすがにマズかったな。
反省の意味も込めてここは彼女らの言う通り、俺とアーサーの二人は大人しく厨房から退散しておこう。とはいえ、まるっきり任せてどこかへ行くのではなく扉のすぐ近くに待機しておこう。
二人してイスに腰掛け小説の頁をめくる。横のアーサーと小話をはさみながら、お互いに適当な相槌を打つ。静かな時間が心地よい。
三十分が経過した時である。
───ドゴォォォォォンッ!!!
突然の爆発音が厨房から響き渡る。扉を乱暴に開け放ち五人の安否を確かめる。
「お嬢様ッ!!」
「みんなっ! 大丈………夫……え?」
五人が無事であったが、それでもアーサーが絶句したのも無理はない。なぜなら、厨房の中には得体の知れないドロドロとした身体に触手が生えた、謎の生命体が陣取っていたのだから。
魔物が出る時間にしては早すぎる。本当に何なのだろうかと考えていると、勇者のお仲間たちが触手に絡め取られ捕まってしまった。
「あっ、ちょっと、ドコに入ってくるのです!?」
「ルルの魔力がががが」
「うおっ!? オレまで離せコノっ!!」
殺す目的ではなく、ただ単に魔力を吸収しているようなのだが、なぜ服が溶けている? それに何だか全身をまさぐるように、触手が身体全体に伸びている。
しまった、こんなことを考えている間にレイとエルたちが、この触手に捕まってしまう。バッと振り向くと、レイとエルの二人してどこか不満げな表情であった。
「魔力なら私沢山もってるわよ、何で来ないの?」
「吾は潤沢な魔力があります、さあ来なさい」
「さあ来なさい」じゃあないんだよ。自分たちのところに触手が来ないからって張り合おうとするんじゃありませんっ!
「「───キタッ!!」」
化け物は数本の触手を伸ばす───が、急ブレーキをかけて違う方向へと伸ばしていった。
「えっ、ええ?! クロス!?」
「───いや、何で俺ェッ!?!?」
本当に急すぎて反応が遅れてしまったのが仇になったのか、彼女たちに向かっていた触手は俺に絡みついてきた。そして同じく捕まった三人より倍は早く、ドンドンと服が溶けていっている。
「
「
「そのルビの付け方合ってますか!?」
「「大丈夫、問題ない!!」」
こういう時ばかり仲がよろしいことで。だが、やられてばかりは性に合わない。
俺は決闘騒ぎの時に見せた魔力弾を形成し、被害を最小に抑えつつ一撃で仕留めにかかる。
「くーたーばーれえぇぇぇぇッッッ!!!」
ズドンッッッ!!!
攻撃は化け物の中心を捉え、その中心にある核のようなものを破壊してようやく停止した。
▽▽▽▽▽
「それで、三人が隠して持ち寄った食材にお嬢様方がこれまた隠していた食材が合わさって───」
「ドロドロの化け物が生まれた……と。ボク、こんな経験したことないよぅ……」
「「「ゴメンなさい………」」」
どういう理屈なのか、隠し持っていた食材(一部食べられない)と各々の魔力が合わさって奇跡的に化け物が誕生してしまったらしい。
ケガがなかったから良かったが、この五人だけだと危なすぎて放置できない。
レシピ通りにやる。食材は隠さない。アレンジしない。魔力を込めない。以上のことを守らせると約束させた。
「しばらく厨房には出入り禁止です、いいですね?」
「ちょっと危ないかな……?」
「「「はい、分かりました……」」」
余った食材は俺とアーサーが責任をもって調理し、食べました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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カップラーメンを失敗した作者です。
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それではまた次回でお会いしましょう。
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