第18話 入学早々に決闘……?
学園生活二日目のAクラスにて。
最初の授業ということもあるのか、やはり自己紹介から始まるのはどの世界でも共通らしい。
担任のプロケル先生は森鹿族特有の立派なツノを誇らしげに、自己紹介をするよう指示した。
「レイチェル•ヴァイスと申します。皆さまには私の魔力のせいで怖がらせてしまうと思いますが、改善できるよう努めて参りますので、どうぞ宜しくお願い致します」
「エルフィーネ•シュヴァルツです。吾の魔力で恐怖を掻き立てられるやもしれませんが、この学園生活で改善していきます。どうぞ仲良くしてください」
「はい。では、次の───」
次々と生徒が自己紹介をしていけば、たった三十人ばかしのクラスであっても時間は早く過ぎて行った。
「しかし、Aクラスに子爵家のご令嬢が二人もいらっしゃるとは、とても努力家なのですね」
エルフィーネがそう言うのも理解できる。
クラスはA〜Jクラスまで存在し、その中でもA〜Cクラスは成績優秀者で構成されている。また、残りのクラスはランダムらしい。
Aクラスに編成されるのは高等な教育を受けられることができる高位の貴族がほとんどであるため、子爵という貴族の中では低い位の令息令嬢がいることはそれだけ凄いことなのだ。
「本当にそうね。どのような勉強方法をしているのか気に………、外が騒がしいわね?」
彼女に同意するようなことを言いかけたレイチェルであるが、外のざわめきが気になったようだ。二人が席を立ったため俺も後ろをついて行く。
「失礼、一体なにが………」
「口答えするとは偉くなったなぁ、オイッ!!」
「───キャア!」
「テメェもだ借金エルフ!!」
「がっ………!」
今まさに話題に出していた二人の子爵令嬢が暴力を振るわれており、それを直接目撃したレイたちは一瞬の硬直ののち、両者の間に割って入った。
「お止めなさい、紳士にあるまじき行為です」
「さあ、お二人とも吾の手をとって立てますか?」
令嬢たちは魔力の影響を受けながらも差し出された手を取った。なるほど、助けられたことを正しく理解して恩を仇で返すような人物ではないのか。それが分かっただけで俺が嬉しくなる。
さて、問題はその二人に暴力を働いたこの男たちなのだが二メートルほどの体躯に青と赤のツノ……どちらも闘鬼族だな?
「……公爵家のご令嬢ともあろう方が俺になんのご用でしょうか」
「貴方たちの蛮行は無視できません。いかなる理由であれイジメは見過ごせません」
「イジメだなんて心外ですなぁ、躾ですよ、し•つ•け。ちょっとそこのヤツらが借金してるくせに生意気なことを言うもんですから………」
「借金は全て返済したはずだっ!」
「そっそうです……!」
「うるせぇっ! 世の中にはな利子ってもんがあんだよ、利子ってもんが!」
金がらみの話は当人同士でさえ揉めるのだ。まったくの赤の他人であるレイたちが出張っても解決することは難しいだろう。
俺がそんなことを考えている間に、目の前の男たちはニヤニヤといやらしい顔で提案してきた。
「いっそのこと身体を預けてみりゃ、一晩で借金がなくなるかもしれないぜ?」
「おおっ、そりゃあいい案だな? ゲハハ!」
「下品な……脅さなければ女性の一人も口説けないなんて、器の小さいことがバレますわよ」
「あぁ? ……いくら公爵家の令嬢でも潰すぞ?」
「なら借金の100万ベイルを肩代わりしますか?」
「そ、それは……」
若干顔色が悪い男たちだが、魔力の影響を受けてもなお引かないのは種族特有の闘争本能ゆえか。
レイたちは借金の肩代わりができないのだ、俺を買ったときに彼女らが自由にできるお金は全てなくなったためである。
「こちらが一方的な悪者と決めつけるなんてヒドイと思いませんかな? こんなことをしてばかりだと婚約者に飽きられて……おっと失礼、そもそも婚約者がいませんでしたな?」
「お二人がお熱な奴隷くんは後ろの男ですか? まあ、男なら夜に慰めてもらえますでしょうね?」
「なんなら俺が婚約者になって差し上げましょうか?」
「下品で下劣、器の小さい殿方などお断りです」
「なら、そこの奴隷くんと決闘でもしましょうや、そっちが勝てば二人の借金はチャラです。お前もいいよなバッカ?」
「ああ、いいぜヴィッド」
「私たちのクロスが負けたときは……?」
「そうですな……俺らを婚約者にしてもらいましょうか? ゲハハ!!」
「クロス………分かったわ。いいでしょう、その決闘を受けます!」
俺は振り返ったレイに無言で頷くだけでいい。彼女たちが守りたいと思った、そよ意志を尊重したいから。
「では、奴隷くんと俺らの決闘ということでよろしいですかな?」
「構いません、エルフィーネもいいですね?」
「もちろんですレイチェル」
いつの間にかいたプロケル先生に決闘場の使用許可をもらい、全員が移動した。そのとき、ヴィッドとバッカと呼び合っていた二人は遅れて来るとのことだ。
「勝手に決闘などと申し訳ありません、ネーレさんとチェチェンさん」
ドワーフのネーレにエルフのチェチェン。
この二人を放って事を進めてしまったのは、たしかにレイたちの落ち度であった。しかし、彼女らが間に入らなければより状況が悪化していたかもしれないと、ネーレたちはお礼を言った。
「でもワタシたちは何も返すことが出来ません。何をお望みなのでしょうか?」
「ね、ネーレさんの言う通りです。借金が無くなるだけで、今すぐ返せるものが……なにも」
自分達が借金していたヴィッドらより高位の貴族であるため、少し警戒の色を出すのも無理はない。しかし、見返りなど二人が求めるわけもなく、ただ正直に自分の考えをレイたちは伝えた。
「女性に暴力を働くあの者らが許せなかったのと、自己紹介のときも言いましたがお友達が欲しいのです。見返りというのなら、私たちとどうぞお友達になってもらえないですか?」
「吾たちが怖いですか?」
二人は遠慮がちに頷くが、しっかりと目を合わせて言った。
「こ、怖い……です。でもっ、助けて頂いたのにそれを裏切りたくありません! 私でよければぜひ!」
「ワタシも怖いです……が、恩知らずにも恥知らずにもなりたくありません。ぜひ、お願い致します」
顔色はやはりというべきか青白くなっているものの、そう言った言葉に嘘偽りはないように思える。その証拠にレイたち二人の顔が喜色を示していた。
「この場でご友人が誕生したこと、心より祝福させて頂きます。では、私は行ってまいりますのでお見逃しないようお願い致します」
そう言って決闘場へと足を運ぶ。
外に設置された石造りの円形決闘場。周りは観客が入れるような造りになっており、エルたち四人は俺のすぐ後ろで待機している。
舞台の上へと上がり遅れてくると言っていたヴィッドたちを待っていると、予想していた時間より随分と早く来た。お友達も連れて。
「待ちなさい、決闘は貴方たちだけではなかったのですか!」
エルが抗議するもヴィッドたちは薄っすらと笑いを浮かべるだけであった。
「そうですとも、奴隷くんと俺ら二十人が相手ですが?」
再度、抗議を上げようとするがプロケル先生が問題なしとせんした。事前に内容を詳細に決めなかったコチラの落ち度でありこれ以上の抗議は敗北の判断とする、と言われれば黙る他ない。
(ゲハハ、これで俺は次期公爵様だ! あんな気味の悪い魔力の化け物なんぞどうでもいい! 子どもは妾に生ませて、贅の限りを尽くしてやるぜ! 借金女どもも使えるじゃねぇか!!)
(あとでヴィッドとどっちの令嬢を取るか話さないとな。公爵家を継いだらテキトーにヤリ捨てて、子どもは妾どもに作らせよう、ガハハ!!)
恐らく碌でもないことを考えているのだろう、ヴィッドたちの顔はとてもヒドイ。連れてきたのは自領の子分とかだろうな。
「悪く思うなよ奴隷くん!」
「痛くは……多分しないぞ、ガハハ!!」
「それでは準備をしなさい」
プロケル先生の合図で位置につく。
そうだ、後ろの四人に言っておかないと。
「一瞬で終わるので、まばたき厳禁ですよ」
「───はじめッ!」
「「奴隷風情が、ぶっ殺してやる!!!!」」
激昂した二人に狙いを定める。
魔力を両の手に収束させて圧縮、そして限界まで閉じ込めたソレを相手に向けて解き放つッ!!
「───か○は○波ァッッッーーー!!!(cv.若本○夫)」
新必殺技の「魔力弾」であった。
「………へ?」
間抜けな声を発したのは相手のなかで唯一空中にいた人物だった。種族は分からない。
「ビッ○バンア○ック!!!」
もう一度、魔力弾で攻撃して試合終了。汚ねえ花火だぜ。
「───勝者クロス! これにて決闘は終了し、内容の履行は後日以降となります。では、全員解散」
決闘場にいた人物で唯一冷静なプロケル先生がそう宣言し、この決闘は終了した。
「う、うそ……あのヴィッドが?」
「バッカも一撃で……?」
借金娘たちはまだ現実を受け止められず、放心している。まあ、報酬が履行されればイヤでも分かるだろう。
「お疲れ様クロス」
「ありがとうございます、吾たちのワガママを叶えてくれて」
俺はそのワガママを言えるようになった二人を見たいがためにいるのさ。
「お安い御用でごさいます」
恭しく、笑ってそう返した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここまで読んで頂きありがとうございます。
高評価、感想、誤字脱字のご報告お待ちしております!
最新のガンダムが「水星どうでしょう」と呼ばれているのに笑った今日この頃でごさいます。
いつも応援していただきありがとうございます!
それではまた次回でお会いしましょう。
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