第17話 禁断の……

「よしっ、これで二人の入寮はおわったな」


「お疲れ様ですクロス」


「ありがと、私の荷物多かったでしょゴメンね?」


「そのための従者だろ、気にすんな」


 グレモリー学園に入学した私たちは早速、自身の寮へと移動をして荷解きをしていた。


 部屋の一室とはいっても普通のものと比べたら相当に広く、だいたい四部屋から五部屋の壁をぶち抜いたくらい。


 正直、ここまで広いとかえって落ち着かない。こんなに広いのだからクロスの一人や二人、一緒に住まわせてもいいんじゃない? 黙っていればバレなさそうだけど。


 まあ、入学早々に問題を起こすようなマネはしないわ。ただでさえ目立って仕方がないのに、これ以上無駄な面倒ごとを増やしたくないもの。


「クロス、ホントに勇者と同じ部屋なの?」


「ホントだよ、名前はさっきも言ったけどアーサー。あいつ自身、悪いヤツじゃなさそうだった」


「吾が直接襲われたわけではないですが、それでも心配ですね……」


 今回ばかりは彼女に同意して私もウンウンと頷く。むしろクロス自身がなんでそんなに余裕(?)があるのか分からない。


 頭真っピンクの変態神官と直接バチバチしていたのは彼なハズなのに、いまいち危機意識が足りないような気がするのだ。


 相手が気に入ったのかな?

 確かに顔は整っていたと記憶しているし、ちょっとだけど話している雰囲気というか物腰が柔らかいイメージがした。


「ああ見えて意外と寂しがりというか、人付き合いが下手っぴなんだよ」


「それは大変ね」


「ええ、とても大変そうですね」


「…………そうっすね」


 寂しがりで人付き合いが下手、ね。まるでエルフィーネみたいな子なのね、アーサーっていう男の子は。


 何よアンタ私のことを見て私の顔になにかついてる? それにクロス、なんで私たちをそんな「お前が言うな」みたいな目で交互に見るの?


「俺はお茶とお菓子の準備してくるから、それまで自由にしててくれ。何かあれば飛んでいくから」


 そう言ってクロスは執事服を着直して、ドアノブを回しながら部屋を後にした。


「貴女も自分の部屋に戻ってはどうです?」


「………そうね」


 私も私でエルフィーネの部屋にいる理由もないし、クロスを待つ間に明日の予定でも確認しておこうかな。


 彼女の部屋がある寮とは反対側に位置する自分の部屋へ、ホテルなどで使われる柔らかな材質の長い廊下をツカツカと歩いていく。


「………一応、確認だけでもしておこうかな?」


 クロスのあの話し方からすると、本当にアーサーという勇者は魔族だからといって問答無用に暴力を働くような人物ではないのだろう。


 それはいいとして、問題はそう話すクロスの雰囲気なのだ。


「たった数十分であそこまで仲良くなる……?」


 今まで男の友達が作れない環境だったから、その反動でただ単に舞い上がっているだけならなにも問題はないの。


「でも………そうでなかったら?」


 整った外見に心地よい雰囲気がクロスに刺さったとしたら……マズイわね。


 踵を返し彼のいるであろう場所、厨房へと足速に歩いていく。


「もしも、仮に、イフ、可能性としてよ?」


 もしも、クロスがアーサーという勇者に色んな意味で好意を持ってしまったというのならば、彼の主人としてその素晴ら………こほん。その道を矯正しなくてはならない。


 男と男がその……ゴニョゴニョするのは非生産的であるからして、もしするのであれば私という素敵な女性を相手にするべきなのよ。


 でも、クロスがどうしてもと言うのならば私も鬼ではない。とても寛容であるため、一度きりの過ちは誰でもあるというもの、許可しましょう。


 もちろん、その時は私の用意した部屋でじっくりとさせて、クロスに危険がおよばないようにしっかりと見守ってあげます。


「着いたわね………って、なんでアンタもいんのよ」


「クロスが道を誤ってもいいように、主人である吾が見守っているのです」


「なっ……アンタも………」


「シッ。静かにして下さい。アンタもということは同じ考えなのでしょう?」


「うぐっ……わかった。ちょっとソコ寄せて」


 厨房へ到着すると先客にエルフィーネがいた。しかも、多分だけど私と同じようなことを考えてココにやってきたらしい。


 いろいろ言いたいことがあるけれど、今はぐっとガマンして少しだけ開いている扉の隙間からクロスを覗いてみる。


(ちょっと! あれ勇者じゃない!)


(どうやら二人でお菓子を作るようですね)


(ようですねって……あれ? なんか妙にクロスに懐いてない?)


(男同士であれば普通です)


(そっそうなの!?)


 まるで子イヌみたいに彼の周りをウロチョロしている勇者。


 ものすごく仲が良さそうに見えるけれど、あれが本当に男同士の関係なの?


(いや、なんでアンタが男同士の仲の良さを知ってるのよ)


(そう書いてありました)


(………聞きたくないけど、ものすっごく聞きたくないけど、何に書いてあったの?)


(………………………レイチェルはエッチですね)


(ふっ───ふっざけんじゃないわよ! それを読んでるアンタのほうがよっぽどエッチでしょ!!)


(貸しましょうか……?)


(………………………………)


 お互いに顔を見合わせる。この妖怪他人イジメ愉悦エロ女は放っておこう。本はあとで借りる。


 そんなことよりも、クロスたちが間違いを起こさないかしっかりと見張らなくてはいけない。あれ、どこに行った?


「ここをこうして……」


「へぇ……わっ、すごくおっきいよクロス!」


「あっ、そんな激しくすると───」


「わっぷ……! あぁ、汚れちゃったよぉ……」


 私とエルフィーネはまたお互いの顔を見た。


 慌ててクロスたちが気づかずに、かつ、私たちが見られるほどの隙間を扉に作り、そして、ついに二人の姿を捉えることに成功する。


((───ッ!?!?))


 しかし、目の前の光景に絶句してしまった。


 クロスがハンカチを取り出し、白色の何かが爆発したかのように汚れているアーサーを拭いていた。


 カチャカチャと音を立てて何かをしていたのは分かっていたが、まさか……アレなのだろうか。


(あっ、あれは……なに?)


(ナニのアレかもしれません)


 今だけエルフィーネコイツをはっ倒しても許されると思う。


 まさか二人の過ちを見逃し………ゲフン、ゲフン、止められなかったというの? ゴメンなさいクロス、アナタがもしソッチの気があったとしても私が嫉妬して嫌なの。だから、傷つけないようにゆっくりと矯正していくわ。


(って、ちょっとアンタ……カメラ持ってなにしてんのよ!)


(貴女こそこの状況で何故なにもせずにいるのですか? バカなんですか?)


(バカはアンタよ! 身体のどこにそんなアホみたいにデッカいカメラ持って───キャッ!?)


 バカ女につられて扉のに寄りかかり過ぎたらしく、倒れるようなかたちで厨房へ入ってしまった。


「え? えっ!? なななっ、なんですかぁ!?」


「レイチェル様にエルフィーネ様、どうされましたか?」


「………こほん、ご機嫌ようアーサー様?」


「わ、吾らとともにお茶でもと思いまして」


「ぼっぼぼ、ボク……? あっ、はい! 是非ともよろしく願いします!」


 ふぅ、なんとか誤魔化せたようね………クロス、その「苦し紛れに出した言い訳だな」と訴えかける目はやめなさい。本当だけどやめなさい。


「それで、アーサー様は私たちの執事であるクロスとその……なにをなさっていたのでしょう?」


 他人のプライベートというか個性というか、趣味趣向をとやかく言うのは失礼だけど、クロスが関わっているのだから訊かないわけにはいかない。


 だから、そこのムッツリエルフィーネは鼻息荒くしてメモを取ろうとするな。本当に一発ビンタしてもいい気がしてきた。


「あっ、えっと、ボクがワガママを言ってお菓子作りを手伝わせてもらっていたんです。それで、いまはケーキに使うクリームを泡立てようとしたら……その、勢いをつけ過ぎてこぼれてしまいました……ゴメンね、クロス」


「そっ、そうだったのですね! ああ、なるほど、なるほど………」


「ええ、吾はもちろん分かっていました。アーサー様、どうぞこれからもクロス共々よろしく願い致します」


「ハイッ! こ、こちらこそ末永くよろしく願います、エルフィーネ様、レイチェル様!!」


 なるほど、色んな妄想はしょせん妄想に過ぎなかったということね。いろいろと興奮し過ぎて疲れてしまったわ。


「お茶をするということなので、それなりの準備をいたします。少々お時間を頂けますでしょうか?」


 勘違いも解けたことだし、さっきの言い訳を本当のことにしてしまいましょう。


「ええ、お願いしますねクロス。アーサー様、それでは後ほどお話し致しましょう」


「ハイ! 楽しみです!」


 そう言って私たちは厨房から出て行った。よかったような残念なような感覚を覚えながら、長い長い廊下を歩いていく。


 なにを不安がる必要があったのだろう。本当にアーサーという人物は悪い人間ではなく、むしろ悪いことができないような性格だと思った。


 まあ、それはそれとして………。


「あとでエルフィーネに借りにいかなきゃ……」



 後日、私の趣味が増えたのは言うまでもなかった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んで頂きありがとうございます。

高評価、感想、誤字脱字のご報告お待ちしております!


拙作がまさかの3000PVを頂けるとは思いもよりませんでした。

皆々様にはいつも以上に感謝を!


いつも応援していただきありがとうございます!

それではまた次回でお会いしましょう。


                    研究所

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る