第二章 グレモリー学園

第16話 グレモリー学園とまさかのアイツ?

「───以上うぃじょう! この学園うぉッ! 楽しんでくれたまえ諸君………アデューッ!!」


 キャラが濃い───それしか感想が出てこなかったのは人生で初めてだった。


 グレモリー学園のへと入学した俺たちを待ち受けていたのは襲撃事件があった日に見かけたラスボスの衣装、それを着た在校生の熱烈な歓迎であった。


 しかも、その在校生というのが魔王の実の息子だというのだから二重三重に驚いてしまう。いや、驚くというよりかはドン引きといったほうがいいか。


 ラスボスは学園の説明をしっかりとしたあと、別れの挨拶とともに壁をぶち破って退場していった。流石は魔王の息子、きっと忘れられない存在としてみんなの記憶に残るだろう。


「魔王の息子も驚いたけど、のほうがヤバいよなぁ……」


 何に驚いたかって、魔族の通う学園にがいることだ。金髪に金と銀のオッドアイという姿はまさに主人公然としている。


 魔族領で人間が暴れたことに抗議した結果、表向きは両国の友誼を深めるための留学で、その裏は人質としてこの学園に入学してきた。


 魔族側としては脅威となる勇者が実際にどんな存在なのかを自身の目で見れ、なにかあった場合に対処しやすいという理由から提案を受け入れたとのこと。


 事前に俺たちにもそのことが告げられたが、現実に勇者が近くにいるとなると驚くものは驚く。


「それでは各自、自身の寮へと移動を開始せよ」


 教師だろうスーツを着たミノタウロスに言われ、生徒とその従者たちが自分たちに用意された寮へと向かう。


「……俺も行きますか」


 人の波が割れるように道が開かれる。中央に立っているのはもちろん俺の主人たちであるレイチェル•ヴァイスとエルフィーネ•シュヴァルツその人らだ。


「あれが四大貴族の……」「うっ…ホントに魔力だけで」「はぁ…はぁ…なにっ、怖い? 見ただけで?」「噂は本当だったのか……」「やだっ、この子気絶してる?!」「くっ…この俺様が震えているのか!?」「も…漏れたでござる」


 最近はお目にかからなかった二人の魔力による阿鼻叫喚。自分もそうだったな、と思いながら渦中の二人の後ろへ静かに移動する。


 みんなよろしくな、俺のご主人様たちメチャクチャに寂しがり屋だから話しかけてくれるだけで超絶に喜びますので。


「クロス、私たちの寮へ行きましょう」


「荷物は多くないですが少なくもないのです。吾らも明日の準備を早くいたしましょう」


「承知致しました」


 屋敷にいた時とはまったく違った言葉使いで恭しく二人に付き従う。


 いくら仲が良くとも公私の分別ふんべつをつけなければ、ケジメをつけなければいけない。俺は執事ではあるが奴隷なのだ、公爵家令嬢と仲良くおしゃべりとはいかない。


 金でふち取られた真紅のガウンを制服の上から身にまとった二人。成績優秀者に与えられるそれを存分にたなびかせ、その場をあとにした。




「ぼ、ボク、っていいます! よろしくお願いします!」


「これはご丁寧にありがとうございます。私はクロスと申します、どうぞ宜しくお願い致します」


 ありのまま今起こったことを話すぜ!

 俺は自分の部屋を入ったと思ったらがいた!

 なにを言っているのかわからねーと思うが、俺もなにが起こっているのかわからなかった。


 公爵家令嬢ともなれば無数にある寮の一棟が与えられ、使用人もそこの一室を主人が分け与えるというのが学園のルールらしい。


 しかし、今回の場合は二人の主人を持った奴隷と一人の奴隷を持った主人たち、それから留学生という名の人質勇者。この例外だらけをバラけさせるよりはまとめたほうが、学園側も対処しやすいと考えたんだろうなぁ…。


「アーサー様、失礼でなければご質問を宜しいでしょうか?」


「だだっ大丈夫、デス! それと、ボクのことはアーサーって呼び捨てにして、口調ももっとくだけた感じでお願い……肩書きだけでエラくないので」


「では、アーサー殿と」


「アーサー」


「………アーサーさん」


「アーサー」


「……………アーサー、あのですね」


「もっと、こう、友人に話すような感じで」


 気弱じゃなくて人馴れしてないだけだったのね、アナタ。おかしいな、どこかで似たような人たちが身近にいるぞ?


「わかった、わかりました。俺の元からの口調はこれだけどそれでもいいのか、アーサー?」


「う、うんっ! いいよ、すごくいい!! そっ、それで質問はなんだい!? 何でもきいてよ!!」


「……訊くから少し落ち着けっての」


「あっ、ゴメン。少し静かにするね!」


 本当にこの勇者がレイとエルの二人を殺すのだろうか。普通にして平凡で凡百な一個人、そういうイメージしか目の前の勇者には感じられない。


「アーサー…は何で個室じゃないんだ? いくら偉くないつっても、それくらいは貰えんだろ?」


「あ、えっ……と、その、う………」


 簡単な質問でこんなに言いよどむってことは、俺か二人の監視をしろと命令されているのだろう。


 何かしら特別な力があったとしても、文献を読み漁った限り魔族特攻みたいだからな。平凡な人間の俺が注意しなければいけないのは、その力でどれだけ身体能力が上がるかだけだ。


「監視しろって命令?」


「ええっ!? なんで知ってるのッ!?!??」


「お前の口からいま知った」


「うぇっ?! ひっ、卑怯だよ!」


「なぁにが卑怯だ。勝手に自爆してんじゃねえか」


「だだ、だって! だって、キミが───」


「クロス」


「……クロスくんが」


「クロス」


「クロス……が」


「おう。俺がなんだ?」


「えへへ……クロスだって。何だか友達みたい……じゃなくって! クロスが誘導尋問みたいなことしたんじゃないか!」


「してないわ。ただ単に部屋くらい用意されそうなお前が、何で俺と同室なのかって話だったんだよ」


「……? なにか変?」


「変だろ。コの字に棟が立ってて俺がその中間に部屋を貰うのは、二人の主人のトコに行けるようにするためだ」


「うん、たしかレイチェル•ヴァイス様とエルフィーネ•シュヴァルツ様だよね?」


「そっ。どっちも主人だから片方に居つくわけにゃいかんのよ、だから中間の棟にあるこの部屋なんだ」


「でも、ボクがいるのそんなに変?」


「変………ってゆうか、ダメだろフツー?」


「ダメ? えっ、校則とかにあった!?」


「いやいや、もっと常識的な話だよ」


「常識的な……ハナシ?」


「ああ。フツーに考えてはマズいだろ?」


「……………」


 一瞬の静寂。


 それからギギギと、まるで長年放置され錆まみれになったロボットのように動き始めたアーサー。


「ボク………オトコ」


「ムリがあんだろ」

 

「なな、なん、なんでっ、何で……!?」


「なんでも何も一目でわかるだろ」


「えぇ……仲間にすらバレてないのに、どっ、どう……どうすればイイ?」


「俺に聞くのか……あー、じゃあ知らないフリしとく?」


「……お願いします」


 一応、男の格好をしているのは誰かを騙そうとしているのかと訊けば、最初から男と認識されてしまい今更、女だと言い出しづらいのだそうだ。


 取り返しのつかなくなる前に自分から話してやれと言えば、アーサーは素直にうなずいた。まあ、監視が云々うんぬんを否定してなかったから命令自体はされているのだろう。


 そんなことを考えていると彼女が遠慮がちに、自分が女だとなぜわかったのか改めて訊いてきた。


「な、なんでかな? 自分でゆうのもあれだけど、ボクってまったく女らしくない……と思うんだけど?」


「一目わかったとしか言えない。それになアーサー? お前は十分に女の子らしくてカワイイから安心しろ」


「そっ、そうかなぁ〜えへへ! 世界一カワイイなんて、い、言い過ぎだよぉ〜!」


 ネガティブなんだかポジティブなんだか分からんヤツだな。とりあえずデコピンをかましておこう。


「あだっ! なんでぇ!?」


「まぁ、よろしくなアーサー」


「へ? あっ、うん! よろしくねクロス!」


 しばらくは様子見をしておこう。アーサーは多分そんなに悪いヤツじゃない、きっと話し合えばお互いのことを分かってくれる筈だ。


「それじゃ、俺はお嬢様たちの手伝いをしに行ってくる。終わったらこの部屋でお茶でもしようか」


「それって………ボクと?」


「ほかに誰がいるんだよ。お菓子も作るから希望があれば言ってみ?」


「や、ヤッター! じゃあさ、じゃあさ! ボクはね、えっと、すっごく甘いパンケーキ!!」


 うん、きっと悪いヤツじゃないさ。


 学園生活は始まったばかり。これからお互いに長い付き合いになっていくんだから、もっと仲良くしてハッピーエンドを迎えようじゃないか。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んで頂きありがとうございます。

高評価、感想、誤字脱字のご報告お待ちしております!


ついに学園生活が始まりました!


体調不良により数日間お休みしてました。

これからも少しずつ更新して参りますので、どうぞよろしくお願いします。


いつも応援していただきありがとうございます!

それではまた次回でお会いしましょう。


                    研究所

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