第3話 凶悪な笑顔
「でっ、ではお2人で主従のお話をして頂ければと思います!」
先生(俺が勝手にそう呼んでいる)は、そう言い残しそそくさと部屋をあとにした。俺も出ていっちゃダメかな? ダメだよね、ガッツリ中心人物だし。
先生が出ていった扉越しから視線を彼女らへと移す。お互いに敵を見る目で睨み合っているのか、先程から一言も話さなくなった。両者の間でバチバチと火花が散っているかと幻視してしまう。
どうしよう……と悩んでいても仕方ない。まずは自己紹介から始めるのが常識人だ。
「あの」
「「何かしら?」」
ho……
「自己紹介をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「「構いませんよ……ちょっと、真似しないで」」
もう仲良いだろアンタら。毎回そんな調子じゃあ明日の朝までかかるぞ。
そう思い、もう一度口を開こうとしたら、白い子……たしかレイチェル•ヴァイスだったかが、ジャンケンで勝った方から2人きりになるという提案をした。
「「ジャン…ケン……!」」
バトル漫画みたいに途轍もない気迫で部屋全体がガタガタ悲鳴を上げている。さすが異世界、こんな身近に戦闘民族がいたなんてスゴいありがた迷惑!
「「──ポンッ!!」」
手を出した瞬間に発生した突風により、俺は床をゴロゴロと転がってしまった。して、勝負の
「わ、
「そんな、うそ、私が負けたの……?」
勝者は黒のエルフィーネ•シュヴァルツだった。
いや、レイチェルさん、そんなこの世の終わりみたいな顔しなくても
▽▽▽▽▽
今日は驚きの連続ね。まさか運命の
でも、1番は目の前の彼が死にかけた時だった。
その結果、彼は死にかけた。異質な魔力を大量に、それも2人分を身体に取り込めば異常が出ないはずがない。だけど、彼は死の淵まで追い詰められてもなお、生きて戻ってきてくれた。契約紋を携えて。
白黒が半々のハートマーク。吾ともう1人の魔力で浮かび上がった契約紋を見て、ひどく歓喜した。欲を言えば吾1人の
「わ、吾………は、エル、フィーネ…」
「いや、そっちは壁ですよ」
「コホン。わ、分かっています。では改めて……」
嗚呼、綺麗な黒い眼……いけないいけない。見惚れている場合じゃない、むしろ惚れさせなければ。
「吾はエリュ──エルフィーネ•シュヴァルツ、です」
「…………」
え? なんで何も言ってくれないんだ? もっ、もしかして知らぬ間に気に障ることでもしてしまったのだろうか? まずい、名誉を挽回しなくては!
「ん? ああ、順番にってことですか。これは失礼しました、100番です。名前はあとでカッコイイのを付けて下さい」
「
「いま絶対に読まないルビの振り方してません?」
「してない」
「あ、はい……。では趣味などは何でしょう?」
名前をつけて欲しいって……結婚したいってことよね? そうよね? 彼氏彼女の関係ではあるのだけれども、男性と女性の関係ではあるのだけれどもっ! でも、吾は今まで誰とも出来なかったことをして欲しい……。一緒に楽しくお話をして笑い合いたい。痛いくらい力を込めて抱きしめ合いたい。手を繋いでどこかへ旅に出たい。
だから……まだ早いわ。彼の気持ちを
「──まだ早いわ」
「ご趣味の話が……?」
「へ……? あ、なっ───」
気が付いたら彼が目の前にいるものだから驚いてしまい、足をもつれさせてしまった。グラリと、体勢を崩した時だった。
「おっと……大丈夫ですか?」
身体が床に落ちる寸前、吾は彼の腕に抱かれていた。自分とは違いゴツゴツと硬く、とても力強い彼の腕。あまりの衝撃に──…。
「フ、フフフ、大丈───キュウ」
意識が途絶えた。
▽▽▽▽▽
5分が経過し即座に扉を開けると、エルフィーネ•シュヴァルツがなぜか気絶をしていた。だが、そんなことはどうでもいい。いま一番重要なのは目の前に立っている愛おしい彼なのだから。
「───……」
言葉が出てこない。この想いを伝えたいのに、感情が渋滞を起こして声を発せない。いえ、自己紹介をするための時間なのだから、ありのままの自分を知ってもらえればイイ。
ありのままの自分……?
この化け物のことを?
みんなを恐怖させる
「あ、あ………」
口の中が乾いてくる。ブワリと変な汗も出て、上手く息を吸えない。彼を前にしているだけなのに、彼に自分を知ってもらうだけなのに、ただそれだけなのに。
だんだんと視界がボヤけてきた。ここまで緊張をした経験はない。分かっているのに……自分の正体をさらけ出しても彼は嘘偽りのない笑顔で受け入れてくれると、そう確信があるのに。できない。
勇気が欲しい。まだ自分の名前すら伝えられていない私に、その小さな一歩を踏み出すだけの大きな勇気が欲しい。
ああ、ダメっ。勝手に口が開いてしまう。良くないことを言葉にしてしまう。やめて。言わないで。そんなことを聞きたいワケじゃないでしょ。お願いだから……私が私を嫌いにさせないで。
「アナタは私たちが怖くないの?」
言ってしまった。言葉にしてしまった。一番に訊いたことが、よりにもよって一番聞きたくないことだった。やめてよ。なに泣いてるのよ。自分から訊いておいて突然泣くなんて、それで同情でも誘いたいのかしら? 自分だけじゃ怖いから
彼が口を開く。ああ……お願い、この世に運命という言葉があるのならば、今だけでいいの……どうか私を助けてください。
「───……怖かったです」
私の眼は残酷にも嘘でないと告げる。
やっぱりダメだったんだ。異質な魔力を持って生まれた私は幸せを望むことさえ許されなかったんだ。彼自身が言っていたじゃない強靭な精神力を持っていると、だから逃げなかっただけ。それを勘違いして分不相応にもあり得ない未来を手に入れようとしただけ。……それだけなのよ。
「でも、一目見て美しく可愛らしいと思ったんです。そしたら怖さなんて吹き飛びました」
「───へ?」
アレ……? うまく思考がまとまらない。彼はいま何と言ったの? 美しい? 可愛らしい?
「だれが?」
「貴女方お二人です」
嘘じゃない。嘘じゃないっ。嘘じゃないッ!
本当にそう思っている。自分の眼が信じられないほど、信じられないことが起こっている!
「好き……ってこと?」
違うでしょバカ! なにを小学生低学年が初めて恋をしている相手にする質問をしているのよ! 合っているのは初恋の部分だけでしょうがっ!
「うーん……出会ったばかりですので第一印象に寄ってしまうのですが、好印象ですよ」
勝利ッ! 勝利しましたわァァァ───!!!
「───お二人とも」
ぐっ………いえ、仕方ないです。なんの偶然か運命の悪戯か、彼女も彼の主人になってしまったのですから。片方だけ褒めると、後々ややこしくなってしまうのは目に見えています。
「何があったのかは分かりかねますが、涙を拭いて下さい。綺麗なお顔が台無しに……いや、泣いても美しいのは反則ですよ?」
「
「いま文章量に似合わないルビの振り方しました?」
「いいえ?」
「あ、はい……」
彼は私の手を持ち立たせてくれる。嗚呼、なんて優しいのかしら。こんな私の心配をして、涙まで拭ってくれるなんて。それに一度、絶望の底に落としてから上げるだなんて高等テクニックを、他の悪い虫が受けたらマズイ。帰ったら対策を立てなくては。
「もう大丈夫みたいですね。それでは早く自己紹介を済ませてしまいましょう」
「ええ、何時間でもっ!」
「数分でいいですよ?」
▽▽▽▽▽
「吾のエンペラーカイザーが1番よ」
「いいえ、ゼウスオブゴッドが相応しいわ」
そんなこんなで、大変な自己紹介が終わり、ようやく俺の名付けを始めたところ、2人して言い争っている。
名前を考えてくれるのはスゴく有り難いし嬉しいのだけれども、どっちもネーミングセンスが抜群に悪い。
(このままだと邪神にまでなりそうだな。うーん、いい名前はないものか……)
そう悩んだ時、ふと言葉にしてしまった。
「───…クロス」
「「──え?」」
思い出したのは胸の傷である。契約紋が浮き出てきた、バッテン
「あっいえ、何となく口に出てしまったので」
慌てて取り繕うとするが、自分でも妙にしっくりくる名前だなとも思った。
「ええ、私は良いと思います」
「吾も賛成ですよ。偶然が重なってアナタに出会えたのですから」
まさか賛成されるとは思わず、少し嬉しかった。
「クロス……はいっ、自分はこれからクロスと名乗ってお仕えいたしますっ!」
そう笑顔で言うと、2人して突然気絶をしてしまった。だが、鼻血を出しながらもその顔はどこか幸せそうだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここまで読んで頂きありがとうございます。
高評価、感想お待ちしております。
ああ、長い。とても長い。文章量はどうでしょうか? 私個人は読みやすい量を心がけていますが、一体どれくらいが一番いいのでしょう……分からん
それではまた次回でお会いしましょう。
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