第2話 貴方が私のマスター……2人いるんだが?

 最初の大騒ぎから少しして、いま壇上にいるのは俺1人だけ。逃げ出した4人をオークみたいな……じゃない、本当にオークが連れ戻したのだが……。


『うわァァァ──!?』『ヤダヤダヤダ、殺されるっ!』『あば、あば……』『ゲロゲロゲロ』『あは、あはははははは!』『ここは誰、僕はどこ?』『私たち』『入れ替わってるー!?』


 阿鼻叫喚。というか何人いたよ。

 白と黒の2人の女性から放たれているプレッシャーは人間にとって耐えられないのだろう。なにせ他の魔族(?)でも耐え切れずに、途中退席しているのだから。


「え、えー……ではオークションを再開します」


 進行役の人も大変だ。こんな状況でも与えられた仕事をこなさなければならないんだから。あ、ちょ、待って、何でボロ切れふくを脱がす!? 俺は露出させて興奮する変態じゃない!


「この人間は胸に傷があるものの、それ以外で目立ったものは無く、いたって健康体であります」


 うわ、ホントにバッテンの傷がある。ポコ○ンは生前より小さいな……身体が若いからか?

 自分の身体をマジマジと観察していると、ふいに進行役の人と目が合う。俺のプリティーなケツでも狙って……ああはい、売り込めアピールしろと、分かりました。


「100番、顔良し、性格良し、頭良しです!」


 「自己評価高過ぎないか?」などと考えたそこの馬男、アピールっていうのは相手に強い印象を持たれたら勝ちなのよ。あとから盛ってるだろと言われようが、それが笑い話に繋がるからバレても問題ない誇張はやっておけ。「そして」と俺は続ける。


「──強靭な精神力を持っています」


 会場がざわついた。決まったな……あ、違った、札が挙げられたからか。


「「500万ベイル──え?」」


 お金の単位はベイルなのか、500万って高そうだけど平均はいくらくらいなのか。


(──って挙げたのあの白と黒かよ、仲良いな)


「5...500万でお間違いないでしょうか?」


「「550万……600万、630万」」


「ええ……?」


 やっぱり高いんだな、進行役──もう牛くんでいいか──牛くんも引いちゃってるよ「コイツに?」っていう顔してるもん。失礼な。

 金額の増え方までまったく同じだし、なんだか静かに水面下でバチバチ争ってる雰囲気。


「「800万」」


「一旦お待ちくださいっ! 金額が非常に高くなってきておりますので、5分の休憩のあと【最終提示形式】とさせて頂きます!」


 牛くんがそう言うと、さっきまで争っていた2人が真剣な表情で黙り込む。いや、表情は最初から変わってないから真剣な雰囲気?


「100番、お前はちょっとこっち来い」


「ん? あ、はい」


 俺は来た道を戻っていく。心なしか牛くんの表情は固い。入れられていた檻の前までやってくると、そこにはスーツ姿がまったく似合っていない鬼がいた。


「おおっ100番くんではないか! キミは一体どんな手品を使ったんだ、あのご令嬢がたが競り合うなど初めてだぞっ!」


「イケメン好きだったんじゃないんですかね?」


「ハッハッハ、ジョークもできるとは!」


 ジョークちゃうわ、お前のパツパツなスーツの方が冗談だろうに。それより、最終提示形式とはなんぞや?


「なに簡単に言うと"一発勝負"ってヤツだ。紙にお前の落札額を書いて提出、より高い方が獲得。な? 簡単だろ?」


「同じ場合は?」


「同じ? ハッハッハ、あり得んよ、なんせ1桁まで書くんだ。まぁ、奇跡的に同じ額なら──」


 「契約魔法を同時に行って決める」んだそうだ。鬼もといオーナーは終始上機嫌で、秘書に呼ばれる前まで美味いメシなんかを分けてくれた。


 さて、俺は俺で情報収集をしよう。ちょうど情報の塊みたいな転生者くんがいるんだ、訊いておいて損はないだろう。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「れ、レイチェルお嬢様」


「……なに?」


「ヒッ──そ、外に出ておりますので何かあればお呼び下さいませっ!」


 ああ……彼女も私を怖がる。

 いつもそう。何もしていないのに、みんな怯えた目でこっちを見る。ガタガタと震えて助けてくれと、殺さないでくれと半狂乱になりながら懇願する。


 魔法コレ自体が他者へ根源的な恐怖を植え付けてしまう。それも無差別に…家族でさえ。


 抵抗できるのは似たような異様な魔力を持つ者、同じ公爵家の彼女だけ───


「彼は違う──違った。だった……!」


 自分に好意があると言ってきた者がいた。でも、私の眼が他者の感情を読み取ることは知らなかったみたい。公爵家の力が欲しかっただけ。恐怖に怯えながらも利益を得ようとする気概だけは認める。でも、私が欲しいのは。両親でさえ与えることは出来なかった愛が欲しいの。


「だから待っててね───私だけのあい


 ニヤケてしまい、普段は見せたくないギザギザの歯が露わになってしまう。でも仕方ないじゃない、この世に存在しないと思っていたモノが目の前に現れたのだから。踊り出したい気分よ。


 眼だけは紅だけど、それ以外の頭から爪先までは真っ白。そんな私の頬っぺたは、鏡を見なくても赤くなっているのが分かる。


「絶対に離さない…絶対に」



▽▽▽▽▽

「しばらく部屋に入らないでもらえるかしら?」


「はっ、はい、かしこまりました! ふぅ……」


『エルフィーネお嬢様、紙の提出は直前に行われるとのことでございます!』


 部屋の外で待機している侍女に「分かったわ」と伝える。待機部屋にはわれだけ。


「フ、フフ、フフフフ──!」


 嗚呼、なんて素晴らしい日なのかしら。まさに運命。今までの悲しみは、今日という日のためだったと思えるほどの幸運。


「こんな吾に笑顔を向けてくれた……」


 。権力の前に無理矢理作られた偽物ではない笑顔。

 恐怖を掻き立たせる魔力を持って生まれた吾は、生きとし生けるもの総てを恐れさせる。それが敬意ある恐れ、畏怖であればどんなに良かったか……。現実はただ逃げられ、助けを請われるだけ。

 

 愛を囁かれたことはある。真っ赤な嘘だったが。光すら反射させないこの黒い眼は、他者の感情を色で認識する。


 なぜ吾は普通じゃない? そう考えない日はなかった。何度も枕を濡らし、眠っても現実あさは来てしまう。


「でも、もう大丈夫。だって───」


 キミがいるから。

 あの笑顔は本物だったと、何を隠そう吾の眼が映したのだから。


「離さない……絶対に、たとえ世界を滅ぼしても」


 だから待っていてね、愛しのキミ。

 吾だけのキミ。



▽▽▽▽▽

「それではレイチェル•ヴァイス様、エルフィーネ•シュヴァルツ様、両名の金額を発表申し上げます」


───【1500万9965ベイル】


「「は……?」」


「一桁までまったく同じ……てことは」


「「契約魔法!」」


「はっはい! 我慢しろよ100番!」


「えっ、もうやるの───痛ッデェェッ!??」


「お2人とも魔力の注入を!」


 「注入を!」じゃねえよっ! 死ぬほど痛いんだが!? それに2人とも魔力ってヤツ入れ過ぎ……メチャクチャ苦しい…。


「い、入れ過ぎです! それでは彼が破裂してしまいます!」


「「……っ!」」


 やっぱり入れ過ぎだったんだな。いまは声すら出せないや。


「あぁ、なんて事だ……契約の紋様が出てこない……失敗です」


 うん……? 3人ともなんで暗い顔してんだ? まさか、失敗=死ってわけじゃあるま──


「彼は死にます」


「いや、死ぬんかいっ!」


「へァ───ッ!?」


 あっ、ビックリし過ぎて声出ちゃった。いや、でも何だか身体が軽くなってきたぞ? 昇天か? 昇天しかけてるってことですか!?


「なっ……なんと、信じられん」


 何が信じられないのかは置いといて、なんか胸が熱いな? ん?


「先生、コレなに?」


「あっ、よかった。それが契約の紋様だ」


 おおう……。先生の言葉に、白黒の2人が超絶的な反応を見せたよ。首が「グリンッ」ていってたからね、大丈夫?


「白と黒の……ハートマーク? 結局どっちと契約したんですか、先生?」


「それは……」


 もの凄く言いづらそうな様子の先生。そりゃ2人がガン見してるからなんだけど。


「りょ、両方……です」


「両方……?」


「ああ、お前の契約の紋様は両名の魔力でもって形成されている。つまり」


「主人が2人……てこと?」


「信じられんだろうがそのようだ。異なる2人の魔力が均等になって契約紋を形作るなど聞いた事がない」


「………」


 貴方が私のマスター……2人いるんだが?


「アリなの?」


「アリなの」


 アリなのか。そっかぁ……。どうすんべ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここまで読んで頂きありがとうございます。

高評価、感想お待ちしております。


なんとか短くしようとするんですけど、長々と駄文が続いてしまいます。誰か文才を分けてくれー。

それではまた次回で。


                    研究所

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