おいで、おいで
笑門みら
第1話
「今日も、いい天気だなぁー。」
私は、いつものように小判を持ち、日向ぼっこをしていた。ある日、私はふと思った。
「みんないろんな色をしていていいなぁ。」
そう、私は白の招き猫。八百屋さんをしているご主人さまの商売繁盛を願って、いつもお客さんを招いているありがたい招き猫。でも、私の体は真っ白、ただの真っ白。
「私の体にも、色がほしいな。」
と、ため息をついていた。
「へい、いらっしゃい。」
ご主人のところにお客さんがやってきた。そのお客さんは、赤いきれいなワンピースを着ていた。
「あーいいな。私にもあんな色、欲しいな。ワンピースの赤い色よ。おいで、おいで。」
と、何気なく、小判を持っていない手で色を招いてみた。すると、お客さんのワンピースの赤い色が抜かれていた。
「あれ?お客さん、さっきまでワンピース、赤に見えてたけど、真っ白になってますよ。僕の目がおかしくなったのかな?」
一番最初にご主人さまが、その異変に気づいた。
「あれ。私も赤いワンピースを着てきたつもりですのに。それに、白いワンピースなんて持ってたかしら?」
と、お互い首を傾げていた。私も赤に見えていたんだけど、もしやと思い窓のガラスに写っている自分の姿を見てみた。すると、耳があのお客さんの着ていたワンピースの色になっていた。
「やったー。赤い色の耳だなんて、嬉しいにゃん。」
私は、次に何色を招こうかと探していた。ふと、目についたもの。それは、緑と黒のギザギザしましま模様のスイカだった。
「よし、今度はスイカの色を招いてみよう。スイカの色よ。おいで、おいで。」
さっきみたいに、手で色を招いてみた。すると、一つのスイカの色が真っ白になってしまい、私の顔はスイカの緑と黒のギザギザしましま模様になっていた。
「あれ?そのスイカ変わった色をしてますわね。」
今度は、お客さんが先に気がついた。ご主人様は、首を傾げながら、
「あっ、本当だ。こんな色のスイカなんて入荷してたっけなぁ?」
私は、カラフルになっていく、自分が素敵に見えた。
ふと、外を見ると、雨がポツンポツンと降ってきた。
お客さんは、雨が降ってきたので慌てて帰って行きました。ご主人さまは、真っ白いスイカとにらめっこをしながら、首を傾げていた。私は、次に何色を招こうと迷っていた。
「次は体だから、もっとカラフルにしなくっちゃ。」
私は、辺りを見渡して考えていた。ふと、窓の外を見てみると、雨が止んでいた。空にははっきりと七色の橋がかかっていた。きれいな虹だった。
「そうだ。今度は、虹の色を招いてみよう。七色の虹よ。おいで、おいで。」
また、手招きしてみた。すると、七色の橋は真っ白な橋になってしまった。ガラス窓には、虹色になった体が映っていた。
「わーい、わーい。カラフルになったにゃん。」
私は、すっごく喜んだ。カラフルになった自分が、素敵に見えた。
「あれ?昨日、磨いたばかりなのに、おかしいなぁ。」
ご主人様は、タオルを片手に近づいてきた。
「ご主人様。見て見て、素敵でしょ?」
ご主人様にそう言った。しかし、ご主人様はタオルでゴシゴシと磨きながこうつぶやいた。
「なかなか汚れがとれないなぁ。白い色のほうが素敵なのに、もったいないなぁ。」
私は、びっくりした。ご主人様は、カラフルな私よりも、真っ白な私のほうがいいんだ。でも、戻り方が分からない。
ご主人様は、何回こすってもとれない色を諦めて、首をかしげながら奥へと入って行った。
「いやだよ。もっとご主人様と一緒にいたいよー。お願い!!元の真っ白な色に戻ってー。」
そう言うと、色が飛び散っていき、元の真っ白に戻った。
「今、思うとバカなことしたなぁ。」
去年の夏。自分がしたことを思い出していた。私は、窓に映る自分の真っ白な色を見て思った。
「本当の自分が一番素敵。」
おいで、おいで 笑門みら @8saku_m
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