第六話

 エビセン陣営は盛り上がっていた。エビータの誕生日だったからだ。

 はっぴばっすでーつーゆー、はっぴばすでいでぁエビータぁ。わあぱちぱちぱちぱち。

 ケーキをとりわけられたイカフライが突然キレだした。

「なにやってんじゃコラア」

「えっなにちょっと切るの小さかったからって怒らないでよ。六等分するの難しいんだから。イチゴがのっているやつがよかったんなら最初に言ってよ」

 イカフライはフォークを机に突き刺した。

「違う。お前らいつになったらエビフライ規制を阻止しようと行動するんだ。オレがここに来てから全然進展しないじゃないか。どうするんだよ。このまま放っておいたら可決されるぞマジで。いいのか」

 ケーキ待ちしているエビチリはくわえているフォークを口から離した。

「まあまあそんなことケーキ食べてからでもいいじゃないか。せっかくのエビータの誕生日なんだし」

「今のことじゃねえ。昨日もおとといもなにもしていないじゃないか」

「昨日おとといはサプライズ会議していたじゃいか。君もラップの歌歌ってごきげんだったじゃない。というか今ラップしないの」

「もうラップしてられない。見ていられない。日本最北わっかない。そんなお前らおっかない」「してんじゃん」

「お前が振るからだろ」「振ったからってするか普通」

 エビータが机を叩いて立ち上がった。

「さっきから聞いていれば。お前は私のお誕生日会を潰す気か」

「話聞いていないだろ」

 しかしそんなイカフライもケーキを目の前にされては食べないわけにもいかなかった。なにしろケーキの嫌いな人はいない。小麦アレルギーでもない限りは。というか小麦アレルギーで思い出したぞ。

「おいブラザー、オレの取材みくびるな。すごい情報もってるオレ聞きたいかオレの情報聞きたいか」

 なに突然ぐいぐい来るね。どうしたの。

「その蕎麦川知事エビアレルギーだからってエビフライ規制しようとするが。娘のコムギ、小麦アレルギー放置したまま。許されるコレ。許されないボンゴレ。オレ。どうこの世論、訴えるに十分な証拠だろこれ」

「マジ。それ知らなかったよ」

 エビチリが言うとイカフライは不遜な笑みを浮かべた。

「ウチ知ってたよそれ。ウチ、コムギちゃんとズッ友だし」カニコが風船ガムを膨らませながら口を挟んだ。ケーキ食べないのかよ。

 なんだこっちも急なカミングアウトだな。コムギちゃんて十二歳だろ。どうみても十歳は離れているだろ。どういうつながりだよ。

 イカフライは肩をすくめる。

「おいおい嘘も大概にしろよ」

「はあ。知らないの。コムギちゃんてユーチューバーで有名なんだよ。ウチとはオールで相互だし」

 イカフライはたじろいで後ろに置いてあったラジカセにつまずいて転んでしまった。

「ユーチューバーってどんな配信しているの」

「知らないの。イージージーって名前でゲーム配信しているよ」

 ひとりイスからひっくり返った者がいた。エビータだった。

「なんだって。イージージーと言ったか」

 カニコの膨らませたガムが割れて顔に覆いついてしまった。「そうだよ」

「いつもいつもいつもソシャゲランキング上位に君臨するイージージーが十二歳の女の子だというのか。嘘の嘘も大概にせえよ」

「嘘じゃないし。じゃあイージージーの配信見ればいいし」

 エビータは教えてもらったイージージーのチャンネルを見た。顔出し配信もしている。そしてエビータがやっているゲームも同じように映し出された。その配信では名前が隠しきれずエビータがボコボコにされている映像もあった。

「え、コレエビータなの。ちょーウケる。めっちゃやられてんじゃん」

 エビータはまだ切られていないケーキをわしづかみにすると口にほおばり天に向かって吠えた。

「上等だ。やってやろうじゃねえか。これは戦争だ。エビフライ規制絶対ぶっ潰す」

 そばでステーキが急に泣きだしてケーキに取り乱してしまっていた。そうだ、まだステーキにもケーキをわたしていなかった。エビータは手が付けられないほど興奮しているし、タロウは動かないし。だからあまったエビチリがコンビニにケーキの買いだしに出された。カニコが行くわけないし。どうなのこの組織。

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