06話.[飽きるじゃない]
「はい――え、なんで僕の家を知っているの?」
そこに立っていたのはよく分からないことばかりをしている出原さんだった、彼女は「それは様子がおかしかったあの日にこそこそーっと尾行をしてね」と教えてくれたけどなんでそんな無駄なことをするのかと額に手を当てたくなった。
「さっきまで一緒にいたんだから普通に聞いてくれればよかったのに」
「それじゃあつまらないじゃん、上がらせてもらうね」
昨日はちゃんと祝ってあげたのだろうか? というか二十五日、つまり今日どうするのかを彼女には聞いていなかったからどう行動するのかが気になり始める。
「まだ夜じゃないけどクリスマスなのに僕の家にいていいの? それこそグループの子達と集まったりするんじゃないの?」
「昨日集まったからあのグループの子達と盛り上がるのはそれだけでいいんだよ、今日は一人寂しそうな女の子の相手をしにきたってわけ」
「別に一人じゃないよ? あ、お兄ちゃんはいないけど両親と過ごせればそれで十分なわけなんだし……」
なにもお友達と過ごすことだけがクリスマスの楽しみ方というわけではない、と言うより、これまでお友達とクリスマスに過ごすということをしてこなかったからどういうテンションでいればいいのかが分からないのだ。
失敗をして悪い雰囲気にしてしまうかもしれない、そうしたらせっかく来てくれた彼女に迷惑をかけてしまう、だから迷惑をかけることになるぐらいなら最初からなにもしなかった方がいい気がした。
「ふーん、じゃあ帰ろうかなー」
「あっ、だけど昨日も両親とは盛り上がったから一日ぐらいはお友達と過ごせる日があってもいいのかもしれないっ、出原さんが大丈夫ならだけど……」
でも、結局欲に負けてこんなことを口にしてしまった形になる、口先だけ、考えるだけ、それの繰り返しばかりで恥ずかしい。
「大丈夫じゃないなら来ていないでしょ、というかね、余計なことを言わずに最初からそう言いなよ」
「……いいの?」
「はぁ、なんで最近はこうなんだか」
「……どちらかと言えば出原さんのせいなんだけどね」
それこそ露骨な態度でいても気づいてくれていないみたいだからちゃんと言っていかなければならない。
まあ、これは矛盾してしまっているんだけどね、受け入れられないなら去ればいいのにそうすることもせずに不満だけを溜めているわけだから僕は馬鹿だ。
「はい? なんで私のせいなの」
「だって中途半端に来るからじゃん、だから期待して待っているけどそういうときは来ないからさ……」
「確かこの前、瀬野さんに寂しがり屋とか言っていたような気がするけど、私からすれば和音の方がそれに該当するよ」
もう寂しがり屋でもなんでもいいからこの中途半端な状態だけはなんとかしたかった、結局どこまでいっても他者といられる時間を求めてしまうから相手の方がはっきりしてほしい。
相手が無理、一緒にいたくないと言ってくれればそういう気持ちが出てきても一人だから無理と片付けてなんとかやっていけるはずだから、うん。
「いいから安心しなさい、今日はちゃんといまから最後まで一緒にいてあげるから」
「……なんか我慢をさせているようで嫌なんだよ」
もうこれ以上は駄目だ、構ってちゃんになってしまうから変えよう。
「でも、いてくれて嬉しいと思っているんでしょ?」
「うん」
「じゃあいいじゃん、私が嫌だったらそもそもここに来ていないよ」
滅茶苦茶恥ずかしいなこれ、なんか彼女の恥ずかしいところの一つでも見せてもらわないと不公平な気がする。
というわけで座っていた彼女の両肩を掴んでこちらに意識を向かせて、今回も言わないと伝わらないから真っ直ぐにぶつけた。
「そんなの勝手に恥ずかしいところを晒している和音が悪い――ひゃ!? ふ、ふわっとして怖かったんだけど!」
「ふふふ、そういうところが見たかったんだよ僕はね!」
「いいからどいて!」
満足できたから後で泣くことにならないように課題をやっていくことにした、いつも年内には終わらせてゆっくりするのが決まりだったから今年だけ頑張ろうとしているわけではない。
自分のためだったらいくらでも頑張れちゃうからね、他者が絡んでくると駄目になるけど自己中心的な性格だからそういうことになる。
「まったく、やっと回復したと思ったら変なことをしてきて困っちゃうよ」
「そういう人間のところに何回も来てくれているのが出原さん、そうでしょ?」
「いまので半分ぐらいは飛んでいったけど、まあ、いまから帰ったところで誰と過ごせるというわけじゃないから残るよ」
残ってくれるということならしたいことがある、言ってしまえばなにかプレゼントを買って渡したいのだ。
同性同士だから関わった時間の短さなんかは関係ない、それにそういう会に参加していれば仲良くない子とプレゼント交換なんてこともあるだろうからおかしな考えではないだろう。
「それならなにか買いに行かない? あと、公園とかで食べようよ」
お友達と寄り道をしてなにかを買って食べたりしたいという考えからきている、そしてそれをいきなりクリスマスにできるのであれば最高ではないだろうか。
言った瞬間に明らかに嫌そうな顔になったから受け入れられる可能性は低いけど、どれも言ってみなければどうなるのかなんて分からないのだ。
「なんで敢えて寒いところで食べなきゃいけないの……」
「階段に座って食べられるんだから余裕でしょ、ゴミをちゃんとすれば怒られることはないよ」
「いやだからそういうことじゃなくてさ、うーん、なんかずれているよね」
「あれだけ確認しても受け入れてここにいてくれているんだからいいでしょ? だって出原さんのお家とかは無理でしょ?」
「いや、外で食べるぐらいなら和音を家に連れていくよ、知られらたくないとかそういうこともないんだから」
あ、いいのか、外と比べたらということで許可してくれているようなものだけど言うことを聞いておこうか。
とにかくなにをするにしても食べ物や物を買わなければ始められない、まだお昼で余裕があるから早速行動することにした。
「なにが欲しい?」
「じゃあゲームのカセット」
「はい無理――あ、ぬいぐるみにしようか、このうさぎのやつとかどう?」
サメとかイルカとか色々な動物の物があるけど彼女にはうさぎが似合うと思った、結局みんな寂しがり屋だからそんなに間違ってはいないはずだ。
「可愛いけどこれも高いよ?」
「二千円までの物なら大丈夫だよ、好みの物を探して」
どうせ渡すからには適当な物では嫌だった、これもまた自分中心の考えでいるからこそだけど守ってもらう。
別に損をするわけではないのだから微妙な顔をしたりはしないだろう、これでそうするようなら全てを諦めた方がいいかもしれない。
「ふーん、じゃあ……これかな」
「って、最初のでいいんだ」
「それよりも家に連れて行くことが目標だからね」
「ちゃんと逃げずに行くからちゃんと選んでよ」
「これでいい、可愛いからね」
難しい、けど、お店に延々といるわけにはいかないから結局お会計を済ませて渡すことにした。
もう開き直って生きていこう、直前と直後で分かりやすく結果が変わっていたとしても触れずにいこう。
僕がしなければならないことは拗ねなくても相手が来てくれるようにすることだ、瀬野さんは無理そうだから出原さんとだけは普通のお友達のようにやっていきたい。
なんならあのグループから奪うぐらいの勢いでやりたかった、どうせならずっと一緒にいたいもん。
「さてと、ご飯を買って私の家に行きますか」
「あ、やばい、出原さんのお家に行くことを考えたら緊張してきた」
盛り上がるとか盛り上がらないとかは別としてそもそもクリスマスに上がらせてもらうのはありなのだろうか? 他の子ならこういうときはお友達と盛り上がるためだと全く気にしないで上がらせてもらうのかな。
なんでこれまで真面目にお友達を作ってこなかったのか、そしてクリスマスに盛り上がろうとしてこなかったのかと後悔が……。
「瀬野さんの家には何回も上がっているんだから大丈夫だよ、お母さんもお父さんも干渉してこないから安心して過ごせばいいよ――あ、泊まるとかどう?」
「えぇ」
「はい決定、そのリアクションが最高だから決定ね」
やっぱり意地悪ではないか、でも、こういうときに限っていい笑みを浮かべているんだよなぁ。
仕方がないから一旦自宅に帰ってお風呂に入ってしまおう、そうすれば着替えを持って行く必要もあっちでお風呂に入る必要もなくなる。
「ははは、私の家はそっちじゃないよ」
「ああ、一旦家に帰ってお風呂に入ってこようと思ってね」
「着替えを持ってくるために一旦帰るのはいいけど、お風呂に入るのは禁止ー」
「もうこうなったらこっちの家で――はい、分かりました」
これだけゆっくりしていても十七時になっていないということがいつもとは違う点だった、ただ、自由に行動できていいという考えは出てきてはいない。
授業を受けて放課後になったら帰るという毎日は――いいか、早く行こう。
「こんな感じなんだ」
「干渉はしてこないけどリビングでは過ごせないから部屋に行こう」
「あのさ、干渉してこない干渉してこないって言っているけどもしかして仲良くないの?」
本当のところを隠す子だから意味はないのかもしれないけど今回も自分のそれを優先することにした、直接役に立つことはできないけど吐くことで多少は楽になるかもしれないから損ばかりというわけではない……はずだ。
「仲良くはないけど仲悪くもないよ、部屋に行こうとしているのは家に帰ってきたときに二人が休めるようにするためなんだ」
「ははは、優しいじゃん」
「でしょ? あとは和音のためだよ」
はぁ、彼女はずるい、優しくされたらこっちが期待すると分かっているのに敢えてやっている、逆に無自覚なのだとしたら怖い存在ということになる。
まあ、その場合でも結局彼女が嘘つきであることには変わらないけどね。
「最近分かったんだけど僕って独占欲が強いんだ、だからそういうことばかりを繰り返していると勘違いしちゃうよ?」
「ふーん、それでその独占欲が強い子は私になにを求めるの?」
おっと? まさかこうやって聞き返されるとは思っていなかったから驚いた、なるほど、彼女はこういうときに「やめてよ」とか「嫌だ」とかではなく「どういう風にするの」と聞くタイプなのか。
こうして少しずつ知ることができているのはいいことだと言える、ただ、次こそ選択ミスをしたら駄目になりそうだ。
数回はチャンスを与えるタイプなのだろう、で、僕はこれまでに既に失敗をしてきているわけだからそうなる可能性は高かった。
「そんなの冬休みでもなんでも一緒にいてほしいというこだよ」
「なんだその程度か、もっとすごいことを求められるのかなと思っていたんだけど違ったみたいだね」
「や、やっぱり僕に気に入られようとしているの?」
「ふふ、どうだろうね」
適当に端の方に寝転ばせてもらって天井を見つめる、いまの内側とは違って真っ白で奇麗だ。
自分の部屋でもないのにそんな奇麗な場所にやられて眠気がやってきてしまった、ごちゃごちゃなんかどうでもよくなるぐらいには寝ることが好きだということで笑えてくる。
ただまあ、それをよしとしないのが彼女であり、さっきの僕よりも大胆なことをしてきたのが現状だった。
「その点に関しては私も変わらないと思う、いや、和音よりも強いよ」
「でも、誰でもいいわけじゃないでしょ?」
「そもそも独占欲は恋をしているからと出てくるものじゃないしね、和音だってただ構ってほしいからでしょ?」
「うん、恋ではないかな」
「うん、で、誰でもいいわけじゃないのも確かなんだよ」
あ、一応言っておくと未だに見下されたままだから変な時間は継続中となる。
こうして下から見ることってないからついついじっと見ていたら「ちゃんと聞いてるの」と少し怒ったような顔になったから頬に触れた。
「冷たっ」と分かりやすい反応を見せてくれている彼女が面白くてすぐに離したりはしなかった。
「ずっとこのままだとこうして触りたくなっちゃうかもしれない、同性なのをいいことに抱きしめたりとかもしちゃうかもしれないよ」
「なるほどね、和音からしたら私はいい存在なんだね」
誰にだってこんなことをするわけがない、そもそも誰にでもこういうことができるのであれば一人になってはいないだろう。
前も言ったようにそういうことをする人間ではなくてよかったとしか言いようがないけどね、あ、でもあれか、もし最初からそういう人間だったのであればそれが標準なわけだから違う僕の方に違和感を感じていたかもしれないのか。
あくまでいまの僕目線だからこその意見であることには変わらないため、○○でよかったと考えてしまうのはちょっとあれかもしれない。
「そうでもなければ言うことを聞いてここに来たりはしていないよ」
「あ、真似をして」
「内容が違うでしょ、だからとにかく気をつけてくださいな」
ついでにどいてもらって今度こそ目を閉じた。
どうせお泊りをするということならいまからハイテンションでいても早めに寝ることになってしまって損をするだけだ、それなら少しお昼寝をして十八時ぐらいに起きるのが一番だと思う。
地味に初めてのことだから失敗で終わらせたくはないのだ、多分、それをちゃんと分かって彼女もそっとしておいてくれる――駄目か。
「邪魔をする意地悪な子にはこうだっ」
うん、なにも言ってきてはいないからこのまま寝よう。
くっついているのもあって風邪を引く可能性が低いのもよかった。
「なにをしているんだか」
勢いでやってきたことが腕を抱くことってなにをしているのかと言いたくなる、いや、言っていた。
ま、こうして横から動けずにいるわけだから彼女的には満足かもしれないものの、幸せそうな顔で寝ている彼女に違うでしょとぶつけた。
「あ、いま大丈夫? ぐうたら娘さんが寝ちゃったから電話をかけさせてもらったんだけどさ」
「ええ、大丈夫よ、それより最近は随分と仲良くなっているのね」
「まあそうかもね、でも、美森がちゃんと構ってあげなかったのも影響しているよ」
「でも、もう大丈夫だから、あの子も十鳥さんに会いたがっているから後は私にまかせてちょうだい」
前までならうんと任せているところだけど残念ながら今回はそうならなかった。
依存させたいわけではないけどいまは完全にこちらを求めているし、私も気に入っちゃっているからなおさらそういうことになる。
ま、どうせ美森がちゃんと関わっていればこっちになんか微塵も興味を抱いていなかっただろうけどね、ただ、そうはなっていないのだから続ければいい。
「やめておいた方がいいわ、あなたはどうせすぐに飽きるじゃない。事実、十鳥さんが拗ねてしまう前はグループの子のお誕生日を祝うことしか頭になかったでしょう」
「だけど私は美森と違って行けるときは行っていたけどね」
「それはたまたまよ、ふぅ、いまから私も行く――」
「あ、和音が起きそうだから切るよ、会うとしても大晦日のときにしよう」
好き勝手に言ってくれちゃってさ、いつでもなんににでもすぐに飽きるというわけではないのだ。
というか一ヶ月近く離れておいてよくあんなことが言えるよな、和音があっという間に戻る前提でいることもおかしい。
残念ながら昔からずっとあれだから直る可能性は限りなく低いというのがなんとも言えないところだった。
「ほら起きてー、風邪を引いちゃうでしょうがー」
「ん……もう十八時……?」
「まだだけどちょっと微妙なことがあってね、内側がごちゃごちゃしちゃったからもう食べようよ」
「えぇ、早いよ……」
動けないからって美森に電話なんかかけるべきではなかった、せめて明日にすればよかった、とりあえずそうやって言い訳をしてご飯を食べようとしたけど「瀬野さんのこと美森って呼んでいるんだ」と言われて固まる。
「はは、なんで苦手とか嘘をついたの?」
「いや、苦手なときもあるというのが本当のところかな」
どうするのが正解だったのか、でも、私があのときああして頼んでいなくても彼女は美森と一緒にいたわけだからあれが正しかったのかもしれない。
それ以外の理由で、また、彼女から近づいてくることを期待していたら卒業となっていたことだろうし、気に入っているいまを見つめればそういうことになる。
「別に瀬野さんが悪いわけじゃないけどさ、なんだかんだちゃんと来てくれていた出原さんの存在が大きかったよ」
「ふふふ、だって構ってもらえなくて泣いちゃうぐらいだしね」
「あれは僕でも涙が出るとは思わなかったんだけどね」
「え、あ、素直に認めるんだ」
「嘘をついても仕方がないしね、あ、はは、お腹が空いたからご飯を食べようか」
って、すぐにそっちに意識を向けるんかい。
まあいいか、食べたかったということに関しては嘘ではないから食べていくことにした。
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