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03話.[来てちょうだい]

　今日は瀬野さんが珍しいグループと一緒にいた。

　男女複数人ずつのグループだから危険とかそういうことはないものの、こういうことは珍しいからついじっと見てしまった。

　で、それが問題だったのか瀬野さんではないそのグループの子達から「言いたいことがあるなら言えば」とちょっと怒られてしまったのが現状となる。

　ちなみに瀬野さんがあなた達といるのが珍しかったから真っ直ぐにぶつけたら「え、これまでもあったけど」と言われて驚いた。

「いや嘘だよそれは」

　僕なんて誰にも呼ばれずにほとんどこの教室にいるのだ、それなのに初めて見たわけだからやはり嘘だ。

　裏でだけ会っていたのだとしたら嫌な予感がするけど、多分、僕の想像通りにはならないからこれは考え過ぎだと終わらせる。

「中道先生」

「十鳥さんか、他の子はよく寒い寒いって言っているけど十鳥さんは寒さに強いのかな？」

「普通ですかね、それより瀬野さんのことなんですけどいまって大丈夫ですか……って無理ですよね」

　明らかにどこかしらの教室に向かっているみたいだし、そうと気づいていたのに口にするなんて馬鹿だ。

「ごめん、いまから授業だから行かないといけないんだ、放課後なら聞けるけどどうする？」

「いえ、大丈夫です、聞いてくれてありがとうございました」

　そもそも本人に聞けばいいことを他の人経由で聞こうとするのは非効率でしかない、そのため、次の休み時間に突撃した。

　今回は席でじっとしてくれていたから他の子のことを考えなくていいのが大きかった、それと黙って付いてきてくれたのもいい。

「ねえ、あの子達と過ごすのって初めてだよね？」

「いえ、初めてではないわよ？」

「え、一回も見たことがないんだけど……」

「それはそうよ、だってこの教室で話したのは初めてだもの」

　彼女はこちらの髪に触れてから「嫉妬してしまったの？」なんて聞いてきたものの、そんなことよりも教室では話せないなんてどういうことだというそれが強い。

「認めてしまいなさい、そうすれば楽になるでしょう？」

「ま、いいか、聞きたいことも聞けたからもう戻ろ――あの、躊躇なく引っ張られると怖いんですが」

　あ、なんか怒ったような顔をしている……というのは悪く見すぎてしまっているだけか、あのグループの子達だって気になっていただけで怒っていないと言っていたし全部こちらに原因がある。

「まだ時間があるから付き合いなさい」

　付いて行ってみるとそこはなんてことはないただの空き教室だった、誰もいないと静かで、放課後で一人ならしんみりとなりそうなそんな場所だ。

　ただ、そろそろテストがあるからここでしてもいいかもという考えが出てきていた、家だとすぐに寝転んでしまって向き合っている時間よりも長くなってしまうからこういう場所の方がよさそうだ。

　また、ここなら学校に残っている誰かが来てくれる可能性もあるのもいい、もっとも、誰かが来てもまともに会話ができるとは思わないけども。

「そこに座りなさい、あと、髪に触らせてもらうわよ」

「うん」

　曖昧な長さだから結んだりもせずにそのままにしているけど、他者である彼女からしたら気になったということかな？　なんかゴムなんかをどこかから取り出して自由にしている。

「どう？」

「おお、地味だ」

　だから変なことはせずにそのままにしておく方がいい、その方が目立たずに済む。

　もうそういうことで絡まれる生活はごめんなのだ、いまだと力で勝つこともできないからなおさら気をつけなければならないのだ。

　誰かに守ってほしいと期待するのは違うから自衛をするしかないわけで、全く間違っている気はなかった。

「はぁ、なんでそういう感想がまず第一に出てくるのよ」

「うーん、だけど可愛いとか言うよりはいいでしょ？　一緒にいる身である瀬野さんからしたらいまの僕の方がいいでしょ」

「そうやって悪く言ってしまうあなたは嫌いよ」

　嫌いと言われてもこれが標準仕様だからどうしようもない、無理やり抑えて偽っている友達が欲しいということなら変えるかもしれないけどそうではないのだからずっとこのままだ。

「私の目標はあなたが自信を持てるようにすることよ」

「多分時間の無駄になるだけだと思うよ、それにネガティブ思考というわけでもないんだからいいでしょ？」

　変わろうとして空回からの大失敗をした過去があるから怖いのもあった、そういうのもあってなんにも努力をしていないのにあれもこれも欲しいと言っているわけではないのだから許してほしい。

「……今日の放課後はお出かけをしましょう」

「いいよ、冬だから温かい物が食べられるといいな」

「えっと、それならおでん……かしら？　飲食店に行けば沢山あるけど軽くということならそれしかないわよね？」

「肉まんとかもあるよ！　ちなみに僕はノーマルな肉まんが一番好きなんだ！」

「そういえばそうだったわね、ふふ、色々と探すのも楽しそうだわ」

　運動不足にもなりやすいからそれなりに歩けた方がいい気がする、なにかを食べるということならなおさらそういうことになる。

　いつもなら授業を受けて帰るだけの毎日だけど、こういうことができるようになるとそれだけで違うように見えた。

「瀬野じゃん、はは、あれから変わっていないな」

「まだ最後に会ってから一週間しか経過していないのだからそんなのは当たり前でしょう、いや、自分で言っておいてあれだけど私なんだから何日経過していようと変わらないわよ」

　ちょっと嬉しそう？　もしかしたら中学生までは毎日一緒に過ごしていた子なのかもしれない。

　彼女も犬だったら分かりやすく尻尾をぶんぶんと振っていそうだった、なんなら涎もたれていそう。

「はは、いつまで経っても瀬野で逆に安心できるよ、あ、それでその子は？」

「最近一緒にいるようになった友達なの」

「そうか、ちゃんと一緒にいられる子がいてくれてよかったよ」

　うん、身長差も丁度いい、二人がそういう関係であればふとしたときにゴミを取るふりなんかをしてキスをしていそうだ。

　外でされたらどんな感じになるんだろ、見られるかもしれないそんなところでしているということでやばいのだろうか。

「あ、そういえば集合場所に向かっているところだったからもう行くよ、またな」

「ええ」

　ちぇ、なにもなかったのであれば参加してもらって二人が仲良く会話しているところを見たかったのに上手くはいかないものだ。

「はぁ、不運だわ」

「え、嬉しそうな顔をしていたのにどうしたの？」

　彼女はため息をついてから「知らないから仕方がないわよね、あの子は中学生時代に告白をしてきた子なのよ」と教えてくれた。

「え、ということは振られたということなのにあそこまで明るく対応ができているということ？」

「ええ、煽りたいわけではないけど逆にすごいわよね」

　こんな反応をしておきながらあれだけど告白をした時期にもよるか、一、二年ぐらいに告白をして振られたのであれば十分時間は経過したし、仮に三年生の終わり間際でも高校二年の終わり間際まできているのだから足りないということもないだろう。

「告白ってする方はいいけどされる方は微妙よね、上手く片付けられる子ならいいけど私はいつまでも気になってしまうから」

「そうなんだ」

　モテる人でもいいことばかりではないというのは分かっているつもりだったけどこうして直接聞くことがあったりすると変わってくる。

　結局分かったつもりでしかないのだということ、うん、余計なことは言うべきではないな。

「よし、お店に行ってなにかを食べよう！　結局まだなにも食べていないからタイミング的には丁度いいでしょ？」

「ふふ、そうね」

「うん、じゃあそうと決まれば――ぐぇ」

　ちゃんと前を向いて歩こうとしたタイミングでお腹になにかがダイレクトヒットした、いつものように軽い威力ではなく結構強かったから冗談抜きで涙目になる、残念ながら進もうとしていた足もそこで止まった。

「ご、ごめんなさいっ」

「いや、きみは大丈夫だった……？」

「はい、本当にごめんなさい！」

　それでも急いでいたのかそれから何度も頭を下げてから走って行った、こちらが足を止めたことで横に来ることになった彼女は「どうやったらこの広い道幅でぶつかることになるのかしら」と言っていたけど僕が見ていなかったのもあるからそこで止めておく。

「これだよこれ、一年に最低でも一回は食べないと駄目だよね」

「私は友達と遊びに行ったときによく食べていたわ、最高で二十個も食べた年もあるのよ」

「二十はちょっと食べ過ぎじゃない……？」

「それはもう酷いことになったわ、色々と美味しい食べ物を我慢してダイエットをする羽目になったもの」

　露骨にダイエットをしたことはないけど減らさなきゃという考えから食事の時間を迎える度に微妙な気分になっていたときがあるからそのときのことを思い出して似たような気分になった。

「うっ、どうしよう、なんか怖くなってきちゃった」

「食べすぎなければ問題はないわよ、ずっとここにいても邪魔になるし早く注文をして出ましょう」

　き、気にしすぎていたら逆に太りそうな感じがしたから頑張って忘れて購入、外に出たらすぐに大きな口を開けてそれにかぶりついた。

　お、美味しいじゃねえかと内で負けていると、小さく口を開けて食べている彼女が見えてついつい集中してしまう。

　当然、ここまで見られれば僕でなくても落ち着かなくというもので、彼女は少し怖い顔になってから「見すぎよ」と言ってきた。

「食べ方が可愛いね、僕もお兄ちゃんもがつがつ食べちゃうから真似をした方がいいかもしれない」

「別に問題はないわよ」

　とはいえ指摘をされた際に恥ずかしい思いを味わうのはこちらだから少しずつ直していこうと決めた、上品とまではいかなくてもいいからとにかく下品にならないようにしたい。

　母からはそれなりの回数「落ち着いて食べなさい」と言われたことがあるから今回は僕が勝手に悪く考えているだけとはならないのもそれに繋がる。

「「ごちそうさまでした」」

　食べ終わってすぐに解散も寂しいからついついこちらからまだまだ見て回ろうと誘ってしまった。

　我慢をしてくれているだけかもしれないけど受け入れてもらえて嬉しかったし、こちらから見ている分にはつまらなさそうな感じは伝わってこなかったから安心できたのだった。

「ねえ」

「あ、この前の子か、瀬野さんとのことだよね」

「うん、本人がいるところでは話しづらいから廊下に行こうよ」

　ふむ、これはもしかしたらレアなやつかもしれないとテンションが上がっていく。

　昨今はそういう話も聞くようになったとはいえ、身近にそういう存在がいたわけではないから見ることもできなかったけど今回は違うのかもしれない。

　もしそうなら協力をしたいところだけど僕になにができるだろうか、連れて行くぐらいで役に立てるような自信が……。

「最近、急に瀬野さんといるようになって気になっていたんだよ、これまではろくに会話すらもできていなかったのにどんな魔法を使ったの」

「僕自身がなにかをしたわけではないよ、あ、矛盾しているけど僕が唯一していることと言えば早めに登校をしているということかな」

　それも彼女と話すためではなく自分のためだったけど実際、そうしていたからこそ話せるようになったわけだから嘘はついていない。

　嫌いと言われたときは、いや、嫌いと言われてもがーん！　とショックを受けたわけではなかった、あのときも考えたようにどこが悪かったのかが気になっただけだ。

　いらない情報だけど好かれることの方が少なかったからかもしれない、……自分で言っていて悲しくなってきたからここでやめておこう。

「なるほど、いつも早い時間に行くからそれで話す機会があったんだ」

「中道先生も影響しているかな、それよりなんで教室では全然話さないの？」

「私達のグループはみんな自分から近づくというのが苦手な子達ばかりなんだよ」

「うーん、その割には一緒にいるみたいだけど……」

「みんなは言い過ぎだった、一人を除いてそんな感じだからその子が動いてくれないとどうにもならないんだよ」

　瀬野さんと話せるようになったのもその子のおかげだと教えてくれたけど、一緒にいるときににこにこ楽しそうで全くそのようには見えなかったけどな。

　分からないことばかりだ、でも、みんなの情報をちゃんと把握できていてもそれはそれで怖いからこれでいいのかもしれない。

　特に彼女達からすればそういうことになる、また、頭の中がごちゃごちゃして疲れてしまいそうだからね。

「あ、それも気になっていたんだけどそれだけじゃなくてね、私、瀬野さんのことが――」

「うんうん、同性すら振り向かせてしまうような子だということだよね」

　しまった、我慢しきれずに少しフライングをしてしまった。

　だけど仕方がない面もあるだろう、本当にこんなことはレアだからやはりテンションが上がってしまうというものだ。

　別にそういう存在がいることを知って悪いことをしようとしているわけではないのだから神様も許してくれるはずだった。

「いや、苦手なの」

「えぇ！？　い、いまの流れからそんなことってあるの……？」

　まじかよ、これならまだ僕が嫌いとかあのときの瀬野さんみたいに言ってくれた方がマシだった。

　もう友達だからなんか気になってしまう、自分が言われることよりも気になってしまうというものだ。

　いやまあ、感じる心や考えられる脳があるわけだから苦手な子がいても仕方がないけど、なにもそれを僕に吐かなくてもって……。

「うん、あるんだよ。なんかさ、他の子と問題なく上手くやれる子が近づいてくると違和感が凄くなるというかさ、んー、なんて言えば伝わるのかは分からないけど来てほしくないんだ」

「も、もしかして来ないように言ってほしいとか？」

「うん、別に瀬野さんが嫌いってわけじゃないんだけどね、グループの子達と話しているところを見るともやもやするんだ」

　この子が所属しているグループはそのグループの子達としかいないから余計に気になってしまうということか。

　そうだな、あまり気は進まないけど無駄に嫌われてほしくはないから言うことにしよう。

　自分の考えを伝えるわけでもないのに怖いので、連絡先を交換しているのをいいことにスマホに頼ることにした。

「こういうことは直接言ってほしかったけどね、でも、教えてくれてありがとう」

「わ、悪く考えすぎないようにね、みんなに好かれるなんて無理なんだからさ」

「そうね、皆に気に入られようとしてすぐにできないと分かった過去があるから」

　過去の話をするときはいつも微妙そうな顔をしているし、やっぱりやっかまれたりとかもあったのかもしれない。

　なにが地雷になるかが分からないから両親や兄が相手のときなんか比べ物にならないほど難しかった。

「いまから私の家に来ない？　いま一人になると悪く考えてしまいそうだから付き合ってもらえるとありがたいわ」

「分かった、ワンちゃんにも会いたいから行くよ」

「ええ、それでいいから来てちょうだい」

　いやもう本当にこんなことなんてするべきではないな、不満を抱いている本人にこれからは頑張ってもらおう。

　こうして傷ついている……ところを直接この目で見ることになってしまったし、僕がそうなるきっかけを作ったようにしか見えないから問題なのだ。

　自分を守るためにスマホを利用してしまったというのも問題で、この先これがきっかけで関係が悪化！　なんてことになる可能性が……。

「ずっと前から分かっていることだけどそういうことなら直接本人から言ってもらえた方が楽だと分かったわ、他の子経由になると出てきた感情のやり場に困るもの」

「僕もそうだよ、悪く言われるのだとしても直接本人から言われた方がいい、お友達のことを悪く言われたら嫌だもん」

「そう……よね」

　いまの僕が言うのは逆効果にしかならないし、続けたところでメリットもないからここで無理やり終わらせた。

　その後はワンちゃんに頼ってご主人様をなんとかしようとするぐらいしかできなかった。