第6話

昼食の時間、すなわちお昼休みでは孤立してしまうのではないかと、ボッチ飯をいただくことになるのではないかと英琳は心配になっていた。

せめて、ここでは浮きたくない。

友人を作り、楽しい学生生活を送りたいと思っているので、自己紹介時間の状態のままではいけないとは思っていた。

しかし四人固まっていた女子学生達は休み時間に入ると同時に、肩を並べて教室を出てしまった。


どうすれば良いのか分からず、その場で俯き気味に座っていると肩をそっと叩かれた。

その女性は綺麗に整えたロングヘアーを背中まで流していて、洋服はシンプルな物だが、見るからに大人の女性と言った感じだった。

そんな女性を英琳は女性が教室に入ってきた時から気になっていた。

最初の印象は『綺麗』ただそれだけであった。

女性の自己紹介の時にも思ったことだが、女性の声はイメージよりも少し低い。

だが、それがまた良いのだとも言える。


「お昼、お弁当なら、一緒に食べない?」


(待ってましたー。あー実は、時計の秒針が六のところに行ったら話しかけようと思っていたんだよね…。でも、話しかけてくれるならそれで、その方が気が楽だから良かった。)


「あ、ありがとう。」


「こっち埋まっているね。じゃ、あたしの隣空いてるから、こっち座る?」


「うん、そうだね。」


最初は二人とも、少し緊張気味だったが英琳が動作する度に物を落とすと、女性の緊張は解けてしまったらしい。

二人の弁当が空になった頃、女性がやっと口を開いた。それまでも弁当の中身の話をしていたが、やはり色々と話せるようにはならなかった。


「自己紹介まだだったよね。あたしの名前は小林咲和。」


「最中英琳。今更感あるけど、よろしく。」


「なんて呼ばれたい?」


「こけしちゃん、でいいだろう。」


二人が会話しているのを聞いていたのか、チャラそうな男子学生が横から話しかけてきた。


「こけしみたいにおかっぱ頭をしているし、鞄についているキーホルダーもこけしだっただろう。」


「え、そんなのでいいの?」


「うん、いいよ。愛嬌あるし。」


とのことで、英琳のこれからの字は『こけしちゃん』になった。


するとなぜか、英琳と咲和の後ろに座っていた男子学生四人が、椅子を持って来て会話に加わっていた。

各々のが自己紹介をしていく。


「俺、葛西海。宜しくね、こけしちゃんと小林さん。」


「英琳はもう俺の名前知っていると思うけど、上川竜之介。」


「おいおい、こけしちゃんだろう?竜之介もこけしちゃんって呼べよ。」


「いいだろう、名前は大事だぞ。」


「はいはい、僕は優木怜音。こいつら煩くてごめんな。」


「そういう、お前だって同じようなものだろう。あ、俺は中富國安。」


「はいはい、お前らなんかの自己紹介なんてどうでもいいの。こけしちゃんと小林さんは、どこ出身なの?」


こんな時、英琳は自分が話すのは後にすることにしている。

先に話そうとして、声がかぶったら気まずいからである。

黙っている英琳の根端を察して、咲和は自分が先に話し出す。


「あたしは、鹿児島出身だよ。こけしちゃんは?」


「私は、ずっと東京…。」


「東京って、東京のどこさ。」


「えっと…、実家は港区にある。」


「すげー、お嬢様じゃん。」


「そそそそそんなこと、…ないよ。」


「本当かー?」


「もう、そんないこけしちゃんを虐めるなよ。小林さんの実家はじゃあ、海とか見えちゃうの?」


「うん、海辺だから何でもかんでも直ぐに錆び付くけどね。」


「海の近くって、錆びるのか?」


「お前、そんなことも知らないのかよ…」


その場は休み時間が終わるまで、話が尽きぬ程盛り上がった。


しかし、そんな中少し納得いっていない人がその場に一人いた。

川上竜之介はこんな煩い男達と共にではなく、もっと落ち着いた所で英琳と話したいと強く思った。

まだ出会って直ぐだが、既に彼の心は英琳の虜になってしまっていた。

それは彼女が単純に彼の好きな女性のタイプにドハマりしていた他に、彼女のおっちょこちょいな特性と優しい心が見えたからである。


(今日、学校が終わったら夕飯に誘ってみようかな。あー、でも早いか…)


そんなことを頭の中で考えながら、何もない風に皆に合わせて話していた。




午後一番には、校舎案内で校舎全体を徘徊した。

一階には事務局、ラウンジ、パソコン室、会議室、図書室があり、二階には臨床工学科の教室、三階・四階は別学科のフロア、五階に自習室と教員室があった。

実習棟が隣接されていて、一階は倉庫、二階・三階は別学科の実習室、四階が一年生用の実習室、五階が二年生・三年生用の実習室があった。

因みに実習棟と学科棟は渡り廊下で繋がれていて、連絡通路は三階にあった。


皆、教室まで戻った時には既にくたくたになっていた。


「教室に戻ってきて早々で、皆さん疲れていると思いますが十五分後、荷物をまとめてパソコン室の前で集合してください。そこで、今日はパソコンのログイン設定をやってもらってから解散です。そこで解散するので、荷物を忘れずに持って行ってくださいねー。」


パソコン室に行き、直ぐに作業に入った。

男子学生の殆どは教員達の指示も聞かずして直ぐに作業を終えたが、女子学生はそうはいかなかった。

英琳は男子学生と同様、一瞬で作業を終えた。

咲和も同様に直ぐに作業を終えたので、二人は早々に終えてパソコンに入っていたゲームで遊んでいた。


「ではでは、十五時になったので作業を終わった人は解散で大丈夫です。」


咲和と英琳は荷物をまとめて、教員陣に『お疲れ様です』と挨拶をすると早々に、学校を出た。

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