第十話 戴冠式の夜(第一部 最終話)
ハセミガルド王国国王、ユウヤ・アルタミール・ハセミの戴冠式は、クロストバウル・ロザン・ロメロ
彼が国王になったのを機に王都のロレール亭が復活した。といっても本拠地はアルタミール側で、こちらは
ヴアラモ孤児院のシスター・マチルダと子供たちも戻りたいと願ったので、再びあそこに住んでいる。旅芸人一家はアルタミールに骨を埋めるとのことだった。
イエデポリからは遺族会代表としてドロシーが駆けつけてくれていた。彼女は夫を失った悲しみを乗り越え、今は新しい相手と愛を育んでいるそうだ。さらに土産話として、港湾管理局のロイとゾーイに子が出来たと教えてくれた。
実は何を隠そう、先日ついにポーラの懐妊も判明したのである。そのため大事を取って彼女をアルタミール領主邸に戻し、戴冠式への出席を見合わせてもらった。しかしめでたいことが続くのはいいことだ。
そして晩餐会へ。
「ユウヤ、いや、陛下とお呼びした方がよいかのう」
「クロスの爺さん、ユウヤでいいよ」
「まさかお前さんが国王になるとは驚きじゃよ」
「女神ハルモニア様のお導きってな」
「ふぉっふぉっふぉっ。言いよるわい」
「それより大聖堂の名前変更、快諾してくれたそうでありがとうな」
「意味まで聞かされたからの。サイコーハッピー、ちょーーぉしあわせ! という意味だそうじゃないか」
「変に延ばすなよ。笑っちまう」
「イマ、サイコーハッピーってキこえたね!」
「よう、エリヤ。久しぶり」
式に招かれた魔王は勇者エリヤを伴っており、二人は久しぶりの再会を喜んだ。エリヤは魔法国に恋人が出来たため永住を決めたそうだ。
「クロス、実はサイコーハッピーってのはこの勇者エリヤの口癖なんだよ」
「ほう、勇者殿のか!」
「ユウヤ、このヒトどなた?」
「ハルモニア神教の枢機卿様だよ」
「Oh! カーディナル! おアいデキてサイコーハッピーよ!」
「儂も会えてサイコーハッピーじゃ!」
「エリヤはしばらく王都にいたのに、爺さんとは会わなかったのか?」
「ミーにはチャンスがなかったね」
「そうだったのか」
「あ、マオウサマと……ワカいおニイさん?」
「彼はレイブンクロー大帝国の皇帝陛下だぞ」
「わお! エンペラーがあんなにワカいとはビックリね!」
「ユウヤ、戴冠おめでとう」
「魔王、ありがとな」
「ハセミ様、おめでとうございます」
「ありがとう、アス」
「ユウヤ、儂にも二人を紹介してくれんかの」
「ああ、こっちのちっこいのが魔法国アルタミラの魔王ティベリア・アルタミラ」
「ちっこいとはなんじゃ!」
「ははは。で、若い少年がレイブンクロー大帝国の皇帝トバイアス・レイブンクローだ」
「うむ」
「二人とも、この爺さんはハルモニア神教の枢機卿で、クロストバウル・ロザン・ロメロ
「クロストバウルじゃ。よろしく頼むぞ」
「よろしくじゃ」
「よろしくお願いします」
そこへ人混みをかき分けながら、アスレア帝国皇帝ジョセフと皇妃マルティーナも仲間に加わってくる。全員の紹介を終えると、優弥には決して不可能な格式の高い挨拶が交わされていた。
なお、少し離れたところでサットン伯爵とウィリアムズ伯爵がそわそわしているのが見えたが、彼の周りに集まっているのが皇帝や魔王、枢機卿といった顔ぶれだったので寄ってこられないようだ。もちろん、彼も今は相手をするつもりはなかった。
ところで城下でも戴冠式に合わせて祭りが催されていた。少し前に王国祭が開かれたばかりだが、式の前後二日間を祝日としたため、盛り上がり方には雲泥の差があった。
何より民が喜んだのは、城下の至るところで酒や食事が無料で振る舞われたことである。裏方もボランティアではない。多くの民が正規に雇われ、少なくない給金を手にしていた。
さながら戴冠式特需と言ってもいいだろう。
「それにしても鉱山ロード殿のやることは凄まじいな」
「寄付ならいつでも受け付けるぞ」
「はっはっはっ! 見返りにドラゴンの鱗でも頂けるなら金貨三千枚くらいは用意しよう」
「お、それなら三枚くれてやるよ」
「ほ、本当か!? ウソではないだろうな!」
ティベリアとトバイアスの視線が痛かったが、構わず交渉成立である。ちなみに金貨三千枚は日本円換算でおよそ三億円だ。民に振る舞った酒代や食材費を引いても十分過ぎるお釣りがくる額である。
「ドラゴンで思い出したが、魔王とエリヤ以外は骨を見たのは初めてだったんだろ? 感想くらい言えよ」
「ああ、すまん。あれほど巨大だったとは思わなかった」
「私も驚きました。どれほど恐ろしかったことでしょう!」
とはアスレア帝国の皇帝と皇妃。
「僕はワクワクしました。あんな大きな生き物がいたと思うと、生きている姿が見たかったです!」
説明は不要だろうが、これはトバイアスの感想。
「儂も目を疑ったぞ。聞けば素手でやっつけたそうじゃが、ユウヤは一体何者なんじゃ」
「あははは、爺さん、ただの人間だよ」
「「「「「「んなわけあるかい!」」」」」」
「おふぅっ!」
全員にツッコまれたが、この和やかな雰囲気に周囲の者たちは引くばかりだった。顔ぶれが顔ぶれだけに致し方ないだろう。
◆◇◆◇
「ユウヤさん、お疲れさまでした」
「ユウヤ、お疲れ」
晩餐会の後、優弥は二人の妻に会うためにいったんアルタミール領主邸に赴いていた。もちろんエビィリンも連れてきたが、こういう時、彼女は空気を呼んで使用人の誰かの部屋に行ってしまうのだ。
むろん、選ばれた使用人は大喜びで彼女を迎えてくれる。
「ソフィアは少しお腹が目立ってきたか?」
「うふふ。最近はお腹を蹴るようになったんですよ」
「ポーラはまだ先だな」
「早くパパとママに会いにきてねー」
「二人とも体調は悪くないか?」
「大丈夫ですよ」
「私も平気よ」
そこで彼は居住まいを正す。大事な話をしなければならないからだ。
「二人とも聞いてくれ」
「「なぁに?」」
「俺の後継者についてだ」
「それね、私たちもユウヤと話したかったの」
「そうだったのか」
「でも先にユウヤさんの考えを聞かせて下さい」
「分かった。まず、今の俺には王位と二つの国の伯爵位がある」
「そうですね」
「知ってるわ」
「この王位についてだが、産まれてくる子が男女関係なくソフィアとの子に継がせようと思う」
「根拠は?」
「ポーラ、俺は王位継承権を巡って子供たちが争うのを極力避けたいんだ」
「それは同意見ね」
「私もです」
「そして出会ったのはポーラが先だったが、先に身籠もったのはソフィアだったからな。単純に順番で決めた。もちろん二人を同じくらい愛してるし、産まれてくる子も分け隔てなく愛することを約束する」
「ユウヤらしい考え方ね」
「本当にすまん」
「謝らなくてもいいわよ。私たちも同じ結論だったから」
「そうなのか?」
「ポーラさんが、王位は皇族の血を引く私の子が継承する方がいいって言うんです」
「血筋は関係ないんだけど……」
「その代わりユウヤ、ここは私の子に継がせて」
「ここってアルタミール領のことか?」
「そう。何だかんだで一番落ち着くし、子供が出来たのもここだろうし、温泉は気持ちいいし」
「ポーラさん……」
「最後のが一番の理由だろ」
「えへへ、バレちゃった」
「ソフィアはそれでいいのか?」
「はい、構いません。でも、時々は温泉に入らせて下さいね」
「ソフィアも温泉かよ」
「ハセミ領はどうするの?」
「あそこはまあ、追い追い決めればいいだろう」
「エビィリンのお婿さんになる人に継がせれば?」
「エビィリンは誰にもやらん!」
「ま、まさかユウヤさん、エビィリンもお嫁さんにする気なんじゃ……!?」
「待ってくれソフィア、それは誤解だから! 一般的な父親の気持ちだから……って……」
クスクス笑うソフィアを見て、からかわれたと知った彼は穴があったら入りたい気分だった。
その夜、彼の腕の中では二人の妻が静かな寝息を立てるのだった。
――第一部 完――
〜第二部もよろしくお願いします〜
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