勇者の抱き合わせ。〜抱き合わせのいらない方として異世界に召喚されました。歩くだけで経験値たまってレベルアップでステータス2倍になるとかすげーことになってるんだけど〜

白田 まろん

第一章 抱き合わせで召喚されちまった

第一話 勇者と無能

「I am Brave! HAHAHAHA!」



 長谷見はせみ優弥ゆうやは突然頭上から降ってきた英語に驚いて尻餅をついてしまった。いや、正確にはすでに尻餅をついていたので、改めてつき直したといったところだろうか。

 身長175センチの細マッチョ。しかもそこそこイケメンで女性にもモテる彼だったが、見た目に似合わず無様な有様である。


(どこだ、ここ……?)


 恐る恐る立ち上がって辺りを見回すと、見たこともない文字や記号のようなものが壁や天井、床にまで彫られているようだ。一つ一つの大きさは十センチ四方ほど。古代文字や象形文字などにも見えるが、もちろん読めないし意味も分からなかった。


 部屋の広さは五百坪くらいあるだろうか。灯りは壁掛けウォール燭台と、規則的に並べられた高さ一メートルほどの燭台の蝋燭ろうそくのみ。この部屋に外光を取り入れる窓はない。


 その中央に、まるで風呂上がりにビンのコーヒー牛乳でも飲むかのように胸を張り、腰に手を当てた金髪の外国人が立っていた。


「◎▼※◇★△※●□◎★・・・・・・」

「Oh! Yeah!」


 優弥と外国人の前には、無数の宝石が散りばめられた王冠を被り、いかにも王様っぽい赤いマントに身を包んだ老人。さらに司祭冠ミトラのような帽子を頭に乗せ、金刺繍の入った白いローブを着込んだ中年男性が四人が、老人の左右に二人ずつ立っていた。


 また、壁際には甲冑姿の兵士然とした者たちがズラリと並んでいる。


 王様っぽい老人は英語で喋っているようには聞こえなかったが、金髪外国人は難なく会話出来ているようだ。しばらく続いていた会話で、外国人がエリヤ・スミスと名乗ったところだけは何とか聞き取れた。


「▼※◎☆■◇◆※○※◎・・・・・・」

「は? えと、言葉分からないんだけど……」


 二人の会話か途切れると、中年男性の一人が優弥に話しかけてきた。しかし何を言われたのかさっぱり分からなかった彼は返答に窮してしまう。


 隣の外国人も何やら英語でまくし立ててきているが、これまで英会話など習ったことがない彼は、片言なら何とか聞き取れる程度である。つまり通じていないということだ。


 その様子を見て舌打ちした中年男性は、指輪のような物を投げて寄越した。乱雑に、面倒臭そうに、敵意むき出しで。


「いてっ!」


 指輪は彼の額に当たり、目の前に落ちる。それを拾って男性に目を向けると、ジェスチャーで指に嵌めろという仕草を見せた。仕方なく従って右手の中指に嵌めたところで――


「無能よ、言葉は分かるか?」

「へ? あ、はい……」


 咄嗟に返事を返したが、自分が無能と呼ばれたことに気づいて少しムッとした。


「キミはニホンジンかい?」

「ああ、日本人だ」


 中年男性とは違って妙にフレンドリーなエリヤから問いかけられ、素直に答えるといきなりハグされてしまった。だがヤローに抱きつかれても嬉しくない。彼は迷惑そうにその腕を振りほどいた。


 しかし金髪外国人のテンションは高いままである。


「ニホンジン! ニホンジン、サイコーハッピーね!」

(あれ? どうして彼は日本語で話してるんだ?)


 心の中でクエスチョンマークを湧かせると、すぐに答えがやってきた。


「それ、ホンヤクのユビワらしいよ」

「翻訳の……なるほど」


「勇者エリヤ・スミス殿、その者の名はニホンジン・サイコーハッピーというのか?」


「タブンチガうね。ユーのナマエは?」

「あ、長谷見優弥です」


「無能の名は無駄に長いな。ハセミユウヤ・ニホンジン・サイコーハッピーか。ならばハッピーと名乗るがよい」

「いや、だから俺の名前は……」


「無能めが! 許しもなく陛下に直答するでない!」

「くっ! さっきから人のことを無能無能と! ふざけるな!」


 何度も無能と言われて堪忍袋の緒が切れた彼は、とうとう我慢出来ずに立ち上がって大声を張り上げた。


 それに呼応するように兵士たちが一斉に剣を抜く。しかし老人は手を挙げて彼らを制し、続けて意地の悪い笑みを浮かべながら言う。


「ゴルドンよ、見せてやれ!」

「はっ! 魔導師ゴルドンが命ず。勇者エリヤ・スミス殿と無能ハッピーの真実を見せよ! スタツス!」


 王様の右隣にいた男性が叫ぶと、何やらゲームでよく見るステータスのような数値の羅列が現れた。そのスクリーンの大きさは100インチほどもあり、しかも二人分が並んでいる。


 向かって左側が優弥、右側がエリヤのもので、これは各々の立ち位置に合っていた。


「な、名前……!」


 ところがスクリーンに映し出された内容で、まず不満を覚えたのが名前の表記だった。右側はエリヤ・スミスとなっていたが、左側はハセミユウヤ・ニホンジン・サイコーハッピーと記されていたからである。


(人の名前間違えるとか失礼だろ)


 さらに称号の部分に目をやると、エリヤは【勇者】だったのだが――


「勇者の……抱き合わせ……?」

 彼の称号は【勇者の抱き合わせ】となっていたのだ。


 他のパラメータを見ても、ほぼ全ての数値でエリヤは彼の百倍だった。例えば体力を示すHPは彼の100に対してエリヤは1万、力強さを示すSTRは同様に100に対して9999という感じだ。


 STRが1万ではなく9999なのは、おそらくそれが最大値だからだと思われる。ゲーム用語などで使われるカンスト、勇者は最強ということなのだろう。


 他に防御力を示すDEFというのもあり、これは優弥もエリヤも各自のSTRと同じ値だった。


 レベルはエリヤ共々1。つまり同じレベルで能力にこれほどの差があるということだ。


 ただ、優弥の方の枠外に文字化けしている部分があるのに気づいたのは、どうやら彼一人だけだったようである。もっとも文字化けでは読めないのでそれもすぐに忘れてしまったのだが……


「無能ハッピーよ、この世界の一般的な成人男性のHPは500、STRは700と言われておる。余は老いた身なれどHPは900、STRは600だ」

「この世界……?」


「ミーたちはイセカイにショウカンされたらしいよ!」

「は?」

「ここはイセカイなんだよ、ユウヤ!」

「マジか!」


「ミー、イセカイにアコガれてたね! ニホンのアニメみたいじゃないか! サイコーハッピー!」


 どうやら勇者は日本のアニメ気触かぶれだったようだ。頬をつねってみたが痛みが感じられたので、夢というわけでもないらしい。


 しかしだとすると自分が異世界に召喚されたことに、彼は疑問を感じずにはいられなかった。よくある魔王討伐とかのためならエリヤ一人で十分に事足りるはずである。年老いた王様の足許にも及ばないパラメータでは、共に旅をしても足手まといにしかならないだろう。


 ところがこの後の説明で、彼は怒るどころか失意のどん底に突き落とされるのだった。


――あとがき――

カクヨムコン参加してます。

応援して頂けると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る