第3話 Granpa with Gold in His Heart
おじいちゃんが、来てくれた。といってもUmi辺の家にではない。近くの私が入院した【ハマナカ病院】にだ。パチクリ両目をあけた私の顔に近づいて、しばらく睨むようにじっと見てから、「トシに渡しとけ。」と、なにやら、カサカサしたものを枕の下に詰め込んだ。それから、大きな茶色の外套を羽織り、頭にボルサリーノ帽を乗せて病院の個室の大きなドアから出て行った。部屋に残ったのは、病人と家政婦のおばちゃんだけである。なぜ、病院にお手伝いさんがいるのかというと、母は生まれて数カ月の弟の世話で忙しく、私の看病の付き添いができない。白い割烹着のおばちゃんと一緒に病院で暮らしていた。
父がその夜病院に来て「おやっさん、来ましたんか?」と家政婦さんに尋ねて、枕の下のカサカサをとりだして、私に見せた。当時のお年玉は500円だったのにそこには、千円札10枚もあったのである。おじいちゃんは商売人で、食堂を2,3軒営業していた。競馬場、競輪場、競艇場にだ。父とは違い、あんまり正当な会社員ではなかっが、いつもだんじりの一番前に着物を着て立ち、団扇をもってカンカン帽をかぶって乗っているのが自慢だった。そう、祭りのころにおじいちゃんとよく会った。
近所のタカシ君と、ただし君にコマなしの自転車を見せに行った帰りだった。「一人で乗れるの?」と聞かれたので、まだ自信がないと答えると、2人はわたしのコマなしの自転車の後ろを思いっ切り押して走ってくれた。押してくれるのは良いが、こちらは操縦不可能でブレーキも効かない。そのうち車道まで思いっきり押されて、2人は自転車から手を離した。とまらない自転車は、前から来たタクシーに見事に跳ねられたのである。その夜の夕食後、私は激しく嘔吐したらしく、そのまま、【ハマナカ病院】に三ヶ月入院することになった。
入院の間、何度も脳波測定があった。糊のようなもので、洗濯ばさみみたいなのがついた器具を頭の中全体にくっつけられた。小人に捕まった時の★ガリバーの頭のようになっていた。★ガリバー旅行記のガリバーが小人につかまって縄でしばられて、髪の毛もピンとのばされ、小人用の杭を打たれた絵を思い出してほしい。わからないので写メで送ってほしい人は コメントにそう書いてほしい。(★近況ノート参照)
食事と扇風機にも規制があり、りんご、なし、固い柿、クッキーなど、嚙んだ時、カリッとした音の出る食べ物は一切食せない。体の上半身には扇風機の風を当ててはいけない、子供の特権の甲高いキャーキャー声も出せない、そんな日々が続いた。
しかし、時がたち、治りかけた6歳児にとって病院はアミューズメントパークである。たくさんの患者の部屋に行ってはTrick or Treatしてお菓子をもらい、待合室のおじいちゃん、おばあちゃんとテレビをみたり、やさしい若いおねえちゃんナースが折り紙をおしえてくれたり、本を読んでくれたり。一番のメインエベントは、2Fへ続くながーい、S字に曲がった太い大きな木の手すりだ。オオカミに育てられたジャングルブックの少年Mowgliのごとく、朝から晩まで滑り倒して遊んだ。
おかげで毎回の脳波測定の針がMAXに振り切り、3カ月も病院にいなくてはいけなかったのである。
おじいちゃんと、おばあちゃんは、人生の半分を離れて暮らしていた。おばあちゃんは、私たちとUmi 辺の家で、そして、おじいちゃんは、市子さんと呼ばれるおばちゃんと暮らしていた。そして、私と弟が家族からおじいちゃんへのmessengerとして遣唐使のごとく家に送られていた。
おじいちゃんの家に行くと必ずご飯を一緒に食べさせられて、それもおなか一杯食べなければならなかった。「家に帰って腹減った、いわんように、しっかり食べよ。」なのである。お代わりしないと叱られるのである。そしてかならずおこずかいをくれて、ときどき「おばあ元気か。」とたずねられた 。
父は、自分の母を捨て家を出た自分の父親を許すことができす、また、実の父に頼ることをひどく嫌い、「やくざの男とは絶対一緒になるな。」と私に言い聞かせて育てた。でも、姉と弟は、おじいちゃんの家で紋々の入ったお兄ちゃんや、おっちゃんらと銭湯で飲んだおっきな瓶にはいった冷たいフルーツジュースの味や、一緒に餅つきして、丸めた、突きたての、あの柔らかな温かいもちの味を今でも覚えている。
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