DEPTH010 ゼロ戦の猛攻と回想

 人型魔力演算知能ハンプシーが対空戦闘で急降下してくるゼロ戦群を撃墜波しているその間にアカサンクス帝国に向けて宣戦布告と最終警告、それとこれからはフリーで活動する旨を諸々伝える為に、アレン通信長に爆速で電鍵でんけんを打たせた。


 そして、ケジメとばかりに4基8門の主砲塔をアカサンクス帝国に向けさせて「砲術長。全弾を敢えてずらせ」と言い放った。


「何度ほど?」


「マイナス2度からマイナス5度まで、散布角度を調整しろ」


「諸元入れた、各砲座。準備よし!」

「・・・――撃て」


 沖野の指示を聞いた副艦長が「全主砲塔、うち〜かた、初め!」と復唱すると、砲術長も続けて「――了解、全主砲。撃ち方初め!」と言いながら赤く光るボタンを押し込んだ。


 直後、轟雷のような砲撃音と共にアカサンクス帝国に向けて右舷に旋回させていた4基8門の45口径46センチ連装主砲塔の砲口からそれぞれ発射角度の異なる8発の砲弾が空に撃ち出された。


 4番砲塔が砲弾を発射した刹那、〈4番砲塔、損傷!復旧まで45分!〉というハンプシーの報告が上がった。実際に4番砲塔の状態を示すパネルに警告――〔被弾のため中破〕が点滅していた。


「――艦尾格納庫ウェルドッグ内で火災発生!」


「4番砲塔、機能停止!」


〈艦長、意見を提案します。 直ちに当海域より撤退を具申ぐしんいたします〉


 各所から報告が上がり発令所内が慌ただしくなる中、沖野は「副長。一度、この海域を離れるが、逃げるのではない。戦略的撤退だ」と告げた。


「分かっていますよ、艦長。 羽留奈はるなお姉ちゃん、面舵一杯!」


「――面舵、一杯!」


 ブラックシャークがゆっくりと船体を左に傾けて右舷に回って行く道中も、ゼロ戦群は攻撃を止めなかった。ある時は海面ギリギリを飛翔し、航空魚雷を投下して轟沈させようともして来たが、ハンプシーの判断で投下前に全機撃墜という記録を樹立させた。


 またある時は、急降下しながらお腹に爆弾を抱えたまま体当たりを噛ましてくる機体も見受けられた。


「――敵機、艦後方より雲の眼を縫って迫って来る!」


「クソッ・・・、ハンプシー! CIWSで応戦しろ!」

〈ただいま装弾中、対応できない〉


「WTF・・・!」


 沖野は咄嗟に発令所から甲板に出て偶々たまたま、近くにあった自動展開型50ミリ単装自動装填型機関銃座を手動制御にしてチャンパーを2回手前に引いて照準を体当たりしてくる1機のゼロ戦に向けて発砲し始めた。


「――くたばりやがれえぇぇぇぇぇ!」


 そして距離250メートルまで迫って来た時、ゼロ戦の翼に火がつくと同時に右に機体がそれ海面に正面から突撃した。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 額の汗を左手で払い除けて、「――ザマァミロ!」と言い放った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ここで時系列的には少し前になるが、アレストニア王国ではアカサンクス帝国と和平交渉を進めている最中さいちゅうの話を交えておく。


 アレストニア王国交渉大臣のキーフ・メサルトは金髪赤眼の長身女性で、沖野海斗の知り合いでもあり良き理解者だが裏の顔は、良い意味で簡単に嘘を吐くドクズである。


現に今も「――では、貴国は一切関係ないと?」とアカサンクス帝国使節に問いただされていても、それを平然と否定していた。


「ええ。 それに、ブラックシャークってなんですか?そんな船は、在籍していませんよ」


「そ、そうですか。わかりました、それでは・・・今後ともよろしくお願いします」


「はい、こちらこそ」


 そして、ブラックシャークが知らない間に2国の和平交渉が成立したのは、再出港する直前の話だった。


 その後アカサンクス帝国使節が会議室を出て行くと同時に、「クックックッ・・・。 まんまと騙されやがったな、あのハゲ使節」と嘲け笑っていた。


 そしてその隣にいた交渉大臣補佐もクズなので「そうですね、馬鹿な平和主義ですよ」と同じ態度をしていた。


「おい、首尾はどうなっている?」


「そうですね。 邪魔なブラックシャークの件は召喚した勇者どもに再教育後、相手にさせようと思っております」


「そうか。 では、本件は暫く内密にしていろ。 今まで邪魔をして来たブラックシャークとかいう低脳な平民を海底に沈めてやれ」


「御意」


 キーフは沖野が嫌いだった、キーフと違い王様や王女に気に入られていた沖野はなにかとキーフと比べられていた。


「――海斗さんは、こんな量の依頼をたった1日で終えて来ましたよ?」


「――何故君は、沖野海斗と比べて無能なんだ?」


「――おい、無能臭が来るから喋りかけないでおこうぜ〜」


 しかし、蔑まれていたキーフに話しかけてくる人がいた。それが、沖野海斗だった。


「ねえ、君は悔しくないの?」

「・・・は?」


「ああ・・・、いきなりですまんな。 俺は海斗、沖野海斗。君の評判が悪いのは全部、俺のせいだよな?」

「・・・」


 そこでキーフは、沖野という人を知った。


「知っているよ、俺を恨んでいるんだろう? その目でわかるよ」

「・・・」


「それで、君に話がある。 もしも、君が交渉大臣になったら、構わず俺を恨んで妬め。それが悪の道ならそれを突き進めよ」


 突然、訳の分からない話を持ち出せれて困惑したが「は?」と声が出たことで「なんだ、聞こえていないかと思ったよ」と快活に笑い出した。


 キーフはもちろん、分からなかった。


 なぜ、笑われた?いや、そもそも嗤いに来たのか?だとしたら、なんだこの心臓の鼓動は・・・?


 ありえない・・・嫌いなコイツに恋をしたの?だとしたら、彼をコロシタイ・・・!


 しかし、それは誠だった。この日、キーフは沖野に恋心を抱いてしまったのだ。


 そして、現在――艦長室にて優雅に紅茶を啜っていた沖野の元に差し出し宛のない手紙が届いた。内文には、〔貴方のことが大嫌いだけど、私は貴方達を秘密にし続けるわ。 それに、勇者は王妃が勝手に召喚した〕と書いてあった。


「ハハ・・・、キーフか。 〔了解。 勇者の対処は任せろ〕っと」


 字体を見て分かる筆圧だ、最初は分からなかったが5年も見ていれば自ずとわかって来た。


 手紙を郵便ポストに入れると、「――ピスッ!」という空気を勢いよく吸い込む音が聞こえてきた。

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