第23話 スノーリアの声?

「ほーーーーっとうに! 申し訳ありません! この不始末の責任は全て使役者の私にあります!」



 シェイニーに連れて来られたアルガードが、俺の身に起こったことを聞いたらしく、真っ蒼な顔で床に手を付いて謝っていた。



 さすがに領主の息子を謝らせたままというのは外聞が悪い。



 それに、スノーリアが俺に害意を持っている感じもなかったしな。



 普通なら即死してもおかしくない、氷のブレスではなく、遠吠えにしたのは、動けなくしたかっただけだろうと思うし。



 損害と言えば、ちょっと寒かったのと、美人エルフ姉妹に俺の裸を見られた程度だし、怒ることでもない。



「幸い、身体にはなんら問題はないので頭を上げてください」



「ですが、スノーリアが大変なことを……。私が使役者としての能力に欠けているから、それが不満で柊斗殿の作ってくれた補聴器を持ち出したのでしょうか」



 大事に育ててきた大切な相方であるスノーリアが、自分の招いた客人に対し、危害を加えたことがアルガードには相当ショックだったらしい。



 ファンガスの相方で、スノーリアの父親であるスノーブリアの態度もおかしかったし、氷狼フェンリルたちに何か異変が起きているのかも。



「柊斗殿の件は、すでに父に話し、スノーブリアたちにもスノーリアの捜索を手伝ってくれるよう頼んでもらったのですが、スノーブリアからの返答は『協力はしない』だったそうです。使役契約を結んでいる魔物が、主人の意向を退ける事態なんて初めてだと父も慌てておりました。これも全て、私の能力が至らぬせいなのでしょうか……」



 アルガードは申し訳なさがにじみ出るように身を小さく丸めている。



「アルガード様はスノーリアが意味なく人に襲いかかり、物を盗む子だと思いますか?」



「いいえ! あの子は絶対にそんなことはしません! 私はあの子とともに育ち、慈しみながら、絆を作ってきた。声は聞こえなかったけど、私の大事な相方で、この世で一番の存在なんです! だから、絶対にむやみに人を襲ったりしないんです……」



 顔を上げたアルガードからは、スノーリアを信じたいという気持ちがにじみ出ていた。



 アルガードの当主就任の儀式が近いことや、彼の氷属性が低かったこと、それにスノーリアや他の氷狼フェンリルたちの態度が絡み合った事件への前段階があり、そこへ俺が氷属性を増幅させる補聴器を作ったことがきっかけになって起きた事件の気がしていた。



「なら、何かしらの事情があるのでしょう。それを知るには行方の分からないスノーリアを見つけるしかない」



「あ、あの。わたしも寝ぼけてたので、自信がないのですが……」



「どうした? 何かあるなら言ってみて」



「はい、柊斗さんが凍らされてた時だと思うんですが、周囲の氷属性が強くなったことで私の耳に微かに『声を聞かれたらダメなの』って声が聞こえた気がするんです。魔物使いの能力は持っておりませんが、精霊や妖精の声は聞こえる身なので、魔物と言っても精霊に近い氷狼フェンリルの声だったかなと思いまして」



 声を聞かれたらダメか……。



 それをスノーリアが発した。



 アルガードに声を聞かれてはいけない理由が、スノーリアや氷狼フェンリルたちにあるということか。



「そんなことをスノーリアが……。やはり、私の魔物使いの能力に不満があるのでは……」



「アルガード様の件は別にして、スノーリアたち氷狼フェンリルになにか起きているのは確実です。早急にスノーリアを見つけ出しましょう。行き先に心当たりは?」



 俺は項垂れていたアルガードを抱き起す。



「は、はい。心当たりはいくつかあります!」



「じゃあ、すぐに行こう。俺たちも手伝うよ。いいだろ? シェイニー、レイニー!」



「おっけー」



「承知しております」



「あ、ありがとうございます! では、行きましょう!」



 アルガードに先導してもらい、スノーリアが立ち寄りそうな場所に向かって、俺たちは魔導車を走らせることにした。


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