第16話 人物鑑定


 孵卵器のある小屋から出て、外の超巨大な金属ケージの前で待っていた俺たちの前に戻ってきたイゴールの肩には、立派な体格の風鷹ウィンドホークが乗っていた。



「大きい子ですね。何歳です?」



 興味をそそられたシェイニーが、イゴールに風鷹ウィンドホークの年齢を尋ねる。



「5歳だな。通常の風鷹ウィンドホークよりも体格はよいが、見ての通り甘えん坊でなぁ」



 イゴールの肩に乗っている風鷹ウィンドホークは、飼い主の顔に全身を擦り付けて甘えた様子を見せている。



 人に対しても敵意を見せないので、きっとヒナからかえって、ずっとイゴールが世話をしてきた子なのだろう。



 俺も魔物を飼いたいけど、魔物を飼いたいって言うと、シェイニーが先にわたしを飼ってくださいとか奴隷ムーブかましてくるからなぁ。



 女性のエルフを奴隷として飼ってますなんて、噂が立ったら、コンプライアンス的にアウトで、王都でまともな生活ができなくなる。



 下手したら逮捕投獄されて、拷問にかけられたあと、広場で公開処刑されてしまう。



 そんな危ないことはできないので、俺から魔物を飼いたいなんて口が裂けても言い出せないのだ。



 俺が広場で公開処刑されそうな場面を想像している間に、風鷹ウィンドホークがイゴールからアルガードが差し出した腕の上に飛び移る。



 アルガードは、腕の上に乗った風鷹ウィンドホークに視線を合わせた。



「どうだ? その子の声が聞こえてくるか?」



「…………」



「聞こえないんですかね?」



「シェイニー、静かに」



「あ、はい」



「…………」



 アルガードは腕の上の風鷹ウィンドホークに視線を合わせたまま、ずっと無言を貫き通していた。



 やはり、全ての魔物の声が聞こえないんだろうか。



 そうなると、いろいろと厄介な気がするが――。 



「なるほど、君は寂しいのか。うんうん、分かるよ、その気持ち。私もずっと一緒に居たいって思う子がいるんだけどね。どんな子だって? 真っ白な長い毛をまとって、アイスブルーの綺麗な瞳をした可愛い子なんだよ。惚れてるのかって? そうだね。惚れてると思う。ずっと、一緒に育ってきた子だし」



 アルガードが急に風鷹ウィンドホークに向かい喋り始めた。



 風鷹ウィンドホークの方も、鳴き声を上げたり、羽を拡げたりして、アルガードに喋りかけている様子が見られる。



「アルガード殿、その風鷹ウィンドホークの声が聞こえたのじゃな?」



 イゴールがたしかめるように質問をする。



 アルガードは、風鷹ウィンドホークと対話を続けながら頷いた。



「この子はイゴール殿のことを、お父さんだって言ってますね。いつも一緒に居たいけど、忙しそうにしてるから我慢してるって話してます。え? 言っちゃダメだって? 言っちゃったよ。大丈夫、イゴール殿は優しいお方だから」



 アルガードとイゴールを交互に見ていた風鷹ウィンドホークは羽をはばたかせて、焦った様子を見せた。



 秘密にしてたことがバレて慌ててるのか、可愛いなぁ……。



 魔物の声が聞こえる魔物使いの能力いいなぁ。



「そうか、そうか、ライールには寂しい想いをさせていたな。今日からは、わしの作業を手伝ってもらうとしよう。ライール、おいで」



 風鷹ウィンドホークのライールは喜んだように鳴くと、アルガードの手から飛び立ち、イゴールの肩に止まって、再び身体を擦り付け甘えだした。



「ライール、よかったね」



 アルガードの声に、ライールが鳴いて応えた。



 その後、ファンメル花鳥園にいる色んな種類の鳥類の魔物を連れてきてもらい、魔物の声が聞こえるか試してもらった結果。



 アルガードは問題なく、全ての魔物の声をきちんと聞けることが判明した。



「アルガード殿の【魔物使い】としての能力はきちんと備わっておるようじゃな」



「私も初めて魔物の声が聞こえましたが、あれだけはっきり聞こえるとは思えませんでした。父を始め一族の皆が氷狼フェンリルたちの声が、はっきり聞こえると言ってたことを疑ってましたが、本当に聞こえているんですね」



【魔物使い】としての能力が欠如していないことが判明したことで、自分だけが氷狼フェンリルたちの声を聞けないことに改めてアルガードはショックを受けたようだ。



「ああ、よかった。これでアルガード様が、魔物と対話できる能力は備わっていることが証明されましたね。あとは柊斗さんがどうにかしてくれるはずです!」



 シェイニーが地味に俺のハードルを上げてくるが、魔物使いとしての能力に問題がないことが判明したことで、アルガードの身に起きている現象に対し、ある程度の推測が経った。



 たぶんアルガードは、氷狼フェンリルの声だけが聞こえない気がしてる。



 つまり、アルガード自身の氷属性の能力が非常に低いため、魔物使いの能力を使っても、強い氷属性を使って発信する氷狼フェンリルの声が聞き取れない状況だ。



 氷属性を受信する力を魔導具で補助すれば、もともと魔物使いの能力が備わっているアルガードにも氷狼フェンリルたちの声が聞こえるようになると思われる。



 あくまで推測なので、人物鑑定をさせてもらって原因を確定させないといけないが。



 今なら申し出ても拒絶されることはないと思うし、原因特定のためと言ってやらせてもらうとしよう。



「今回の件でアルガード様に魔物使いの能力が問題なく備わっていることが判明しました。さらなる原因を究明させてもらうため、できれば人物鑑定をやらせてもらいたいのですが、許諾は頂けますでしょうか? もちろん、判明した能力は一切書き残しませんし、口外もいたしません。俺だけが確認させてもらうだけです」



「人物鑑定……ですか……そうすれば、確実な原因究明ができるとおっしゃれるのですか?」



「はい、俺の推測通りなのかを人物鑑定で確認できれば、問題は確実に解消できます!」



「なら、すぐにやってください! 柊斗殿になら見られても問題はない!」



 俺の言葉を聞いたアルガードは、手を握り返して人物鑑定を承諾した。

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