第13話 魔物使いアルガードの苦悩

「依頼者の秘密は必ず守ります」



 こちらの一押しが効いたのか、顔を上げたアルガードが口を開き始めた。



「実は……私は氷狼フェンリルたちの声が聞こえないんです……」



氷狼フェンリルたちの声が聞こえない?」



「ええ、我がドンバス家の人間は【魔物使い】の能力を授けられることが多い一族で、もちろん私も【魔物使い】の能力は得ているのですが……」



「能力によって、聞こえるはずの氷狼フェンリルたちの声が聞こえないと……」



「ええ、今までは聞こえてるフリをして誤魔化してきましたが、代替わりを兼ねた当主就任の儀式が近づいており、このままだと私は氷狼フェンリルたちの信頼を得られないため、使役契約を結べないことになってしまいます」



 今にも泣きだしそうな顔をしたアルガードが、ギュッと自分の手を握りしめていた。



【魔物使い】の能力を授けられてるのに、氷狼フェンリルたちの声が聞こえないって変な話だな。



 他の魔物の声とかはどうなんだろうか……。



 気になるところだし、聞いてみるか。



「失礼を承知でご確認させてもらいますが、魔物の声が聞こえないのは氷狼フェンリルですか?」



 俺の問いに、アルガードがハッとした顔をした。



「わ、分かりません。私は冒険者ではありませんし、身近な魔物と言えば、氷狼フェンリルだけしかいない環境だったので。氷狼フェンリル以外の魔物の声が聞こえるかなんて試したことがありませんでした!」



 試してないか……。 



 これはもしかしたら、【魔物使い】としての能力を授けられてるけど、全ての魔物の声が聞こえないって状況も考えられるぞ。



 一度、【呪い鑑定】でアルガード本人を鑑定もしてみたいけど、それをやると人に対する最大級の侮辱行為って思われるからなぁ。



 シェイニーやレイニーは奴隷契約だからって押し切って、無理やり人物鑑定させてもらったけどさ。



 普通は本人の合意がないとやれない。



 仮にも貴族の当主になろうとしてる人なんで、ちゃんとした事実を積み重ねてから、最後に本人の鑑定をさせてもらわないとトラブルになる。



「まずは、アルガード様が他の魔物の声が聞こえるのか確認したいところですね。どこかいい場所がないかな」



 貴族様だし、魔物が出るような場所に連れていくのも気が引ける。



 どっか、いい場所がないかなー。



 俺が腕を組んでアルガードを連れていく場所を考えていたら、裏口の扉が開いた。



「ただいま! イゴールさんがすぐに納品してくれって返信してきたんだけど、午後から配達――ああっ! いらっしゃいませ! 失礼しました!」



 依頼品が完成したことをイゴールに伝えるため、遠い相手に文章を送れる『伝書雷でんしょらい』がある伝書屋に行っていたレイニーが戻ってきたようだ。



 振り返ると、レイニーの手に返信されてきた手紙が握られていた。



 孵卵器をイゴールところに配達かー。



 アルガードの件もあるし、午後から行けるか……んっ! んんっ! イゴールのところ!?



 俺の頭の中で何かが繋がり、アルガードの能力を見極めれる場所が浮かんだ。



「それだ!」



「え? なに? なにがそれなの? あたし状況が分からないんだけど!?」



「それですね! イゴールさんの研究所なら郊外ですが安全な場所ですし! 魔物も大人しい子が多い!」



「だから、何の話? どういうこと?」



「そのような場所があるのですね。ぜひ、お供させてもらい、私が魔物の声を聞けるのか確かめたいです!」



「だから、何の話なんですかね? あたしだけ除け者?」



 レイニーだけが事態を把握できずに右往左往しているが、アルガードも同行を申し出てくれたので、少し早いがイゴールのところに配達に行こう。



「とりあえず、今からイゴールさんのところに配達に行ってくる。レイニーは店番頼むね。シェイニーは万が一が起きないよう護衛よろしく」



「え? あたしだけお留守番?」



「そうそう、お留守番よろしく。魔力を貯め込んでる魔結晶を出してね」



 シェイニーが、レイニーの服の至る所に付いてるアクセサリーっぽい魔結晶を回収していく。



「ちょっと、お姉ちゃん!」



「柊斗さん、アルガード様、こちらの準備は終わりました! いつでも行けます!」



 シェイニーが事務所の片隅に立てかけられていた杖を手に取ると、出発の準備を終えたことを伝えてきた。



 膨大な魔力を持つレイニーは、大量の超小型魔結晶を見に纏っており、放出し続けてる魔力をその魔結晶に吸い取らせている。



 試作品の時は、あまりに膨大すぎるレイニーの魔力に、魔結晶が耐えられず砕け散ったりもしたため、レイニー直結で発動させてた。



 けど、今は改良が進み、レイニーの魔力を魔結晶に貯め込めるようになって、ストックできるようにまでなっている。



 その魔結晶を使って、シェイニーが『風王の聖杖』を発動させ、風魔法を行使すると、ドラゴンを殲滅できる威力が出せるってわけだ。



「では、アルガード様、お時間を少し頂きますが、イゴールさんの研究所にまいりましょう」



 俺は孵卵器を丁重に梱包して大きめのバッグに入れると背負った。



「はい、お手数をおかけして申し訳ありませんが、同行させてもらいます」



「ちょっとーー! 柊斗!」



 レイニーを店番に残し、俺たちはイゴールの依頼品を納品するため、郊外の研究所へ向かうことにした。

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