第12話 依頼人
「柊斗さん、魔導具製作依頼の方が来られましたー。お通ししますねー」
俺は鑑定の手を止め視線を入り口に向けると、シェイニーが連れてきた客は身なりのよい若い貴族風の男だった。
「はいはい、どうぞー」
事務所の中に作られた応接ソファーに若い貴族風の男を招き入れた。
神妙な顔つきをした若い貴族風の男は、丁寧にお辞儀をすると、こちらが勧めたソファーに腰を下ろす。
着ているものからすると、身なりがいいので、貴族の坊ちゃんって感じだけど。
どんな用事でこの店を訪ねてきたのだろうか。
「このジャンカー魔導具店は、いろんな事情に合わせた魔導具を製作してくれるという噂を聞きましたが、本当でしょうか?」
若い貴族風の男はよほど困ったことがあるのか、一縷の希望にすがるような顔でこちらを見つめてくる。
相当、せっぱ詰まった事態が起きてるんだろうか?
できれば、困りごとを解決してあげられるといいが、状況によっては魔導具じゃどうにもならん場合もあるし安請け合いはできない。
俺もさすがに死人を蘇らせる魔導具は作れないからな。
相手に要らぬ期待を抱かせないよう、細心の注意を払って、返答をする。
「ご相談内容によっては、対応できないことがあります。魔導具は万能に近いですが、できないこともある技術ですので。それと、ご相談内容は絶対に我々側から外に漏れないようにいたします」
「そう……ですか……。できないこともあるんですね」
若い貴族風の男は、相談内容を話す前に、明らかに失望したような顔をした。
そんな様子を見たシェイニーが、若い貴族風の男へ助け舟を出す。
「柊斗さんはご依頼者様の困りごとを全力で解決する魔導具を製作してくれる方です! 魔法を使うのは絶対に無理と言われ、エルフの集落を追放されたわたしたちに、魔法を扱えるようになる魔導具を作ってくれたのは柊斗さんだったんですから! ご相談だけでもしてみる価値はあると、【風精双王】シェイニーが断言します」
シェイニーが自らの胸を叩き、相談をためらう若い貴族風の男へ再考を促した。
いつもなら言わない、自らの冒険者時代のシェイニーとレイニーの二つ名である【風精双王】を出してくるとは珍しい。
冒険者を引退した後は、なるべく自分たちから言わないようにしてたと思ったが。
魔法が使えるようになり、俺と冒険者を始めた二人は、引退前にはゼルマ王国最凶の双子魔術士として超有名な冒険者になっていた。
なんせ、Sランク依頼の飛行系ドラゴン狩りまくってたからな。
空を飛ぶ翼竜や飛竜たちからしたら、風魔法の最上級クラス精霊王級をぶっ放す二人の魔術士は天敵でしかなかった。
ドラゴンの絶滅危惧種指定の一端を担ったのは、間違いなくシェイニーとレイニーであり、魔導具を作った俺も含まれると思われる。
事業が赤字だって話になると、ドラゴン狩りする? ってシェイニーとレイニーが言うのはそんな実績を積み上げた経験からでもある。
「【風精双王】の冒険者が引退して、従業員をしているという噂は本当だったんですね。それだけの実績を上げた方がそこまで言われるのでしたら、相談してみるしかありませんな!」
シェイニーとレイニーの二つ名は、炎竜フレアドラゴン討伐をした冒険者として、王都でも知れ渡っている。
一般人に対しては、俺よりも認知度が高いくらいだ。
二人はそれを面倒くさがって、普段はただのエルフの従業員だってことにして誤魔化していることが多い。
でも、若い貴族風の男のせっぱ詰まった顔を見かねて、自ら冒険者時代の二つ名を出したものと思われた。
「そうしてください。引き受けた時は、全力でご依頼に沿った魔導具を製作させてもらいます」
「分かりました。そう言えばまだ名乗っておりませんでしたね。私はアルガードと申します。家名はドンバス。爵位はまだ領地を継承してないので男爵ですが」
アルガード・ドンバス……どっかで聞いた名前な気がするが……どこだっけな。
ドンバス、ドンバス、ドンバス……。
うーん、どこだろう。
俺が思い出せずに困っていると、シェイニーが答えを口にしてくれた。
「家名がドンバスとなると、ドンバス伯爵家のご嫡男ですよね。領地がたしか
それだ! 変わった当主継承の風習がある貴族家ってことで、この前シェイニーたちと話題にしてた家だ。
シェイニーが話してた内容を思い出すと、ドンバス家は
当主が
「はい、そのドンバス伯爵家で間違いありません」
「そのドンバス伯爵家を継がれるアルガード様のお困りごととはいったい――」
神妙な顔つきをしたアルガードは、顔を伏せて、言い出すタイミングを窺っていた。
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