第11話 大事なお金稼ぎもしっかりとしないと

「ほら、柊斗。片付かないから早く朝食食べちゃって。もうすぐ開店時間だから!」



「今日は柊斗さんの大好物を朝食に準備しました! ちょうどお取り寄せしてた食材が届いたんです! 罰でもありますので、奮発しました!」



 今日の朝飯は干し魚を焼いたやつだ。しかも、米と味噌汁付きだ。



『ラスト・オブ・ファンタジア』に日本食が存在してたため、飛ばされたこの世界でも日本食の素材があるかと探してもらい、東方で生産されていることを知り、お取り寄せしてもらってる。



 それでも届く量はわずかで、月に一度くらいしか日本食を食べられない贅沢品である。



「これはゆっくりと味わいたい」



 炊き上がったばかりの米の匂いと、味噌汁の味噌の匂いを身体に染みこませる。



 日本人である以上、この二つを食生活から切り離せない身体にされてしまっているのだ。



 希少な米を箸で摘まみ上げ、口に運ぶとじっくりと噛んで甘みを味わう。



 ほわぁああ、これが米だよ。米。



 この米が獲れる場所は、いい水が湧く場所なんだろうなぁ。



 味、香り、粘り気も申し分ない。



 この米なら冷めても美味い米だ。



「ふぅ、うめぇ」



「お味噌汁もどうぞ召し上がってください。柊斗さんのいた世界のものより美味しくできてるか分かりませんが、一生懸命に作りました」



 シェイニーに促され、湯気を上げる熱々の味噌汁を口に入れる。



 これは―――!



 出汁の味がするぞ! この味噌汁、出汁が入れてある!?



「なじみの飲食店の女将から干したお魚から、美味しい汁が取れると聞きまして、こんかい干した小魚から取ってみた汁に味噌を溶かしたんですが」



 うんめぇ……味噌汁が美味すぎて、脳みそがやられそうだぜ。



 玉ねぎと大根とか、俺のが好きすぎる組み合わせなんだが。



 はぁあああ、温まるぜ。



 朝は冷えるし、熱々の味噌汁とご飯食えて、死ぬほど幸せなんだが。



「最高だ。いい仕事をしてくれた。干し魚もいかせてもらう」



 天日で干され、凝縮された旨味に変化した干し魚が、焼かれたことで再びジューシーさを取り戻している。



 ほぐれた身を口に運ぶと、かすかな磯の香りと魚も持つ旨味と塩味が口内で暴れまわることになった。



 たまらん! 毎日食べたいがさすがに毎日食うと破産する!



 米、味噌汁、干し魚、米、味噌汁、干し魚。



 旨味のコンボが次々に決まり、俺の箸と口は止まることなく動き続けた。



「ごちそうさん。うまかったー」



「罰として与えられた朝食当番を完遂しましたので、続いて店の前の清掃に行ってまいります。食器はキッチンに置いててください」



 ホウキとちりとりを持ったシェイニーが裏口から店の前に回り、石畳の上を綺麗に掃除していく。



「ほら、柊斗。もう、店も開けたから、早く片して」



「はいよー」



 俺が飯を食っている間にレイニーが手際よく開店準備を済ませ、店は時間通りに開いていた。



 食べ終えた食器を重ね、キッチンに置くと、販売スペースにいたレイニーに、徹夜して完成させた孵卵器ふらんきのことを伝える。



「そう言えば、朝のゴタゴタで忘れそうになってたけど、イゴールさんの依頼品が完成した。最終確認もしたから、取り来てもらうよう連絡を出しておいてくれるか」



「もう最終確認も終ったの! イゴールさんも困ってたし、すぐに伝書屋さんに行ってくる。店番ちゃんとしててね!」



「ういー。鑑定しながら、店番してる」



 レイニーは、イゴールさんの住所を記した紙を手に取ると、裏口から伝書屋に向かった。



 とりあえず開店はしたけど、客はいない。



 なので、一階の事務所スペースの片隅に作った鑑定台に座り、魔導技師協会から依頼されている鑑定品を手に取った。



 品名:煉獄の魔核 品質:C+ 呪い:なし 付与属性:火 消費魔法力:2000 発動魔法力:4500



 消耗度:0/100 価値:700万ガルド



 呪われてない、品質はC+、消耗してないので新品、価値は700万ガルド。



 正規品として流通させても問題なし。



 鑑定書に記載する情報を書き込んでいく。



 魔導技師協会から販売される物には、【呪い鑑定】までを行った鑑定証明書を付けて販売される。



 その分値段が高くなり、正規品を使った新品魔導具は、けっこうな値段になる物もあった。



 この部品落とすのは、たしか紅蓮の巨人クリムゾンジャイアントだったよな。防御力も高くて、体力も多いし、炎の範囲攻撃が面倒だって戦闘系のやつらが言ってたなぁ。



 たしかに700万ガルドするだけの価値はあると思う。



 品名:真紅の魔結晶 品質:B+ 呪い:なし 魔力備蓄量:500000 魔力出力量:5000



 消耗度:0/100 価値:100万ガルド



 これも新品でおっけー。



 魔導具技師協会は、外部委託の鑑定士の俺に高級品ばっかり送ってくるのはなんでだろうか。



 俺に協会委員入りしろって話は、社交辞令だと思ってたが、これだけ高級品の鑑定を任せて、毎月高額な鑑定料を払いまくるとなると、案外本気だったのかも。



 

 品名:激流の魔石 品質:F+ 呪い:なし 付与属性:水 消費魔法力:1200 発動魔法力:1300



 消耗度:50/100 価値:8万ガルド



 偽者っと。



 消耗度50なんてガチガチ中古品じゃん。



 品質もF+ってゴミに近い。



 こんなものを魔導技師協会に持ち込む勇気がある連中の顔を見てみたいな。



 ガラクタ街で買ってきたやつを持ち込んだ気しかしない。



【物品鑑定】や【価値鑑定】くらいは誤魔化せるが、【呪い鑑定】を誤魔化せるものは存在してないのだ。



 魔導具の部品になる物は、全数が【呪い鑑定】までされる。



 そういった裏事情は詳しく公開はされてないけどね。



 新品なら80万とか100万ガルド超えるから、こういう中古品を持ち込む輩もあとを絶たない。



 鑑定書に偽者の中古品と書き込んで張り付けた。



『激流の魔石』は在庫なかったから、買い取ってもいいけど、品質がなー。



 昨日、レイニーに怒られたばかりだし、自重しておこう。



「柊斗さん、お店の前のお掃除終わりましたー!」



 さっきからずっと店の前の掃除していたシェイニーが、額の汗を拭い、キラキラした笑みを浮かべて完了を報告してきた。



 石畳がゴリゴリ削られて、大理石みたいにピカピカに光って見えるのは気のせいだろうか。



「あ、ああ。ご苦労様。今日の罰はこれで終わりだから、業務に戻ってね」



「はーい! 今日も一日ガンバリマース――って、いらっしゃいませ。ジャンカー魔導具店にご用ですか?」



 掃除を終えて店に戻ろうとしたシェイニーが、店の外でお客に声をかけられたようだ。



 こんな早い時間から客か……。



 そう言えば、定休日の昨日に店に来てた人がいたな。



 その人がまた尋ねてきたのかも。


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