第7話 従業員たちの圧が強い

 噴水の前でシェイニーとレイニーの美人エルフ姉妹に合流した俺は、ただいま反省の正座中である。



『吸水の魔核』と『青の魔結晶』の件は許してもらえたものの、革の鞄に入れていた『大紫電の魔石』を16万ガルドで購入したを、会計係のレイニーにお伝えしたからだ。



「柊斗、またレイニーちゃんに怒られてるのか。どうせ、ガラクタを高値で買って怒られてるんだろ」



「でも、レイニーちゃんに叱られるのはむしろご褒美な気がするぞ」



「あ、たしかにそれはそうかもしれんな。美人ってのは怒っても綺麗だしな」



 周囲で様子を見ているガラクタ街の顔なじみ連中から、ヤジが飛んで来ていた。



 でも、今はそれどころではない。



『風信樹』越しでも怖かったレイニーだが、俺の前で腕を組んで仁王立ちしている姿は美形なのも手伝って神々しいレベルにまで達している。



「柊斗の在庫積み増し発覚で、今月の利益目標が目標値を下回ったけど、どうする? ドラゴン狩ってくる? 最近はドラゴン不足とも言われてるご時世だし、そう簡単には見つからないかもよ。ねぇ、お姉ちゃん!」



「う、ううぅ! じゃあ、他の魔物で――」



「お姉ちゃん、そういう話ではないの! 柊斗の自覚の問題!」



 レイニーは、俺の援護に入ろうとした姉のシェイニーを制するように指を突き付けた。



 まぁ、たしかにドラゴン乱獲による絶滅危惧種指定とか噂になってるしな。



 ドラゴンも人里近くには、滅多に近づかなくなったという話もチラホラ聞こえてきてる。



 被害が減ったのはいいんだが、ドラゴンが絶滅するのもそれはそれで困るなぁ。



「柊斗、今ドラゴンが絶滅したら色んな部品が供給されなくなるから困るなとか思ったでしょ!」



「い、いえ、そんなことは思ってません。ちゃんと、反省してます!」



 あぶねー。レイニーは超能力者かよ。



 こっちの思考を読まれてるんじゃないかって思うことが多々あるよな。



「今後はレイニーに確認を取ってから在庫品のストックを増やします」



 大激怒中のレイニーに逆らうと、店の運営がいろいろと滞るため、平身低頭の姿勢を崩さないでいる。



 金の管理は本当に苦手だ。



 【ジャンク屋】として『ラスト・オブ・ファンタジア』をプレイしてた時も、他のプレイヤーが持ち込む品を【呪い鑑定】を使って鑑定して生計を立ててたが、稼いだ金はすべて中古品の購入費に消えてたしなぁ。



 店が上手く回っているのは、シェイニーとレイニーのおかげであるとしか言えない。



「ダメ、前回もそれは約束したけど守ってない!」



「そうだっけ?」



「そうだよね、お姉ちゃん」



 言いにくそうな顔をしたシェイニーだが、レイニーの言葉に無言で頷く。



 そうか、前回の俺はそんな約束をしてたのか。



 じゃあ、これでは交渉にならないな。



 ふむ、困ったぞ。



「そこであたしは考えたの! 店に一人で住んでる柊斗が、勝手にこのガラクタ街に買いに行かないよう、あたしたちが住んでる屋敷に一緒に住むようすにすればいい。そうすれば、お出かけする時は一緒に行けるし、柊斗の衝動買いも抑えられると思うの! ね、どう」



 レイニーの背後に、スゴゴゴっという背景が付きそうなくらい圧力を感じる。



 お願いですから圧力を弱めて、弱めて欲しい……。



「そ、それはいいアイディアね! さすが、レイニー。一緒に暮らせたら、柊斗さんのお食事を作れますし、身の回りのお世話もお風呂のお世話も全部わたしがさせてもらえるんですよっ! はぁ、はぁ、これは素晴らしい対策案だと思いませんかっ!」



 シェイニーさん、ご自身の欲望が駄々洩れすぎなんですが……。



 目が血走ってて怖いですからっ! 落ち着いてくれ!



 俺は美人エルフ姉妹に迫られたことで、苦し紛れの言い訳をする。



「いや、魔導具工房は店の中だし、在庫品を置いてる倉庫も店の隣だから、屋敷に住むと仕事ができる時間が短くなるからさ。やっぱ、確認を取るだけにしてもらえ――」



 俺の弁明を聞いたシェイニーとレイニーの圧がさらに高まった。



 このままでは押し切られそうな気がする。



 頑張れ、俺。今が正念場だ。



「じゃあ、今のお屋敷を売って、店の隣にあるお家を買うわ。あたしたち二人に屋敷は広すぎるしね。屋敷を売って、店の隣のお家を買っても膨大なお釣りが出るから、柊斗の作った赤字を補填できるはず」



「お隣り……ご飯持って行ける距離なの?」



「うん、大丈夫。歩いて数十歩だから朝も直接起こせる場所だし、ご飯も一緒に食べれるし、お風呂も付いてるから全てお世話できる距離感の好立地なところ押さえてある」



 い、いつの間にそんな物件押さえてたの!? まさか、俺の失態を見越して用意してたのか!?



 シェイニーもめっちゃ前のめりで話を聞いてる!?



 せっかく大金を使って、大きめのお屋敷を二人に与えたのに、それを売ってわざわざ店の近くの物件に引っ越してくるなんてことしなくてもいいのに……。



 とはいえ、もとの失態は俺の責任でもあるんで、レイニーの対策案を反対し辛いな。



「俺に拒否できる権限は?」



「あると思う?」



 レイニーが天使のような笑みを浮かべた。



「ないですよね? さすがに柊斗さんも」



 シェイニーが仏様のように慈愛のこもった微笑みを浮かべる。



 やらかしすぎた俺に反論の余地は残されていないようだ。



 一緒の家には暮らせないという俺の敷いた防衛ラインを、絶妙に回避したレイニー案に対し、対抗する手段は見いだせなかった。



「分かった。今回の件の対策案としてレイニー案を採用することとする。手続きは頼むな」



「やった! お姉ちゃん、やったよ! ついに、徒歩数十歩まで近づいた!」



「ようやく、四六時中、柊斗さんのお世話ができる場所に行けるのね! はぁー夢みたい」



 お二人とも喜ぶのはいいんだけど、周囲の人たちの目もあるので、できれば声を潜めて欲しい。



「ついに堅物な柊斗も美人エルフ姉妹の熱烈なラブコールに陥落かー」



「レイニーちゃん、シェイニーちゃん、頑張れよー」



「柊斗は本当に堅物だからなー。酒でも飲ませて、記憶飛ばして、事後承諾させとけ、させとけ」



「かぁー! オレも美人なエルフ姉妹にお世話されてぇ!」



 っていうか、この分だとすぐにガラクタ街全体に噂が広がりそうな気しかしないぜ。



「シェイニー、レイニー、そろそろ行こう」



 俺は正座から立ち上がると、嬉しそうな顔をしているシェイニーとレイニーの手を取って、噴水前から駆け出した。



 それから、3人で連れ立ってガラクタ街の露店を歩き回り、『弱火の魔石』と『発火の精霊糸』と『小さな歯車心臓』を手に入れ、掘り出し物もレイニーの許可を取っていくつか購入し、帰りにビューザーの店に立ち寄って購入した品を引き取り、お昼過ぎに店へ戻ることにした。


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