第5話 目的のブツ

 右の突き当りを左に入って、五軒目っと。



 あった、あった。



 あれがビューザーの露店か。



 たしかに下級でかさばる部品ばかりが並んでる店だな。



 ほとんど市場で流通しない部品だし、下級部品だが、ある意味非常にレアな物だ。



「えっと、ビューザーさんってあんたか? おーい、起きろって!」



 店の奥で腕を組んで、涎を垂らしながら寝息を立てていた筋骨たくましいスキンヘッドの男に声をかけた。



「んあ? 誰だオレが気持ちよく寝てたのを起こしたやつは」



「すまないが俺だ」



 ビューザーは、悠々と背伸びしながらこちらを見てあくびをした。



 あまり熱心に商売をしてる感じはしないな。



 まぁ、扱ってる品が品だし、そこまで需要はないからしょうがないと言えばしょうがない。



「珍しい、王都で話題のジャンカー魔導具店の店主様が、オレの店に来るなんてな」



「実はあまり流通してない部品を探しててね。他の店主に聞いたら、あんたのところならあるかもって教えてもらった」



 背伸びしていたビューザーが動きを止め、こちらを睨んできた。



 明らかにこちらを警戒した様子を見せている。



 俺が関わるとマズいような、何かやましいことでもしてるのだろうか?



「誰が教えたのかは聞かないが、うちだってないものはないぞ。それに値段はこっちの言い値になるからな。あんたの提示額と折り合わない気しかしない」



「つまり、お高いってことか?」



「まあな。ぶっちゃけ売れない在庫抱えてる以上、値段は張るってことだよ。だから、値切れないし、値切らせない。さぁ、帰った、帰った」



 ビューザーが俺を追い払うかのように手を振ってくる。



「欲しい物には金をケチったことはないんだがな。どうも、間違った認識がガラクタ街の店主たちの間に流れてるらしい。とりあえず、俺が探してる部品があるのか確認させてくれ。値段はその後確認させてもらって払えるなら払う」



「本当か?」



「さすがに法外な値段だったら買わないが、実状に即した値段だと思えば買う」



 ビューザーは追い払うような手つきをやめた。



 腕を組み直すと、『何が欲しいのか言え』とでも言いたそうな顔をした。



「『吸水の魔核』と『青の魔結晶』が欲しくて探しているんだがあるかい?」



 ビューザーの茶色の瞳がギロリと動き、こちらを睨みつけてくる。



 いかつい容姿のせいか、妙に威圧感があるよな。



 下級部品の売買は表向きの仕事で、裏でヤバい案件に関わってるとかないよね。



 ビューザーの威圧的な視線に曝され、飲み込んだ自分の唾でゴクリと喉が鳴った。



「あるよ」



「へ?」



「どっちもあるよってこと。出して来てやるから待ってろ」



 椅子から立ち上がったビューザーは露店の奥へ消えていく。



 しばらく待っていると、ビューザーがでっかいバケツのような形をした『吸水の魔核』と、膝までの高さのある真っ青な色をした水晶の『青の魔結晶』をテーブルの上に置いた。



 値札は付いていない。



「少し確認させてもらっていいかい?」



「ああ、いいぞ。うちは壊れた物は扱ってないからな。たしかめられても問題ない」



 

 品名:吸水の魔核 品質:A+ 呪い:なし 付与属性:水 消費魔法力:20 発動魔法力:45



 消耗度:13/100 価値:7000ガルド




 品名:青の魔結晶 品質:A+ 呪い:なし 魔力備蓄量:3000 魔力出力量:30



 消耗度:5/100 価値:1万ガルド



 ふむ、どっちも品質もよく、消耗度も低い良品だな。



 あとは提示される値段が法外すぎなければ、購入したいが……。



「二つでいくらになる?」



「あんたはそれにいくらを付ける? それによって値段を変える」



 俺を試してるのか?



 店のことを知ってたら、俺が魔導技師協会から鑑定を委託されてる鑑定士だって知ってるだろうに。



 それでも値段を付けろと言うんなら、在庫として持ってた価値がどれくらい上乗せされるかを見てるんだろうな。



 依頼料からすると、赤字にならないラインは、吸水の魔核が1万ガルドで青の魔結晶が1万8千ガルド。



 だが、そんな値段じゃビューザーは売ってくれないだろうな。



 なんせ、需要がほとんどない長期在庫品だろうし。



 俺なら、吸水の魔核を4万ガルド、青の魔結晶を6万ガルドくらい支払って欲しい。



 ってことはトータルで10万ガルドのお支払いになるな。



 会計係にしているレイニーが、また赤字だって怒る気しかしないが、依頼者も困ってることだし時間も惜しい。



「二つで10万ガルド。足りないってことはないだろ?」



 値段を言うと、ビューザーの表情が一気に緩んだ。



 握手を求める手を差し出されたので、握り返してやる。



「商談成立だ。よく、こんなガラクタに10万ガルドなんて付けたな」



「いや、俺には依頼品を完成させるため、絶対に必要な部品だし、あんたは長期在庫として抱えてたと思ってね。自分だとしたらあの値段じゃないと手放せないかなと思っただけさ」



 握手していた手を離すと、腰から垂らした革袋から金貨を1枚取り出し、テーブルに置く。



 ビューザーは両手で金貨を取ると、金貨に対しおじぎをした。



「普通のやつだと、ぼったくりだって怒り狂うんだが、あんたは物の価値が分かる男だな。鑑定士としてじゃなくて、商売人としてって意味だぜ」



「需要と供給が物の値段を決めるってくらいは知ってるつもりだ。とりあえず、物は売り出し市を見回ってきた後で引き取りにくるから預かっててくれると助かる」



 まだ、見回ってない店もあるし、さすがにでかい部品を持って、この人込みは歩きたくない。



 それにシェイニーやレイニーにも『風信樹』で目的の物が見つかったことを伝えないとな。



「いいぜ、取り置き代はサービスしておいてやろう。日暮れまでは店を開けとく」



「助かる。たぶん、昼過ぎには取りに来るつもりだ」



 ビューザーは手を挙げて応えると、俺が買った品を露店の奥に戻しに行った。

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