第4話 ジャンク屋流の仕入れ

「そこを行くのは柊斗か。久しぶり――でもないな。今日は美人エルフ姉妹はいないのか?」



 露店に目当ての品がないかを探しながら、街をぶらりと歩いていたら、顔なじみの露店の店主が声を掛けてきた。



 王都で店を開いてから、このガラクタ街には仕入れのため、高頻度で顔を出している。



 そのため、ガラクタ街の店主たちとは大半が顔見知りだ。



「来てるよ。だが、別行動だぜ」



「なんだよっ! シェイニーちゃんもレイニーちゃんも別かー。じゃあ、いいわ。お疲れっす」



「おいおい、声をかけておいてそれはないだろ!」



「だってよ。お前だけじゃ、まためちゃくちゃ値切られて、こっちが懐を痛めるだけだからな。あの美人エルフ姉妹の笑顔がないと耐えられねぇって!」



「人聞きの悪い。俺は相場より少し高い値段してるから値切ってないぞ。ここが相場以上に高く売りすぎなんだっての」



 ガラクタ街の店主たちは、中古品や故障品を扱う者たちで、自らの利益を守るため、店主たちが話し合って中古品の価格を若干高めに設定して売り出していることを知っている。



 新品は買えないが、型落ちの高性能な魔導具を狙っている層は存在するので、彼らの商売もなんとか成り立っているのだ。



 俺としても【価値創造】スキルが、中古品とか故障品から取ったパーツ類しか作用しないため、潰れてしまっては困るので、彼らにも利益が出るようしている。



「そうしないと食っていけないだけさ。というか、柊斗が冷静に値段の査定しすぎなんだよ。ギリギリ、納得できる額を提示されたら、うんって言うしかないだろうがっ!」



「俺もあんたらが潰れたら困るから、どっちも儲かるようにしてるのさ」



「んで、今日は何を探してるんだ? お前のことだから、大売り出しの日に顔を出してるところを見ると、どうせまたほとんど流通してねえようなレアな部品を探してるんだろ?」



 顔なじみの店主が、俺の探し物が何かを考え、ジーっと視線をこちらに向ける。



「『吸水の魔核』と『青の魔結晶』の程度にいい中古品がないかなって思ってね。探しに来てる」



 俺の探している物を聞いた店主がはぁーとため息を吐いた。



「また、このガラクタ街でもほとんど見かけないようなレアな部品を探してるな……。んな、かさばって金にならんゴミを買い取るやつもいないだろうし、売る馬鹿もおらんだろ」



「だよな。もしかしたらあるかもって思ってな。依頼品を作るのにどうしても中古品が必要でね」



「新品で作れ! 冒険者に依頼すれば新品の『吸水の魔核』と『青の魔結晶』くらい手に入るだろ? いやいや、それよりか美人エルフ姉妹に頼めばいいじゃねえか」



「いや、俺は中古しか扱えないんでね」



 店主が頭を抱えた。



「そう言えば、お前は中古しか使えない正規の魔導技師様だった。異世界人だからって話だが――」



「ああ、そうだ。俺は異世界人でこの世界の人と少し違う力を授けられてる。その力のおかげで、中古品しか扱えないんだ」



「難儀なことだな。おかげでほとんど流通しねぇ、下級部品の中古品を調達をしないといけねぇハメになるとはな」



 店主が言った通り、この世界で魔導具を製作する正規の魔導技師は、新品の部品を使って魔導具を作り出す人が大半だ。



 俺みたいに中古品を使うやつは、魔導技師協会に登録してないもぐりの魔導技師だったり、問題を起こし協会から追放され、新品の部品が購入ができなくなったやつらくらいだ。



 なので、店を開いた当初に中古品を使った物を販売したとして、魔導技師協会の査察を受けたこともある。



 まぁ、【価値創造】スキルで作った品を見せたのと、中古品でしか作れないことを偉い人たちに見せたことで、もぐり魔導技師という冤罪は晴れ、正規の魔導技師として登録はしてもらえた。



 それ以降、魔導技師協会とは色々といい関係を築かせてもらっている。



「それなりに探す楽しみも味わえるから、俺としては、これはこれでありなんだって」



「やっぱ、柊斗は変わり者だ」



「まともなら、店なんて構えてないからな」



 店主は一瞬だけ考え込む仕草をしたが、じろりとこちらを見ると、大きな笑い声をあげた。



「ちげーねぇな。呼び止めて悪かった。探してる物が見つかるといいな」



「おぅ、ありがとさん。それはそうとして、そこの『大紫電の魔石』を見せてくれよ。なかなか良さそうな物じゃないか。わりと使い込まれてない新品に近い部品だろ?」



「待て、待て、待て! これは掘り出し物中の掘り出し物だぞ! さすがに柊斗に売ったら、オレが倒産するやつだって」



 並べてあった『大紫電の魔石』を手に取り、【鑑定】スキルを発動させる。



 品名:大紫電の魔石 品質:B+ 呪い:なし 付与属性:雷 消費魔法力:50 発動魔法力:100



 消耗度:2/100 価値:13万ガルド



【鑑定】スキルは、この世界の人も備わっている人が存在しているスキルだ。



 ただ、【鑑定】スキルも3種類ある。



 品名と品質と付与属性しか分からない【物品鑑定】。



 その三つにプラスして消費魔法力と発動魔法力と価値が分かる【価値鑑定】。



 最後に呪いと消耗度が分かる【呪い鑑定】。



 ちなみに俺が【ジャンク屋】のジョブで取得しているのは、最高レベルの鑑定スキルである【呪い鑑定】だ。



 魔導技師協会の販売する正規品の新品は、呪いの有無まで確認した物でしか扱っていない。

 


 俺が魔導技師協会といい関係を築けているのは、この【呪い鑑定】ができる超レアな鑑定士でもあるためだ。



 ジャンカー魔導具店の主たる収入源は、魔導具の販売ではなく、魔導技師協会から持ち込まれる未鑑定の物品の鑑定料だ。



 鑑定料は、月に200万ガルドくらいになる。



 おかげで魔導具販売が赤字でも、店が潰れることはない。



【ジャンク屋】やっててよかったと思う。



 鑑定を終えた俺は、品物の値札を見た。



 値札は20万ガルドか。



 この世界、金貨1枚が10万ガルド。



 1ガルド=1円くらいの価値なので、20万円くらいの売値を付けてある。



 ちなみに白金貨が100万ガルド(円)、金貨10万ガルド(円)、銀貨1万ガルド(円)、銅貨1000ガルド(円)、鉄貨が100ガルド(円)くらい。



 この世界の一般人の一か月の生活費が5万ガルドくらいであるため、20万ガルドの部品は、かなり高価な部類の品になるのだ。



 未使用に近い掘り出し物とはいえ、『大紫電の魔石』の中古相場は鑑定に出てきた価値と同じ13万ガルド程度。



 明らかにぼったくり値段であった。



「15万ガルドくらいでどう? もとからそれくらいが折り合う値段だろ?」



「あっ! くぅ、的確な値段付けしやがって! だが、今日は大売り出しの日だからな! 16万ガルドでしか売らんぞ!」



 店主は人出が多い大売出しの日であることを理由に、1万ガルドの加算を申し出た。



 ふむ、買い逃すと同じ物は、その値段で出てこない気がするな。



 最近はもぐりの魔導技師も増えて、中古品相場も上がってきてるし。



 少し高いが、在庫としてストックしておくか。



「よし、買った。16万ガルドな」



 腰に垂らした革袋から、金貨と銀貨を出して店主の前に並べていく。



 店の経営は順調であるため、金銭的な余裕はある。



「え? 本気かよ? 柊斗なのに!?」



「えらい言われようだな。まるで俺がケチいみたいじゃないか。俺だって必要なら金を出して買うんだぞ」



 驚いた顔をしている店主が金を数え終えると、こぶし大の宝石である『大紫電の魔石』を渡してくれた。



 俺は『大紫電の魔石』を傷が付かないよう布に包み込むと、肩からかけた革の鞄にしまい込む。



「そうだったな。じゃあ、買ってくれたお礼にさっき探してるって言ってた部品がありそうな店を教えてやるよ。右の突き当りを左に入った列の5軒目にあるビューザーってやつが、そういった下級デカブツの部品を中心に扱ってるって話だ」



 あまり値切らず掘り出し物を購入したことで、気を良くした店主が、こちらの探している物がある可能性が高い店の場所を教えてくれた。



 ここに来るようになってしばらく経つが、そんな店があったなんて知らなかったな。



 やはりガラクタ街は奥深いところだぜ。



「情報提供ありがとう。行ってみることにするよ。また掘り出し物があったらよろしく頼む」



 俺は店主に別れを告げると、教えられたビューザーが店を開く場所に向かった。

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