第17話 勇者パーティと海に行く
「それで? 2人はどうしてここに?」
ルナの怒りが静まったところでどちらに聞くわけでもなく尋ねてみる。
「はい。ノーシュヴァイン城はダイセン近くの海溝に魔王討伐に必要な『海のオーブ』が眠っているとの情報を得ました。私達は城の命により海のオーブの回収へとやって来たのです」
ルナがリーダー気質な性格で、手短に教えてくれる。
「ってことはフレデリカとエリスも一緒か」
まぁ、ルナとローラが一緒の時点で、パーティで行動しているのは明白だったが、つい声にだしてしまう。
「むぅ」
ルナが頬を膨らませて拗ねた表情をした。
「リッタ様はお2人にお会いしたかったのですか?」
「いや……。その……」
フレデリカには雷の魔法のことを相談したいし、エリスには『けーたいでんわ』のことを聞きたい。
しかし、それを言うとルナが怒りそうなので言葉を詰まらせる。
怒らせると1番怖いタイプだもんな。
「リッタくんはどうしてダイセンに来たの?」
ローラの助け舟が入る。
どうやら俺が困っているのに気が付いて助けてくれたみたいだな。
流石はコミュ力お化け。空気を読む能力もお化け級。いらないことを言うのがたまに傷。
「俺は前にダンジョンでみんなが譲ってくれたこれを有能な鑑定士に見せに来たんだよ」
言いながら、黒い物体を見せた。
「ああ。それか」
ローラが、あったねー、くらいのテンションで頷くとルナが質問してくれる。
「なにかわかりましたか?」
「いや。詳しくはわからなかった」
もしかしたら異世界の物かもしれないということはわかったが、確定事項ではないことを今言うのは違うと思い、爺さんが最初にくれた答えをそのまま答えた。
「だったらもうダイセンを出ちゃうの?」
ローラの質問に俺はチラリとルナを見た。
『今度ダイセンの町で花火大会がありますよ。一緒に行きませんか?』
『ダイセンか。確かに、世界でも有名な花火の町だな。うん。良いかも』
『ふふ。やった……』
前に一緒にダンジョンに向かう途中に山道でした会話を思い出す。
『数日後にこの町で花火大会が開かれるぞい。黒い物体の調査とか魔王とか色々物騒だが、フレデリカさんに用があるのなら、ついでに勇者パーティの誰かを花火大会に誘ったらどうじゃ?』
つい先程の爺さんの言葉通り、数日後に花火大会があるのなら、ルナを誘うとするか。
約束もしたし。
「いや。せっかくの観光地だし、まだ帰らないよ」
そう言うとルナはこちらの意図に気が付いたのか、静かに微笑んでくれていた。
その微笑みが花火大会のことかはわからないので、また2人っきりになった時に改めて誘うことにしよう。
「じゃあさ、じゃあさ! 海行こうよ! 海!」
「海か」
ダイセンの海は世界で1番綺麗と言われている。
その綺麗さ故か、海岸付近には魔物も存在しない。
もちろん、船で少し行けば危険地帯。魔物が出るので注意が必要だ。
世界一綺麗な海であると同時に世界一安全な海水浴場としても世界的に注目されている。
「ローラさん。遊びに来たのではないのですよ。私達は『海のオーブ』を探しに来たのですから、お仕事優先です」
「んー?」
ローラが眉をひそめてルナを見た。
「な、なんですか?」
「なんか変だね。いつもなら『リッタ様と駆け巡る恋の海に溺れたいですわ♡』とか言いそうだけど」
ローラのルナへのイメージってそんな感じなんだ。
「そんな感じで喋ったことなんてありませんよ!」
「でも、それに近い感じじゃん。今日に限ってリッタくんがいるのにお仕事って……怪しい……」
「そ、それは……。べ、別に早くお仕事を終わらせて花火大会に備えたいとか思っていません」
ルナもエリスも同じ系統だな。
嘘や言い訳が苦手な奴はどうしてこうもわかりやすいのか。
「花火大会?」
首を傾げたところで「リッタ!」と思わず笑みが出てしまうほどの小さく可愛い声が聞こえてくると、正面からフレデリカが抱き着いてくる。
「おっと」
体重の軽い彼女を難なく抱きしめ返すと、俺の胸をすりすりしてくる。
「すーはー。リッタの匂い。くへへ……。リッタ……」
「この思春期炸裂妄想娘。離れなさい」
今にも噛みそうなあだ名を放ちながら妖精王エリスがフレデリカを猫みたいに俺から引き離す。
「やめろ年増!」
「だ・か・ら! 18だっての!」
「だから……フレデリカからすると、十分に年増」
「てい」
「あーれー」
フレデリカは妖精王に投げ飛ばされた。
「まったく……」
言いながら長い髪をかきわけて俺達を見た。
「ルナ。仕事にやる気になってる中で残念だけど。すぐには仕事ができないわよ」
彼女の言葉にルナは困った様子を見せた。
「やはり船を出してくれる人はいませんでしたか……」
残念そうな顔をしているルナを見て、俺は話しの内容がイマイチ理解できていないでいるとローラが隣に来て教えてくれる。
「海のオーブがあるかも知れない場所まで船が必要だから、フレデリカちゃんとエリスちゃんが船乗りに交渉しに行ってくれたんだよ」
「ああー。なーる」
そういうことか。
「案ずることはないわ。すぐにはって言ったでしょ。わたしを誰だと思ってるの?」
「金髪クソビッチ」
「ツンデレクソビッチ」
「今時、金髪ツンデレクソビッチとか草も生えん」
「酷くないっ!?」
3勇者の口撃に耐えられないエルフの王はその場でうなだれた。
まぁエリスは口撃力は高いがメンタル豆腐だもんな。これもまたツンデレあるある。どこまでも王道をいく、ツンデレ妖精王様ですな。
「おいおい3勇者。金髪ツンデレクソビッチバカエルフ女王様が可哀想だろうがっ!」
「なに勝手にバカを追加してんのよ! ばかっ!」
「あれ?」
バカは言ってなかったかな。
「もう良いわよ……」
つんと拗ねたエリスを見て俺達は顔を合わせる。
「どうします?」
「こうなると面倒だもんね」
「海行きたい」
「そうします? なぜかがわかりませんがお仕事もできないみたいですし」
「そうだよー。最初から言ってんじゃん。ほら、もう仕方ないしみんなで行こうよ」
「フレデリカのロリボディでリッタ悩殺」
「フレデリカさんで悩殺なんてできません」
「そうそう。悩殺ならあたしのボディでしょ」
「ローラのはただでかいだけ。技術が足りない」
「そうですね。バランスで言えば私のボディが1番」
「中途半端とも言うけどね」
「なんですか!? このホルスタインさん」
「もー! なんだと!?」
「哀れなものだ。フレデリカが既にリッタと接触していることも知らず」
「「あ! このガキ!! いつの間に!?」」
「あんた達ほんとに勇者なの!? わたしは王よ!? なのに……。って、待ちなさい! あ、まってよ!!」
相変わらず勇者パーティは賑やかであった。
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