第18話 勇者パーティはナンパからも助けてくれる

 抜けるような晴天。


 降り注ぐ太陽。

 ザザァァと先程よりも近い距離で波が押し寄せては引いて行く。


 ここは世界一の海水浴場であるダイセンの浜辺。


 流石は世界一ということだけあり、結構な人で賑わっている。


 これが今の時代ではなかったら、もっと沢山の人で賑わっていたことだろう。


 先程のエリスの話しの続きはこうだ。


『すぐにが船は出せないが2日後で良いのなら、船乗りは出せないが船は貸してくれる』


 だそうだ。


 仕事まで空いた時間。その時間はバカンス気分で気兼ねなく浜辺に来れたってわけだ。

みんなで買いに行った水着を着て俺は上半身に薄手の上着を着て日光浴をしている。


 水着を買う時は、男子禁制ということで別行動となり、俺は先に浜辺に来ていた。


 店の人に勧められた真っ黒のゴーグルをすると太陽様も拝めるということで、せっかくなので購入してみた。


 まぁ、完全に太陽の光を防げるわけではないみたいだが、するのとしないのとでは全然違い、せっかく買ったものなので、黒いゴーグルをして、日光浴を楽しみながらみんなの到着を待つ。


「あのー」


 誰でも座って良いと思われる砂浜にあった椅子に座っていると、見知らぬ声がして反応する。


 ゴーグルを外して額に持っていき声の主を見て見ると、勇者パーティ程ではないが、綺麗な女性が2人立っていた。


「こんにちは」


 挨拶をすると「わぁ」とか「きゃぁ」とか黄色い声を出してくれる。


「お兄さんかっこいいですね」

「ほんと。筋肉もすごーい」


 いきなり会って褒めちぎってくれる綺麗な女性2人はどこか艶やかな表情で俺を見る。


「今から一緒に遊びませんか?」

「イケメンのお兄さんと危ない遊び教えて欲しいな♡」


 これがこの時代の若い男の特権とも言えるのかもしれないな。


 外見も中身も関係ない。


 若い男というだけで、綺麗な女性が寄ってくる。特になにもしなくても、向こうから来るんだ。


 ここで勘違いしてしまったら、以前酒場で絡まれたスキンヘッドと同じ将来を歩むことになるだろう。


 彼も若い感じはこんな風に女性がすり寄ってきて良い思いをした。そのしわ寄せが中年になってきたってわけだ。


 確かに、こんな綺麗な女性に言い寄られたら断るのは男として難しいのかもしれない。


 だが、俺はそこら辺の綺麗な女性には興味がない。


 壮絶な過去を知り、今を生き、未来で共に手を取り合って逝きたいと思える女性だけしか好きにはなれない。


「あはは。ありがとう。でも、俺なんかと遊んでもつまらないし、きみ達みたいな綺麗な人にはもっとお似合いの人がいると思うよ」

「そのお似合いの人が」

「お兄さんだ……」


 言葉の途中で急に2人が震えあがる。


 一体なにごとかと思ったら2人は顔を青くした。


「お似合いの人探してきまーす」

「ごめんなさい。ごめんなさい」


 ぴゅーとダッシュで逃げ行くように砂浜をかける。


 なんだと思い振り返ってみると。


「なによ」


 そこには妖精がいた。


 いや、比喩表現になっていないか。


 本当は綺麗な人がいるという意味で、妖精がいたと言いたかったが、妖精王本人が立っていたらシンプルに綺麗な人が立っていたとしか言えない。


「いや。綺麗だと思った」


 白いワンピースの水着に身を包んだ黄金の髪の美少女は頬を真紅に染めてそっぽを向く。


「べ、別にあんたに褒められても嬉しくないわよ」

「ん? 白い水着がって意味なんだけど」


 意地悪で言ってやると「んくっうう」と声にならないかすり声を出した。


 かと思うと、ずんずんと隣にやってくる。


「ああ! そう! そうね! わたしもそういう意味って知ってたから! 水着が綺麗って言ってるのなんて知ってたから!」


 言いながら少し涙目で訴えてくるので笑いながらすぐに訂正する。


「冗談だよ。エリスが綺麗って意味だよ」

「はっわっ♡」


 独特の声を上げると「きゅぅ」と蹲る。


 この妖精王様は本当に可愛いな。


「なんなのよ……。なんなのよ……」


 これ以上彼女をからかうのは可哀想なので「ありがとう」と話題を変えた。


「ナンパから助けてくれたんだろ?」

「べ、別に。ちょっと魔力を解放したかったから解放しただけよ。他意はないわよ」


 彼女なりのどういたしましてを受け取る。


 エリスはそのまま俺が座っている椅子の少しだけ開いたスペースに腰かけようとして俺を見た。


「勘違いしなでよね。立ってるのが疲れたからここを借りるだけだから。あんたと密着したいとかじゃないから」

「へいへい」


 少し震えながら「えい」と気合いを入れて少し開いたスペースに腰かける。


 彼女の尻の感触が俺のふとももを駆け巡り、少しいけない気持ちになる。


「そういえば、他の3人は?」


 聞くとエリスは呆れた声で説明してくれる。


「リッタを悩殺するとかで時間をかけて真剣に水着を選んでるわよ。ま、わたしの場合はなんでも似合うから、どれ選んでもリッタを悩殺できるんだけどね」

「俺を悩殺さそうとしたの?」

「ひょ!?」


 あ、今のナチュラルすぎて、自分の発言に後から気が付いた感じの声だわ。


「違うわよ!」


 もう、今更違うと言われても遅いけどな。


 まぁ3人がまだ来ないということには変わりない。


 せっかくエリスと2人ならば、鑑定屋で聞いた話しをしても良いかも知れないな。


「なぁエリス」

「違うから! 別にリッタを悩殺して、あんたと結婚して、子供いっぱい作って幸せな家庭を築きたいとかじゃないから!」

「あの……」

「あ! あ! 違うから! 子供いっぱい産みたいのは、エルフの里の再構築のためだから! あんたの遺伝子をエルフの里に欲しいからだから!」


 すげーめちゃくちゃな発言になってるけど大丈夫か?


 この壮大な海が彼女の欲望を解放しているのだろうか。


「『けーたいでんわ』って知ってるか?」


 今のこいつに前置きをしても暴走した発言しかしないので、いきなり話題を投げた。


「けーたい……なに?」

「あ、いや。知らないか」

「もしかして、あの黒い物体のこと?」


 暴走モードが終わり、きちんと話しができる状態になったので、俺は爺さんとの会話をエリスに話した。

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