第14話 勇者パーティは俺を離さない

「えへへ……。リッタ様ぁ」


 テーブルに突っ伏してルナが無事に逝った。


 えへ、えへとニヤニヤしながら、あるいは、ぐす、ぐすと泣いては俺の名前を呼んでいる。


 酒を飲むと情緒不安定になる女の子だな。


「おかわり! ロックで!!」


 ローラはまだ飲むのか……。


「あ! やっば! マリーローズめっちゃ伐採してくる!」


 お嬢様用語で大きい方のトイレか……。それを恥ずかし気もなく言っているので、もうローラはお嬢様ではない。ただのバカだ。


「ぴゅー……。ぴゅー……。リッタ……」


 フレデリカは単純な電磁切れみたいで、座ったまま眠ってしまっている。


「まったく。ろくな人間がいないわね」


 頬杖ついて飲んでいるエリスは絵になる。


 どこかクールな大人の女性と言わんとするフェロモンが、ぷんぷんする。


 セクシーって言葉が今の彼女にぴったりだ。


「ね? リッタ」


 そんな雰囲気の彼女に呼ばれたので少し、ドキッとしてしまった。


「どうした? エリフ」


 ちょっと噛んじゃった。


「ちょっ! そのあだ名は定着させないわよ!?」


 先程の大人の女性はどこへやら。


 ツッコミの時はまるで子供みたいに、キーキーと喚く。


「ごめんて」


 素直に謝ると「ふん」と鼻を鳴らす。


「そ、それで? どうかした?」

「今日のダンジョンで手に入れた黒い物体。それはあんたの目的と関係ありそうなのかしら?」

「どうして?」


 そういうと鼻で笑われてしまう。


「ダンジョンのドロップアイテム。いつものあんたなら欲しがらないのに、それは欲しがってたからよ」

「あー……」


 言われて俺は黒い物体を出して眺める。


「やっぱり変だったかな?」

「別にドロップアイテムを欲しがるのは欲求として当然だけど、あんたの場合はいつも遠慮するから」

「俺のことよく見てるんだな」


 そう言って少し話しを逸らそうとするが。


「茶化すな」


 と怒られてしまう。


「どうなの? あんたの目的である『行方不明の父親捜索』となにか関係ある?」


 改めて聞かれて俺は素直に答えることにする。


「それは本当にわからない。ただ可能性はあると思う」

「リッタの父親は『異世界人』で、その黒い物体も『異世界の物』と考えると可能性はあるってことよね」


 そう言い切った後に「あ……」と口元に手を持っていきすぐに頭を下げる。


「ごめんなさい。みんなには公表してなかったのよね?」


 慌てて謝罪するエリスに微笑む。


「気にしなくて良いよ。2人は寝てるし、ローラはいない。そもそもみんなに言っても良いんだけど、タイミングがなくてね」


 そう。


 エリスには出会った頃に俺が『行方不明の父親捜索』のために冒険者になり、世界中を旅していることを打ち明けていた。


 それというも俺の父親は『異世界人』だからだ。


 エルフの民は異世界と結構関わりのある種族のため、なにか手がかりがあるやもしれないと思い、エリスには最初に打ち明けていた。


 エリスの後に出会った3人の勇者には「俺は父親を捜して旅をしている」とか初対面で言うとか変な人だし、仲良くなってから今までも事情を言う場面がなかったので言っていないだけだ。


「エリスの言う通りだ。この物体が異世界の物であれば父さんへのヒントがあるかもしれない。でも、エリス。異世界人ってのは父さんだけじゃないんだろ?」


 昔に聞いたことがあるが、再確認の意味も込めて尋ねてみる。


「ええ。古い歴史の中で数十名の異世界人が確認されているわね。その全員が不思議な力を使ったともされている。と言われていたらしいわね」


 エリスは俺を見つめて言ってくれる。


「だからあんたの『アッパーコンパチブル』も異世界人の血を引いた特殊スキルってわけ」

「ああ、確かに。このスキルを俺意外で使える奴を見たことがないな」


 もし、俺と同じ能力の奴がいたら勝負はつかないだろうな……。


 っと、話しが脱線してしまった。


「その異世界人ってのは全員が『地球』って世界からやってきた。その地球って世界は面白くて大陸によって言語がバラバラで、古代文字も数種類あるんだよな」

「そういえば、洞窟の門に書かれた古代文字は3種類あったわよね?」

「え……?」


 俺はエリスを見ると睨まれる。


「無知で古代文字を全然読めなくても、古代文字がちょっと違うくらいはわかるわよ!」

「あはは。ごめんごめん」

「むぅ……。どうせ若造よ。若造妖精王よ……。つんっ」


 ナチュラルに怒らせてしまったな。


「え、エリスの言う通り門の古代文字は3種類あった。3種類の古代文字で同じ文章が書かれていたよ」


 指を3本立てて、1本を折る。


「そのうちのグスタ──って書いてあったのはグスタフ。ええっと、地球のアラビア語だったかな? ほとんど消えていたけど多分書いた人が『グスタフ・ヤー・シムシム』って書きたかったのだと思う」


 そして、2本目を折る。


「もう1個は地球で1番ポピュラーな言語である、英語ってやつ。文字が消えて、ペンとか海って略してしまったけど今考えると『OPEN SESAME』って書かれたのが消えて『PEN』と『SEA』に見えたから、ペンと海って読んだんだ」


 最後の指を折って、拳を作る。


「そして、最後は父さんが使っていた日本語ってやつだ。さいごの『ごま』しか読めなかったけど、アラビア語と日本語の文だけで『開けごま』って意味だとわかったよ」


 ドヤぁとしながら酒を飲む。


「いきなり語ってドヤ酒はやめなさいよ」

「良いじゃん。ドヤりたいんだよ」

「はぁ……。まぁとりあえず、古代文字のアラビア語、英語、日本語の意味は一緒で全ての『開けごま』って言えって書いてあったってことよね?」

「そうそう」


 ごくごくと酒を飲んで黒い物体を見た。


「そして、この物体に書かれていたのは日本語ってやつだ。父さんが使っていた古代文字。もしかしたら父さんの? と思うのだけど……」

「だったらなんでドラゴン? ともなるわね」

「謎は深まるばかりなんだよな。だから、俺はこれを調べる。絶対になにかの手がかりになると思うんだよ」


 黒い物体を見ながら、これからの方針を語るとエリスがチラッと見てくる。


「て、手伝おうか?」


 そんな彼女のご厚意にゆっくりと首を振る。


「エリス達には魔王討伐という責務がある。たかが人間1人の父親捜しをするより、もっと大きな責務がね」

「そ、そうね……」

「もちろん、魔王討伐に俺の力が必要ならいつでも言ってくれよ」


 そう言うと、ガシっと俺の手を握ってきたのは、瀕死のルナだった。


「いつでもリッタ様の力が必要でふ……。リッタ様。離しませんよ……」


 言いながら、また瀕死になってしまった。


「そ、そうね……。わたし達もリッタを離さない。でも、逆もしかり。あんたもわたし達を離さないで。困ったらすぐに言いなさい。パーティじゃなくても、わたし達は深い絆で結ばれた仲間なんだから」


 エリスには珍しく熱い言葉をもらってしまったな。


「ありがとう。勇者パーティ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る