第13話 勇者パーティと打ち上げ
「「「「「おつかれさまあ」」」」」
コンッ! と5つのタル製のジョッキが響く音が酒場に響き渡る。
乾杯をすると、景気良くジョッキの中の飲み物を飲む。
「ぷはぁ〜! 1仕事終わった後の1杯は格別だよねぇ! あ! お姉さん! おかわり!」
もう飲んだのか……。さすがは酒豪の勇者ローラ。彼女にとって、アルコールは水みたいなものか。
「1仕事って……。ローラさんがしてたのはリッタ様のストーカー行為ではありませんか」
「フレデリカもルナの意見に同意」
ゆっくりと飲むルナとフレデリカが自分のことは棚上げにジト目でローラに言ってのける。
ルナはあまり酒が強くないのでゆっくり飲んでいても、既に顔が赤くなっていた。
ちなみにフレデリカの飲み物は果実のジュースだ。
「にゃはは〜。だってリッタくんのこと好きなんだから、どこでもくっつきたいだもん。あ、ありがと〜。お姉さん」
サラッと気恥ずかしいセリフを吐くと、彼女は運ばれてきた酒を一気に飲んだ。
「お姉さん! おかわり!」
酒場のウェイトレスが目を丸めて驚いていた。
「すげぇ……」
どんだけ酒に強いって話だよな。
「リッタくん! ウェーイ!」
そう言って、個別に乾杯を要求してくるので「ウェーイ」と乾杯をすると、俺も中身を飲み干して、追加の注文をする。
こちらの行動に、ピキッと反応を示したルナとフレデリカは、一気にジョッキを煽った。
「ウェイトレスさん! こっちも追加です!」
「フレデリカも! 果実マシマシで!」
なんで対抗心燃やしているんだが……。
ルナとフレデリカは運ばれてくるや、こちらにジョッキを突き出してくる。
「リッタ様! ウェーイ! です!」
「イエッ!」
あまりそういうノリをしないルナに合わせてあげて乾杯する。
「フレデリカも! フレデリカも!」
幼い子供がねだるように言うので俺からジョッキを突き出してあげる。
「ウェー!」
「う、うぇい」
フレデリカとも乾杯を交わした後にエリスを見る。
「わたしはやらないわよ」
なんてクールな声で拒否されて、エリスはちびちびとジュースを飲んでいる。
「わぁ! ルナちゃん今日はいくねぇ」
ルナを見るとゴクゴクと飲み干した。
「お、おい。ルナ。お前酒弱いんだから無理するなよ」
フレデリカはジュースだからそこまで心配ないが、彼女のはアルコールだ。飲み過ぎや一気飲みはよろしくない。
「ぽぉ……。リッタしゃま……」
「ああ。ほら。もう呂律が回ってないじゃないか」
「らって……。リッタしゃまもおしゃけちゅよいですし……。ルナは……リッタしゃまと一緒がいいんれふ。なんでも一緒が良いんれふ……」
そう言いながら、席を離れてこちらに擦り寄ってくる。
「リッタしゃまぁ♡ 私のパーティに入ってくださいよぉ♡」
顔を真っ赤にしながら耳たぶを食べられる。
「ふふ。リッタしゃまの耳おいひいでふ♡」
「ちょっとルナちゃん! 酔ったふりしてリッタくんにくっつくないでよ!」
そう言って左腕にしがみついてくれるローラ。酒に強いと言っても、若干酔っているのか、谷間に思いっきり腕を挟んでくる。幸せである。
「そうだ! そうだ! じゃあフレデリカも酔った!」
ジュースでは酔えんだろうに。
無理あるフレデリカは相変わらず正面から抱きついてくれる。
「ふぇ? 酔ってまへんお?」
あ、だめだ。いつもなら毒を吐くルナの目がトロンとしている。
「ふふ。みんな、リッタしゃまが好き〜。みんな幸せ〜。みんなで幸せになりまひょ〜」
その言葉にローラとフレデリカは目を合わせると、ギュッとしてくれる。
「それも……あり?」
「かも」
そして、俺を優しく包み込んでくれる。
「ふん。バカばっかね……」
エリスが呆れた声を出すが、目を細めてどこか優しくも楽しい雰囲気で飲んでいた。
「ひょっとエリフひゃん」
「エリスとエルフをかけた出来損ないのあだ名みたいだからその呼び方やめてくれないかしら」
確かに、出来損ないのあだ名だな。
「みんな、み〜んなリッタしゃまが好きなんですから〜。エリフひゃんもこっちひて〜」
「は、はぁ!? べ、別にわたしはこいつのことなんて……」
「いやいやいや。まだそんなこと言ってるのかよぉ。曲がった愛が溢れてるっての」
ブンブンと手を振ってあり得ないと言わんとするローラ。
「エリスの愛はお子ちゃまだけどね」
「お子ちゃまにお子ちゃま言われたかないわ!」
エリスのツッコミを無視して3人は、ベタベタと俺を触る。
「無視!?」
エリスは顔を覆って泣いた。
「ほらほらエリフしゃん。リーダー命令でふ。こっちおひで〜」
手招きをするルナの言葉に旋律が走る。
数秒の沈黙の後、ローラが口を開いた。
「はぁ? 誰がリーダーだって? リーダーはあたしだよ! 未だに剣=主人公推してるのかよ。古いよ!」
その反論にエリスが続く。
「なんでバカのお猿さんがリーダーと言い張えるのか謎ね。リーダー=王。答えは決まってるでしょ? 妖精王たるわたしが勇者パーティのリーダーなのよ。あんた達は使い魔みたいなものなんだから出しゃばらないことね」
ふんっと一気に捲し立てるエリス。
妖精王としてのプライドだろうか。
「フレデリカはバカのお猿さん。だけどリッタの嫁。ウキー。ウキキー。猿みたいにリッタと混じり合う。子沢山になるからみんなからのご祝儀は豪邸でよろ」
「「なっ!?」」
ローラとエリスが唖然とした声をあげる。
いや、いつものパターンなんだから、そんな唖然としなくても良いと思うのだが……。酔ってるなこいつら。
「エリフひゃん!」
なぜかルナがエリスを呼んで、彼女の飲んでいたジョッキを飲み干した。
「ルナ!? なにしてるのよ!?」
「いうふぉときかにゃい子は、めっ! でふよ」
現在の彼女の、めっ! は他の奴の飲み物を飲むことみたいだな。
「さ、早くみんなでくっついて、ひあわへになりまひょ〜」
だめだ。ルナの目が逝ってる。なんかやばい薬決め込んだみたいになってる。
「エリス。す、すまない。このままじゃらちがあかないし……頼めないか?」
このままエリスがくっついてくれないと、ルナが酔い潰れて明日どんまいになってしまう。あの苦痛を味わうのは俺だけでいい。二日酔いまじきっちぃから。
「しょ、しょーがないわねっ」
エリスは、やれやれと言わんばかりに立ち上がる。
「あ、嬉しそう」
「しめしめって感じがする」
「ローラ。フレデリカ、しっ」
ここで2人の声が聞こえて萎えたら、ルナがまじに死ぬ。
エリスは、俺の背後に立つと「リッタ……」と小さく名前を呟く。
ギュッと後ろから抱きしめてくれる。
「あんたのこと、ずっと前から好きよ……」
いきなりの告白に全員がエリスを見た。
「エリスちゃん……」
「そこまでしろとはルナも言ってないと思う」
ローラとフレデリカの言葉に、背中が急激に熱くなる。
多分、エリスが瞬間沸騰したのだろう。
「な、なんてね! 冗談よっ! 冗談! 今エルフの民で流行りの嘘告ってやつ」
そんなことが流行ってるエルフの将来が不安だ。
「あー。無理あるなぁ」
「嘘下手ぁ」
「うっ」
ダメージを受けているエリスの声の後に「あーはは!」と大笑いをするルナ。
ルナは瞳から涙を流しながら笑っている。
「みんなひあわせでふ〜! みんなでひあわせでふ〜! たのひいい! みんなだあいふき♡♡♡♡♡」
そう叫ぶと、俺たちはみんなで顔を見合わせて笑い合った。
「ひあわせな日にきゃんぱああい!」
「「「「これ以上はやめとけ!!!!」」」」
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