第12話 勇者パーティとドロップアイテム

「リッタ様! すごい! すごいです!」


 ルナの聖剣が光の粒子となって消えたと同時にルナが俺に抱き着いてくる。


「あでっ!」


 アーマーとガントレットが直に当たって痛かったが、ルナは興奮しているのか気が付いていない様子だった。


「今の『セイクリッド・エクスキューテ』ものすごく綺麗でしたよ!」

「そ、そう?」

「はい♫ これも私との相性が良いおかげですね♡」

「そうだね。相性良いよな俺達」

「えへへ。リッタ様もそう思ってくれてるなんて嬉しいです。勝利のキスしましょ♡」


 ん~と唇を近づけてくれる時にアーマーとガントレットが痛いけど、キス顔が可愛いから許せる。


「ええい! 離れなよ!」

「あ~れ~」


 すりすりしている途中で、ルナの首根っこが掴まれて遠くに飛ばされる。


 流石は拳の勇者様。なんというパワーだ。


「リッタくんと相性が良いのはあたしだもんね。ね? リッタくん♫」

「ローラとも相性ばっちりだよな」

「えへ♡ リッタくんもそう言ってくれるなんて、嬉しい……。勝利のキスしよっか♡」


 そう言って静かにキス顔をして唇を近づけてくれる。


「『ウェンティ』」


 呪文が聞こえるとローラが飛ばされる。


「下級魔法で!?」

「ふっ。相変わらずの紙装甲」


 ローラは攻撃特化型だもんな……。


 ぴゅーと飛んで行ったローラを見ていると、ギュッと正面から抱き着いてくるフレデリカ。


「ごめんなさい。フレデリカの魔法のせいでリッタを危険な目に」


 今さっきとは全然違い、泣きそうな顔をして言ってのけるセリフは本心なのかどうか疑うレベルだな。


 そんな彼女に微笑んで頭を撫でてあげる。


「あんなもん、誰も予想できないっての。この世に、ルナ以外に雷が効かない奴がいることがおかしいんだ。それよりも、雷の魔法も随分上達したね。凄かった」


 そう言うと、花が開くみたいに、パアァと笑みをこぼした。


「フレデリカ。凄い?」

「ああ。凄い。そりゃ凄いぞ」

「えへへ。じゃあ、ご褒美のキスを所望する」


 そう言ってキス顔をして唇を近づけてくる。


「させません!」


 ルナの声が聞こえてきたかと思うと、俺はルナに引っ張られていた。


「リッタ様は私と勝利の美酒に酔うのです。この場合の美酒とは私の唾液。さ、リッタ様。お互いに存分に酔いつぶれましょう」

「させないよっ!」


 そう言って次はローラに引っ張られる。その勢いで俺の顔面は巨乳に埋まってしまい、顔面が幸せでいっぱいになる。


「なに汚い表現してるんだよルナちゃん! イヤらしい雌の表現だよ!」

「あら? 大人の恋愛をご存じなくて? 知識が全部乳に行って、恋愛の価値感は育たなかったのですね。可哀想」

「な、なにおおお!?」

「大人の恋愛は乳だけではないのです。体全体。内も外も使って愛を表現するのですよ。乳でしか表現できないローラさんには難しいですか?」

「この、淫乱聖騎士風情が……」

「脳筋乳牛牧場物語」

「なんだよそれ! 悪口のベクトルが独特だよ! せめて単細胞汗だく女とかにしてよ!」

「単細胞汗だく女。つゆだくで」

「ノオオオオオオ!」


 2人の言い合いを見守っていると、ギュッとフレデリカが正面から抱き着かれる。


「リッタ。好き♡」

「「させるかああああああ!」」

「ちょっとバカ共!」


 今まで黙っていたエリスの一言で全員が彼女の方を見る。


「見なさい」


 そう言ってエリスは全員にドラゴンの亡骸を見るように指示する。


 素直に見ていると、漆黒のドラゴンの体が光り出した。


「なっ!?」

「爆発!?」

「落ち着きなさい!」


 焦って、その場にしゃがみ込んでいると、エリスが一喝する。


「爆発じゃないわよ」


 言われてもう1度見ると、漆黒のドラゴンは形を変えて長方形の小さな黒い物体と変化した。


「え、エリスちゃん……。あれ、本当に爆発とかしないよね……?」

「え、ええ。危険な感じはないと思うけど」


 俺は興味を示して、長方形の黒い物体に近づいた。


「あ、リッタ様」

「リッタ」


 ルナとフレデリカが心配そうな声を出してくれるのを無視して、その長方形の黒い物体を拾いあげる。


 巨大なドラゴンの姿から、俺の手に収まる程まで縮んだそれを眺める。


 光の魔法なのか表面が光っているのがわかる。


「エリス。これ……光の魔法?」


 光っている部分を見せると首を横に振る。


「いいえ。なんの波動も感じない。これは……」


 エリスは俺をチラリと見る。


 なにか言いたそうだったが、すぐに視線を外した。


「あ、あれね。光の魔法じゃないのは確かね」


 少しばかり歯切り悪く言ってのけるエリスを誰も不信に思わず、みんなでそれを見る。


「あ、リッタ様。その光っているところ、古代文字が書かれているのではありませんか?」


 ルナの言葉にローラとフレデリカが覗き見る。


「うへぇ。なにこの小さい絵の集合体」

「気持ち悪い」


 エリスも苦い顔をして頷いた。


「2人の気持ちわかるわ。流石に古代文字がこんなに小さくびっしり書かれていたら頭が痛くなるわね」

「そうですね……。リッタ様。これは読めますか?」

「あ、ああ」


 緑色の背景に黒い古代文字がびっしりと埋め尽くされており、読みづらいがなんとか読むことはできそうだ。


「ええっと……『ドラゴン? ……と……。明日は優勝大会? ……だね。私、観客だから応援に行く……よ。絶対に勝利して私と、世界? を行こう。その時、私の気持ち伝えたい。ドラゴン……と、に気持ち伝える。線……で言うのは怯えてる? だから、直接言いたい。また、明日』かな……?」


 全員の頭に?マークが無数に出た。


「漆黒のドラゴンさんの恋文でしょうか?」

「ええ!? 倒しちゃったよ!? 恋するドラゴン倒しちゃったよ!?」

「儚い恋」


 3人の勇者のセリフを聞いてエリスが俺に問う。


「リッタの翻訳は確実なものじゃないでしょう?」

「そうだな。この古代文字はかなり難しい。最初に『ドラゴン』って言ったけど、ドラゴンじゃないと思うし……」

「なんなのでしょうね」

「あ、なんかボタンあるよ」


 長方形の黒い小さな物体の下のボタンをローラが迷いなく押した。


「ちょっと! ローラ!」


 エリスの焦った声。


 なにか起こるかと思ったが特になにも起こらない。


 いや……。


「あ、なんか絵に変わったよ」


 ローラの言葉に俺達は黒い小さな物体を見る。


「ええっと。なんでしょう……。不思議な恰好ですね」

「可愛い恰好」

「若い男の子と女の子みたいだけど……」


 そうである。


 古代文字から移り変わったのは、男女が少し恥ずかしそうに映っている姿。


 人物画にしてはかなり高技術の物で、その場面をそのままくり抜いたかのように思える程だ。


「ちょっとリッタに似てない?」


 エリスが何気なく放った一言で全員がそれをまじまじと見る。


「言われれば……似てる気がするような……」

「ええ。そうかな? リッタくんにしては幼過ぎる気がするよ?」

「ローラに同感。リッタの方がダンディ」


 三者三様の意見のあとにエリスが慌てて言う。


「なんとなくよ。なんとなく。リッタはどう思う?」


 これが俺に似ている……。


 それってことは……?


 いや、まさか……そんな偶然は……。


「リッタ?」

「あ……ごめん、ごめん」


 エリスの声は聞こえていたけど、考えていてつい返事が遅れてしまう。


「俺にしては……幼いな。100歩譲って、10代の俺になら似てるかもだけど」

「ということは」

「10代のリッタくんは」

「こんな感じ?」

「ごくり」


 5人が黒い物体を無言で眺めていると。


「「「「「あ……」」」」」


 5人の声が重なる。


 黒い物体は光を失い、人物画も消えてしまった。


「これは一体なんなのでしょう」


 指を顎に持っていき、首を捻るルナを見た後に、全員に視線を配る。


「みんな。勝手なんだけど……。この黒い物体。俺に預からせてくれないか?」


 ダンジョンの奥に住む魔物を倒して、珍しい形でのアイテムドロップ。


 俺の発言は普通なら自己中心的で忌み嫌われるだろう。


 しかし、みんなは優しく頷いてくれた。


「もちろんですよ。ルナの物はリッタ様の物です」

「良いよ。あたしが持ってても意味なさそうだし」

「リッタが欲しいなら。あげる」

「ふん。別に持っていくと良いわ。感謝しなさい」

「ありがとう。みんな」


 俺は謎の黒い物体を手に入れた。


 そして、フレデリカの脱出魔法でダンジョンから脱出したのであった。

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