第9話 勇者パーティと分裂
フレデリカが杖でローラを引っ掛けて引きずって歩いてくれてからしばらくが経過しただろう。
「分かれ道」
今まで、1本道で進んで来た洞窟が綺麗に2股に分かれていた。
テンプレ的なダンジョンならどちらかは行き止まりなり、トラップなりがあるだろう。
「ここはみんなで──」
同じルートを行こう。
そう提案したかったのだが。
「そおおい!」
フレデリカは杖を思いっきり振り回して、左のルートにローラを放り投げた。
「ちょ!?」
こちらの制止も聞かずにフレデリカは呪文を唱えた。
「『プロヴェクタ・ウェンティー』」
風の上級魔法をルナとエリスに放つ。
「「きゃああああああ!!」」
ボオオオオオオオ! という暴風と共にルナとエリスが悲鳴を上げると、左のルートに吹っ飛んで行った。
「『イグニ』」
そして、火の下級魔法で天井を攻撃すると、左のルートの穴を塞いだ。
「任務完了」
ふぃ、と汗を拭うフレデリカはどこか満足げだった。
「リッタ。2人っきり」
ぽっ。
あ、可愛い。
「じゃないわ! なにしてんのおおおおおお!?」
そんな爽やかな感じの場面じゃなかったけど!?
上級魔法を仲間にぶっ放して、モロに当ってけど!?
俺は瓦礫で塞がった所まで足を運んで「大丈夫か!?」と大きな声で聞いてみる。
「「「クソガキ!!! 覚えとけよ!!!」」」
あ、うん、大丈夫みたい。
「問題ない。ルナとローラとエリスからすれば、フレデリカの魔法はそよ風程度」
「いやいやいや。ダメージはないかもだけど、パーティ分裂しちゃったよ!?」
「だって。みんなリッタとイチャイチャしてるのに、フレデリカだけしてない」
いじけた顔をして杖で地面に、なにか字を書いて拗ねている。
「はあ……」
壮大なため息が出ると「ぷっ」と吹き出してしまう。
「そういえば、昔にもこんなことあったな」
「あった。フレデリカとリッタの愛の物語のプロローグで」
なんかシンプルで重いタイトルだな。
「昔から無茶苦茶だよな。ふふ」
「それはリッタのせい」
「俺のせいか?」
「フレデリカはもっとお淑やかな女の子だった。愛は人を変える」
「ええー。そうでもなかった気がするぞ?」
「えい」
フレデリカは唐突に正面から抱きついてくる。
「昔のフレデリカはこうやってリッタに抱きつかなかった」
少女の香りが鼻を通り、いけない気持ちになる。
「た、確かに」
「ね? リッタがフレデリカを変えたんだよ」
「そう言われると、そうなのかも……」
ギュッと強く正面からフレデリカが抱きしめると小さな声で呟いた。
「フレデリカの居場所はここだから」
そんな儚い声に、俺は自然と彼女の頭に手を伸ばして、サファイヤの髪を撫でた。
「さて、のんびりしてられない。こっちのルートから進もうか」
「デート」
そう言って彼女は手を握ってくる。
恋人繋ぎで、柔らかい彼女の手の感触にドキッとしてしまう。
「デートじゃないけど」
「気分は王都のメインストリート。帰りにアイス買って、あ〜んをしあう」
「フレデリカの理想のデートが知れて嬉しいよ」
「今度、期待してる」
「あ、あはは」
そんな会話をしながら俺たちは右のルートを歩き出す。
トラップでもあるかと警戒しながら歩いて行くが、特にそんなものはなく、足元が整備された道をフレデリカと歩く。
ピタッ。
「ひっ!?」
背中に冷たい感触があり、ビクンとなる。
「敵!?」
フレデリカが手を握っている反対の手で杖を構えた。
「あ、ごめん。あれだわ」
天井からの水滴が背中に当たっただけみたいだ。
「ぷぷ」
騒いだことを謝ると、フレデリカは独特の笑い声で吹き出した。
「リッタ。可愛い」
「か、可愛いか……。それって男子的には不名誉なんだけどな」
「女子的最高の褒め言葉」
「そうなの?」
「うん。かっこいいと可愛いを併せ持つリッタは最高のフレデリカの伴侶」
「最高の伴侶ですか」
「最高の伴侶。今、ここでフレデリカ貫通式を行ってもいい」
「それだけ聞くとえぐい式典だね」
「ダンジョンプレイが初経験……。むふぅ」
だめだ。興奮して聞いちゃいない。
「あ! おい、フレデリカ。行き止まりだ」
「あ♡ リッタ♡ そんなプレイも? フレデリカはどんな変態プレイも拒まない」
だめだ。思春期のエロ妄想舐めちゃいかん。ダンジョンという場所でも妄想する。
思春期。なんて危険な期間なんだ。
はぁ。とため息を吐いていると壁に気になることが書いてあった。
「ん?」
壁には古代文字で『愛しき人の名を叫べ』と書かれていた。
これってのは?
考えていると。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
とてつもなく強大な咆哮が岩壁を飛び越えて聞こえてくる。
ローラの勘は相変わらず当たるみたいだな。
「フレデリカ!」
「流石に、今の波動はやばす」
「まじにやばすだ。もしかしたらルナ達のルートの先じゃ!?」
「ちょい待ち」
フレデリカは握っていた手を離し杖を両手で地面と水平に持ち、瞳を閉じた。
彼女の魔法の波動で地面から風が巻き起こり、髪が、コートが靡いている。
「下」
フレデリカは杖を、トンっと突く。
「『プロヴェクタ・テラヴィブレート』
地の魔法を唱えると、地面が揺れる。
ゴゴゴ! と何かが蠢く音がしたかと思うと足元が崩れた。
フュン! と下に落下する。
「ふゅ!?」
あ、これ金玉逝ったわ。
男ならみんなわかるあの現象。俺は玉ふゅんと名付けている。
「リッタ!」
ゴオオオオオと落下の勢いで耳への風圧がすごい中、フレデリカが手を繋ぎに来てくれる。
「ごめっ! 玉がっ!」
「玉?」
「握りたいんだ!」
手で玉を抑えないと、この落下は耐えられない。
全身が金玉を中心に、なんともいえない感触に包まれる。握ればなんとかなるかも。
しかし、重力に逆らうことができずに自分の手で自分の息子を握ることはできない。
「握れば良いんだね」
「ちょ! 違っ!」
優しいフレデリカは気を利かせて、俺の息子を握ってくれた。容赦なくガッツリと鷲掴み。
キーン! そんな効果音が脳内再生余裕でした。
「ふゅるるるらああ!」
「ふぅ。任務完了」
美少女に息子を握られるなんて男として、雄として最高のシュチュエーション。
しかし、この状況での握りは瀕死を意味する。
薄れゆく意識の中、一緒に落下するフレデリカは可憐な笑顔で俺を見つめてくれていた。
逝く前にキミに握ってもらえて良かったよ。
落下途中に、数億もの息子が世に放たれたことは秘密だ。
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