第8話 勇者パーティの天罰

「『ルクス』」


 洞窟だけあって、中は真っ暗だった。


 フレデリカの『光』の魔法のおかげで辺りが明るくなる。


 洞窟内は人工的に造られたというよりは、自然とできた空洞みたいだ。


 だが、足場は整備されてある。


 元々あった洞窟に誰かが手を加えたといったところだろう。


 古代文字の文章から、自分の宝を隠すのに丁度良い洞窟があって、少しばかり手を加えた。ってのが1番近い考えかな。


「魔物の波動は感じませんね」


 ルナが感知のスキルを使ってくれたのか、全員に知らせてくれる。


「まぁ、魔物が古代文字を分析して入ってるわけないですから、当然と言えば当然ですね」


 どうやら、ここに魔物は巣食っていないようだ。


 魔物がいない点だけで少しは安心できる。


「でも、かなり強い波動は感じるよ」


 ローラがセリフとは裏腹にどこか楽しそうに言ってくる。


 魔物はいないが強いなにかはいる……と……。


「野生の勘ですか?」

「野生言うな」


 しかしローラの勘は、最早スキルと言っても間違いないほどよく当たる。


「みんな。行くよ」


 先陣をきったのはフレデリカ。


「あ、フレデリカ。待ちなさい」


 エリスが彼女を追って並ぶ。


「財宝が。フレデリカを呼んでいる」

「はぁ。まったく。財宝でわくわくするなんて子供ね」

「胸はエリスと同じくらい」

「もう胸の話しはお腹いっぱいよ!」


 エリスとフレデリカは喋りながら先に進んでいく。


「あ、2人とも待ってください」


 後衛組が先陣をきるので、急いで先陣のルナが2人に並ぶ。


「ルナちゃん。真面目ちゃんな性格が出ちゃったね。これは好機」


 ローラが嬉しそうに言うと「えいっ」と俺の左腕にしがみついてくる。


「えへへ。リッタくぅん。好き好き♡」


 ローラに尻尾があったら、はちきれんばかりに振っていそうな言い方だな。


「未開拓のダンジョンなのにローラは怖くないのか?」

「リッタくんと一緒だからね。リッタくんは怖いの?」

「ローラが側にいてくれたら怖くないよ」


 これは口説いているわけではなく、本気でそう思っている。


 というか、勇者パーティと一緒にいる時点でなにも怖くない。


「えへ♡ そっかそっか」


 嬉しそうに笑った後に、ローラは指を口元に持っていき「んー」と声を漏らす。


「でもでも。こういう時、男の子的にはどうなの? 女の子を守ってあげたいって思うの?」

「うーん。そうだな。本心としたら、敵が出て来てもローラは俺が守るってかっこよく言ってあげたいかな」


 実際は彼女達の方が強いから、そんなことしなくても良いだけど。


「でへ」


 ローラが気持ちの悪い声を出すが、笑顔は可愛かったのでセーフだろう。


「もう1回。ローラは俺が守るってもう1回言ってよ」

「ええ。恥ずかしいだろ」

「お願い。言って」


 まぁ減るものでもなし。


「ローラは俺が守る」

「ふっふぉ♡ やばいやばい♡ もう好きとかいう次元じゃないよ。どうしよ。結婚しよっか。結婚しよ」

「未開拓ダンジョンで求婚するなんてローラくらいだろ」

「えへへ。だって、リッタくんが好き過ぎて」

「ま、それはどんな場所でも余裕があるってことなんだろう。それは過信じゃなくて絶対的自信。羨ましいよ」

「むぅ。なんだかあたしのことをバカって言ってるみたいだよ。それ」

「実際バカだろ」

「違うもん。リッタくんの前でだけだもん。こんな感じなの」


 そう言われて昔を思い出し「ああ、確かに」と頷いてみせる。


「昔のローラはもっと、こう……クールな感じだったね」

「そうそう。あの頃のクールなあたしを、こーんな感じにしたのはリッタくんのせいなんだから、責任取って結婚してくれないとダメだよ」


 そこで結婚に繋げてくるのか。


「そう言われると、断りにくいな」

「えへへ。どう? バカじゃないでしょ? 策士っぽい求婚でしょ?」

「どっちかて言うと詐欺に近い気が……」

「どっちでも良いよ。リッタくんがあたしと結婚してくれれば」


 ぎゅっと左腕にしがみつく力が強くなる。


 こーん!


「あでっ!」


 突如として、気持ちいの良い音が聞こえたかと思うと、ローラがその場で倒れた。


「天罰」


 どうやらフレデリカの杖がローラの脳天にクリティカルヒットしたみたいだ。


「ダンジョンでまで誘惑するなんて! ビッチ!」


 ボコ!


「うげっ」


「散々抜け駆けは罰とか言ってあんたも十分ビッチね!」


 ドス!


「うげっ」

「ビッチ、イズ、こうなるデスティニー」


 ガス!


「うげっ」


 抜け駆けをした拳の勇者を物理で罰を与えている勇者パーティやっぱすげーわ。

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