第5話 勇者パーティといつもの道中
「ちょっとあんた達!! 王であるわたしにこんなことさせて、ただで済むと思ってるの!?」
太陽がおはようと昇ったばかりの早朝。
東の空から顔を覗かせる太陽を背に、西に向かって歩く勇者パーティと俺。
「「「抜け駆けの罰」」」
3人の勇者が、数歩後ろを歩くエリスに冷たく言ってのける。
そんなエリスは全員分の荷物を持って、のろのろと付いて来ている。
「罰というのは! 王たるわたしが与えるものであって! あんた達みたいな小娘が誇り高い妖精王にして良いことではないのよ!」
「「「黙れ! 抜け駆けビッチ王!!!」」」
「くうぅぅぅうう」
昨日の自分の行動に反論はできない様子のエリスは、その後も後ろで文句を垂れながらみんなの荷物持ちをしている。
妖精王様も勇者パーティの中だと骨抜きだな。
少し心配した様子で振り返るとエリスと目が合った。
「ふん」
なぜか鼻を鳴らして顔を逸らされてしまう。
「リッタ様。あんな淫乱若造クソエルフなんて放っておいて、私達はゆっくり行きましょう」
「そうそう。ゆっくりのんびり、お日様を浴びて行こうよ」
言いながら左右の腕に寄りかかるルナとローラ。
少しばかりローラの力が強いのか、左に傾くと、ルナが眉をひそめた。
「ローラさん。リッタ様が歩きにくそうだから離れてくれません?」
「いやいや! ルナちゃん自分の恰好見てるの? アーマーとガントレット着けた女に抱き着かれたらリッタくん歩きにくいでしょ。リッタくんのことを思って離れてよ」
「むぅ……」
指摘された事項に反論の余地がないのか、むくれた顔をしたルナは、ボソリとなにかを呟くと、彼女の着ていたアーマーとガントレットは光の粒子となって消えた。
「これで文句ないでしょう」
「戦闘の時どうするのさ……」
呆れたローラの声にルナは無視を決めており、その代わりにフレデリカが声を出す。
「ああ! フレデリカも! フレデリカも!」
止まっている時は正面から抱き着いてくるフレデリカも、歩いている時は空気を読んで抱き着いては来ない。
その分、姉に優先されてそれを待つ妹みたいな構図が生まれてしまった。
「お子ちゃまにはリッタくんと腕組んで歩くのは早いよぉ」
姉が妹に嫌味を言うみたいな感じで、ローラがフレデリカに言ってのける。
「むうう」
頬を膨らませたフレデリカの手から光の粒子が出てきて杖となる。
そして、ぶつぶつと呟くと小さく言ってのける。
「『プロヴェクタ・グラキェース』」
「「「え?」」」
フレデリカがえげつない魔法を唱えると、辺り一帯の温度が一気に下がる。
ぱらぱらと上空から氷の欠片が降ってくる。
空を見上げると、巨大な氷が上空に浮いていた。
そのまま落ちてきたら、ただでは済まない大きさの氷は、浮力を失ったかのように、重力に従い一気に落ちてくる。
「「「「ちょちょちょ!」」」
いきなりの事で焦った声が出てしまったが、すぐさまローラが腕を離して地面を蹴った。
特大のジャンプを見せてくれるローラのそれは、最早ジャンプじゃなくて飛んでいるのに近い。
「あちょー!」
そのままローラは脚で氷を貫いてくれると、ばらばらになった氷は雪のように地上に落ちてくる。
「わぁ。早朝から幻想的ですね」
「綺麗な景色だな」
「ふふ。こんな景色をリッタ様とくっついて見れるなんて幸せです」
そんな呑気なことを喋っていると、スタッと見事に地上へ着地したローラ。
彼女は、キッとフレデリカを睨んだ。
「フレデリカちゃん! いきなりプロヴェクタ級の魔法を唱えるなんて……」
「『プロヴェクタ・イグニスト』」
「うそでしょ!?」
間髪入れず、地上に降りたローラへ火の上級魔法をぶっ放している。
巨大な火の玉がローラに向かって放たれた。
「あっちょー!」
ローラはその火の球を上空へ蹴り飛ばした。
空に向かって飛んで行った火の玉は、上空で大爆発を起こす。
バアアアアアアン!
「早朝の花火みたいで風流ですね」
「花火か」
確かに言われてみると、それに近い気もする。
「そういえば最近、本物の花火を見ていないな」
「でしたら、今度『ダイセン』の町で花火大会がありますよ。一緒に行きませんか?」
「ダイセンか。確かに、世界でも有名な花火の町だな。うん。良いかも」
こんな時代だ。花火なんて魔王軍に居場所を知らせているかもしれない。
でも、あそこは辺境の地でもある。
あそこまでは魔王軍の手も伸びていないだろう。
こんな時代だからこそ、そういう風情のあるものを楽しみたいと思うのも人間の性なのかもしれないな。
「ふふ。やった……」
ルナはプレゼントをもらった少女のように、嬉しそうな女の子の反応を見せてくれた。
彼女とは反対に。
「ちょっと!? フレデリカちゃん!?」
「『プロヴェクタ──』」
「このクソガキがああああああ!」
まだ喧嘩をしている2人の勇者。
その様子を見ていたエリスが「相変わらず喧嘩のレベルが高いわねぇ」なんて感心した声を出していた。
勇者同士の喧嘩で町が消し飛びかねないレベルだもんね。
ただ、それはいつもの光景過ぎて感覚が麻痺してしまっている俺とルナは、特に気にする様子もなく歩みを続けた。
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