第3話 勇者パーティが帰った後の酒場

「じゃあ、じゃあ、また明日ですね! リッタ様!」


「明日楽しみ♫ またね! リッタくん!」

「ふぁぁあ~。リッタ……また……」


 酒場で夕飯を食べ終えると、3人の勇者がそれぞれ大きく手を振って店を出て行く。


「また明日~」


 こちらも軽く手を振って応答すると、ルナは上品に軽くお辞儀。ローラは更に大きく手を振ってくれて、フレデリカは眠たそうに小さく手を振り返してくれた。


「あんたは帰らないの?」


 最後にトイレに行ってくると、3人とは別行動をしたエリスが一旦戻って来て話しかけてくれる。


「一緒に帰ると、宿の場所がバレちゃうから……」

「ああ……。なるほど」


 前にあったのだが、宿まで一緒に戻ってそのまま寝たら、いつの間にか3人の勇者が同じベッドで寝ていたことがあった。


 そりゃ、あんな美少女達と朝までベッドというのはかなり魅力的だ。


 俺も男だ。辛抱ならない。


 しかし、俺には使命があるし、彼女達にも使命がある。特に彼女達の使命は重要だ。この時代を終わらせることができるのは間違いなく彼女達だ。いま、子供ができるのはまずい。


 ゴムでもあればいくらでも相手できるんだけどね……。


「だから、俺はもう少し飲んでから帰るよ」


 そう言うと「ふぅん」と言いながら、チラリと周りを見渡した。


「だったら、わたしも残るわよ」

「付き合ってくれるのか?」


 聞くと、少し頬を赤らませて顔を逸らす。


「べ、別に。ちょっと気が乗っただけだから。あんたと一緒が良いとかじゃないから。勘違いしないでよね」


 妖精の王様だけに、しっかり王道のツンデレを発揮してくれる妖精王様。


「エーリースさーん?」


 王道的ツンデレを頂くと、いつのまにかルナの顔が目の前にあった。


「抜け駆けしようとしてもそうはいきません」

「べ、別に、そういうわけじゃないけど……」

「ほら、帰りますよ。では、リッタ様。今度こそ」

「うん。また」


 ルナはエリスの首根っこを掴んで引きずっていく。


「ルナ! 歩けるから!」

「抜け駆けの罰です」


 そう言って最後までやかましく帰って行った。


「ふふ。本当に楽しい女の子たちだな」


 そう言って、ジョッキに入った酒を飲んで「ふぅ」と一息ついた。


 ドンっ!


 大きな音と一緒にアルコールの含んだ飛沫が服に付着した。


「よぉ兄ちゃん。さっきから楽しくやってたな? ええ?」


 スキンヘッドの体の大きな大男が、俺のテーブルに思いっきり置いた音だったみたいだ。


 この大男。体が大きいだけで、空っぽの体をしている。


 はっきり言うとただのデブ。


 太い腕も、太い足も全て脂肪だ。


「俺らも客でなぁ。お前らのせいで、俺らの会話が聞こえないんだわ」

「それはすみませんでした。でも、もう連れは帰りましたので、今からは静かになるはずです。どうか許してくれませんか?」


 確かに、こちらがバカ騒ぎをして、このスキンヘッドの大男に迷惑をかけたというのは事実だろう。


 なので、素直に謝りを入れるが、彼は「あーはっはっはっ!」と大笑いをする始末。


「そんなんで許せると思うのかっ!? 謝る気があるのなら誠意を見せろ!」

「誠意ですか?」

「金貨だ、金貨! 金貨をよこせ!」

「はぁ……」


 しょうがないな。


 もめごとは好きじゃないんだ。


「すみませんマスター! この人に良い酒を持って来てやってくださいな!」


 そう言ってやった瞬間だった。


 ジャワァァァ。


 頭から酒をぶっかけられる。


「お前なめてんのか? こんなしょぼい店の酒じゃなくて金貨だっつんってんだろうがっ!」


 頭からアルコールのシャワーを強制的に浴びさせられる。


 髪の毛が、ベトベトで嫌な感触。やっぱりお酒は口から飲むものだね。


 はぁ、なんて小さくため息を吐いて小さく呟く。


「あーあ。せっかくの美味しいお酒が勿体ない」

「てめっ! この野郎っ!」


 ガッと胸ぐらをつかまれて、ぜい肉だららけの腕で引っ張り起こされる。


 いいぞー!


 やれやれー!


 先程まで大人しかった周りがガヤを入れ始まる。


 ちょっと、店で暴れないでくれとマスターが慌てているが、怖いのか近寄ってはこない。


「てめぇみたいなすかした野郎は痛い目みないとわからないみたいだな」

「痛い目って? あなたみたいな体になることとか? それは嫌ですね」

「このガキ! なめやがって!」


 俺を思いっきり押すと、思いのほか強い衝動で壁に叩きつけられる。


 背中から衝撃を感じていると、スキンヘッドの大男は腰にしていたアックスを取り出した。


「こういうなめた奴には躾が必要だな。腕の1本なくせばわかるだろう」

「あんた……俺をやる気か? 世間から忌み嫌われるぞ」

「知ったことか。くくく。手元が狂ったら死ぬかもなぁ」

「そうか……。やる気なら仕方ない……」


 俺はスキンヘッドの大男の瞳を見た。


『アッパーコンパチブル』


 心の中でそう唱えてみせる。


「お前みたいな女に囲まれて、へらへらしてる奴が嫌いなんでな。男なら魔王軍と戦いに行けよ」

「その言葉、若い時のあんたにそっくりそのまま返すよ」

「減らず口を……。雑魚のくせに」

「雑魚か……。それはどうだろうな」

「あん? もしかして自分が強いとでも思ってるのか? 勘違いするなよ! ちやほやされるのも今のうちだけだ!」

「そうだね。まぁでも、少なくともあんたよりはちょっと強いかな」

「ぬかせ!」


 叫びながらアックスで斬りかかってくるところを、俺の手から光の粒子が現れる。


 光の粒子が一瞬にしてアックスとなり、彼の攻撃を受け止める。


「なっ!?」


 いきなり現れたアックスに驚きを隠せないのか、それとも自分の攻撃が簡単に受け止められて驚いているのか。


 どちらにせよ、スキンヘッドの間抜けな顔が拝めた。


「えい。そりゃ」


 ぶんぶんと不慣れなアックスを適当に振り回す。


 適当に振り回しているから、掛け声も適当になった。


「うわ! がっ! ふぁ!」


 キンキンと金属音が響き渡る酒場。


 周りのガヤは止まらず、マスターは、おろおろが止まらない。


 相手は防戦一方でこちらのアックスの攻撃を受けるしかないみたいだ。


「えい」


 少し力を入れてアックスを下から上に突き上げる。

すると、相手のアックスははじかれて、宙をくるくると舞って地面に突き刺さった。


「い、いや。ま、参った。降参だ」


 手を挙げて降参のポーズをするスキンヘッドにアックスを向ける。


「そっちから仕掛けた死闘だろう。武器を持ったんだから覚悟して挑まないといけない。降参なんて言葉、魔物には通用しないぞ。ああ、そうか。若い時にちやほやされすぎて魔王軍との戦いに行っていないあんたにはわからないか。じゃあ、今、教えてやる。戦いに負けた奴がどうなるか」


 そう言って、スキンヘッドにアックスを振り下ろす。


「ひいぃいぃ!」


 なんとかかわしたスキンヘッドだが、そのままペタンと腰を抜かして地面に尻もちをついた。


「ちょ。ちょっと! 待ってくれ!」

「金貨だ、金貨。金貨をよこせー」


 彼の真似をして言ってやる。


 しかし、性格かな、迫力の欠片もない。


「だ、出す! 出すから!」


 迫力はなかったが、今の彼には結構効いているみたいだ。


 そんなスキンヘッドの言葉を無視して、俺はアックスを振り下ろした。


「無視かよおおおおおお!」


 断末魔の叫びがツッコミだったスキンヘッドの真横にアックスを叩きつける。


 アックスは床に刺さる形で自立した。


「へ……」

「この店の修理代と酒をバカにした慰謝料。込々を金貨で払えよな」

「へ、へい……」

「ふん……」


 決めセリフを吐いて俺は酒場を後にした。

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