第2話 勇者パーティは仲良し

 強制的にテーブルに座らされたルナ、ローラ、フレデリカは膨れ顔であった。


 特にフレデリカが1番不貞腐れていた。


「なんでフレデリカここなの……」


 テーブル席を5人で囲んでの席は、俺の前にルナ。ルナの隣にローラ。ローラの正面にエリス。ローラとエリスの隣、お誕生日席にフレデリカの席順だ。


「あんたはリッタと正面から抱き着いたでしょ。だからそこよ」

「むぅ……」


 エリスの涼しげな説明に睨みつけるフレデリカだが、そんなことは全く効いていない様子である。


 それどころか。


 ピトッとこちら側に寄って、俺の手をさりげなく握ってくれる。


 エリスの顔をチラリと見ると、エリスもこちらをチラリと見ており、軽く目が合った。


 すると、軽く頬を赤らませたが、なんとか涼しげな表情を保っている。


 だが、長いエルフの耳が、パタパタとはしゃいでいるのは隠せないみたいだ。


「はいはーい」


 手を挙げたのはローラだ。


 そのまま挙げた腕をエリスに向けて、ビシッと指した。


「なんでエリスちゃんがリッタくんの隣なんだよぉ」

「あんた達がリッタと一緒だとはしゃぐからでしょうが」

「はしゃいでいるのはどちらなんですかね?」


 ジト目でエリスを見つめるルナを見て、ぎょっと驚いていた。


「ルナ……? なにが言いたいの?」

「リッタ様と距離が近い気がするのですが?」

「き、気のせいよ。ねぇ? リッタ」


 エルフ特有の花の蜜の香りが鼻をくすぐるくらいには近い。


 しかしだ。


 ここで隠れて手を握られていることがバレたら後々面倒なことになりそうだし、ここはエリスに合わせておこうと思う。


「気のせいダトオモウヨ」


 こちらの言葉にルナは軽く頬を膨らましながらも。


「リッタ様が申すのならば……」


 なんて無理くりに納得した様子だった。


「そうよ。別に手なんて繋いでいないし」


 ちょ!? 何言ってるの? このエルフ様は。


「手?」


 ルナが不審な顔をする。


「ああああああ!」


 テーブルから身を乗り出し、こちらの手元を見るとローラが大きな声を出した。


「なにしてるんだよ!? ツンデレバカエルフ!」

「バッ!?」


 エリスが立ち上がると、俺と繋いだままの手を挙げて言ってのける。


「か、勘違いしないでよね! わたしは別にこいつと手を繋ぎたいんじゃないんだから! その先のことをしたいだけなんだから!」


 その先って……。ナニですか?


「なに勢いに任せてとんでもないこと言っているのですか!」

「そうだそうだ! 下ネタでしかリッタくんを誘惑できないのかよ!」

「いや、こ、これは、ちがっ……」


 わたわたと手を振って否定してみせるエリスを見て「ぷふ」と鼻で笑うフレデリカ。


「年増のババァ3人が身体を使っても無価値。真の価値はフレデリカのロリボディ!」


 いきなりぶっこんでくるね。この美少女ロリっ子様。


「はぁ!? リッタくんはロリボディには興味ないから! あたしみたいな胸の大きな女の子が好きだから! リッタくん。あたしのおっぱいで好きに遊んで良いんだよ? 手で遊び飽きたら食べたら良いからね?」


 そう言って、ローラは自慢の胸を寄せて誘惑してくる。


「リッタ様はロリにも巨乳にも興味ありません! 私くらいのが丁度良いんです! この丁度手に収まるくらい。食べると口に全部入るくらいのおっぱいが好きなんです。リッタ様。私のおっぱい食べて良いんですよ? 口いっぱいに広がるルナぱいを堪能してください」


 そう言って、大きすぎず、小さすぎないルナは胸を張って誘惑してくる。


「あんた達も大概下ネタで誘惑してるじゃない!?」

「「うるせーよ! リアル年増がっ!」」


 エルフの長命のことをいじっているのだろう。


「わたしはリアル18よっ!」


 だが、彼女は本当に18年しか生きていない若いエルフなのであった。


「やれやれ。結局年増」


 再度開催された美少女達の口論に「みんな」と声をかける。


 このままでは収集がつかなくなりそうだったが、こちらの呼びかけに反応してくれて、全員がこちらを向いてくれる。


「パーティに入って欲しいってことだけど……」


 うんうんうん。


 3人の勇者はブンブンと首を縦に振ってくれて、妖精王だけ鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「それはやっぱり無理だ」


 断ると「うう……」なんて3人はどこか泣きそうな顔になったが「いやいや」とエリスが説明してくれる。


「普通に考えて無理でしょ。わたし達はノーシュヴァイン城に選ばれた勇者パーティなのよ? リッタみたいな野良冒険者をパーティに入れるのなんてできないわよ」


 エリスの説明そのままである。


 この世界『アスガイア』は現在、突如現れた魔王軍が人々を苦しみ続ける『大魔境時代』と呼ばれる最悪の時代。


 そんな時代を終わらせるためにアスガイアの首都に値する『王都ノーシュヴァイン城』にて正式に選定された勇者3名とエルフ族の王。


 それがルナ、ローラ、フレデリカ。そして、エリスだ。


 そんな勇者パーティに野良で冒険者をしている俺が入れるわけもない。


「ていうか! これ、何度目よ! あんた達諦め悪すぎでしょ!」

「だって……」

「ねぇ……」

「一緒が良いんだもん……」


 3人の勇者は、母親に怒られた少女のようにエリスを上目遣いで見て、下唇を噛んでいた。


「あはは……」


 いつもの光景過ぎて笑えるな。


「今日はリッタをパーティに入れるとか、入れないとかじゃないでしょ?」

「あ、そうなんだ」


 毎度勇者パーティと出会う度にパーティに誘ってくれるから、今日も同じノリだと思っていた。


 今回は事情が違うらしい。


「そうです」


 パンと可愛らしく手を合わせるルナはそのまま清楚な顔をこちらに向けて説明してくれる。


「実は私達、この町のクエストを受けたのです」

「へぇ。もしかして難しいクエストとか?」


 勇者パーティに難しいクエストなんて中々にないだろうと思うのだが。


「いえ、内容はさほど難しくないのですが」

「どんな内容?」

「ダンジョン調査です。この町で長い間、誰も調査したことがない未調査のダンジョンがあるみたいで。それで今日、現調に行って来たのですが……」


 歯切りが悪くなったルナに変わってフレデリカが答えた。


「古代文字」


 ピクッと反応してしまう。


「古代文字?」

「はい。ダンジョンの門にそれらしいものが書かれており中に入れませんでした」

「まったくもって意味不明な落書きだよ。意味不明だからとりあえず殴ったんだけどビクともしなかった」


 ローラがお手上げといった感じで両手をあげて笑う。


「ローラの拳で無理なら封印魔法が施されているのか……」


 チラッとエリスを見た。


「エリスでも読めなかったのか?」

「悪かったわね。若いエルフで」


 なにも嫌味を言ったわけじゃないんだが……。


「はぁ……。ローラのバカ力でも無理だなんてね……」


 エリスは多分、そんなつもりで言ったつもりはなかったのだろうが「むか」っとローラが顔を引きつかせていた。


「ほんと……。エルフのくせに18とか、人間で言う3歳くらいなんじゃないの?」

「おい。脳筋牛野郎。今、なんてった?」

「エルフなら古代文字くらい読めろよって言ったつもりなんだけど? まだオムツのエルフたんには嫌味として伝わらなかったのかな? んん?」

「どっからどう見てわたしがオムツ履いてるエルフたんだって? ええ!? その自慢の乳まで筋肉できてるんじゃないの!?」

「ざんねーん! めっちゃやわらかいでーす。飲む? 飲む? だめー。このおっぱいはリッタくんとあたし達子供のためにあるんでーす。貧乳エルフにはあげませーん」

「この牛……」


 ぐぬぬと歯ぎしりをしているエリスに、ぽんっとフレデリカが肩を叩いた。


「貧乳。悪くない……」

「仲間意識芽生えるなっ! お子ちゃまめ!」


 一旦、フレデリカにちゃんとツッコミを入れてからローラの方を見る。


「まぁでも? 巨乳なんて歳食えば垂れるだけよね。人間ってほんと愚か。垂れる前になんとかしないとね。相手がいないだろうけど」

「あ、あにおおお!?」

「なによおお!?」

「を、を、けんか……!?」


 3人がくそしょうもないことで喧嘩をはじめた。


 ぽこすか、ぽこすかと可愛い殴り合いが繰り広げられている。


「それでリッタ様に明日のダンジョン調査にご協力願いたいと思いまして。リッタ様は古代文字にお強いお方ですから」

「ん」


 おっと、ぽこすか喧嘩劇場を、のほほんとして見てしまっていた。


 3人のことなど眼中になしで普通に会話を続けるルナ。


「ああ。そうだな。俺で役に立てそうなら手伝うよ」

「ほんとですか」


 ルナは瞳を輝かせて、ぽこすか喧嘩劇場で空いた俺の隣に座ると、ピトッと頭を肩に乗せてくる。


「ふふ。明日が楽しみです」

「仮にもダンジョンに行くのに楽しみって……」

「リッタ様となら、例え魔王城でもピクニックと同義ですよ」


 すごいな剣の勇者様……。


「「「あああー!」」」


 ぽこすか喧嘩劇場をしていた3人が、ルナの肩ピトに気が付いて、大声を出すと、ルナは舌打ちをして4人で、ぽこすか喧嘩劇場が再開されたのであった。


「勇者パーティ。仲良いな」

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