第3話 流浪の旅に出たかった
放浪の旅に出たい。これが、中学2年のときの私の夢だった。
『るろうに剣心』の主人公緋村剣心のように、過去の過ちを背負い、自分の剣で誰かを守るために旅に出る。放浪の俳人種田山頭火のように弱い自分との闘いのために旅に出る。私が放浪の旅に出たいと思った理由は、そうした高尚なものではない。また、松尾芭蕉のように「じっとしていられなくなった」というような大雑把なものでもない。自分には世間一般に言うところの「将来の夢」が無かったこと、そしていろんなものに見たり触れたりしたかった。この二つだった。
美しいモノ、自分よりも遥かに優れた大人物、反対に醜いモノ、自分よりも弱い立場や器の小さい小物。旅をしていれば、様々な人やモノと出会う。その出会いと関係性を築く過程の中で、自分に欠けている何かを見出したり、できることを見つけたりしてから、世間一般に言われている「将来の夢」を見つけようと考えたのだ。
「いろんなものに見たり触れたりしたかった」
これに関しては、私の単なる好奇心やそのときの感動を誰かに伝えたいという気持ちが大きい。
他の地域の人は、どんなものを食べ、暮らしているのか? 滞在した地域にはどのような歴史や伝承があるのか? きれいなものが見たい。無事に旅を終え、目的を果たして生活が安定したら、写真交じりの旅の記録として旅の中でわかったことを書き、それを自分の生きた証として残す。そして、その旅の記録を読んだ誰かが、何かの役に立ったり、感動を与えたりしたのなら、とてもうれしい気持ちになれる。
私にとって放浪の旅は、自分を見つめ直すためでもあり、生きた証を残すためでもあったのだ。
計画もしっかり立てていた。
高校の終わりにこっそりと家を抜け出して、歩いて関東方面を目指す。
旅立つとき、家族や友達には別れの言葉は何も言わない。私がいなくなることを知って、引き留めようとする誰かが出てくるかもしれないからだ。
最初は群馬の高崎からスタートし、前橋へ行って赤城山を拝む。そして栃木へ来たら、日光を拝み、宇都宮へ。栃木で用が済んだら、お隣茨城に入って古河の城跡をめぐったり、水戸へ向かって水戸城を見たりする。水戸を去ったら鹿島の地へ行って建御雷神を拝み、その足で千葉を目指す。千葉に入ったら藪知らずを見て、そのまま東京へ。東京ではしばらくの間滞在する。23区の名所を周ったり、川越や横浜、鎌倉、高尾山、日野といった行きたいなと思っていた場所を巡るためだ。全て巡ったら、東海道を西へ向かって京都を目指すか、奥州街道を北に行って東北でも巡ろう。そして、日本全国津々浦々を放浪しようと考えていた。
もし旅の途中で自分に欠けているものを見つけたら、そこで旅を終える。見つからなかった場合は、ルートを変えて2巡目をしようと考えていた。もちろん、厳しい旅になると予想されるので、途中で死ぬのは覚悟している。もし仮にその旅で命を落とすことになったらそれでいい。半端な覚悟では、この旅の目的は達成できないから。
今思えば無茶な計画だと思うが、当時の足りない頭でここまで考えられたのは、よくやったと我ながらに思う。
結局この夢は5割叶わなかった。周りの妨害と自分のメンタルの問題のせいで。それでも、高崎や古河にも行ったし、藪知らずも見た。東京の名所も大方周ったし、鎌倉や川越といった少し離れた観光地もほぼコンプリートした。関東で残るは鹿島神宮と宇都宮、日光の三つ。
メンタルの調子や自分の能力上の問題で難しいところもある。だが、それでも残っている5割を1分でも達成できたらいいなと思っている。
世界一つまらない小説を書いてる人が感じたこと 佐竹健 @Takeru_As1999
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