第2話 秋の楽しみ
最近になってやっと、秋の到来を感じている。今年の夏は倒れてしまうほど暑かったからなおのこと。
「お盆を過ぎると涼しくなる」
そう巷では言われている。涼しくなったり暑さが戻ったりが9月末の彼岸まで続くそうだ。そんな感じだろうか。
私はこの歳になって、やっとこの言葉の意味が分かってきた。
野暮用を済ませたある日の夕方のこと。私は地下鉄の駅を出て、家へと帰ろうとしていた。時間帯を言うと、大体17時半から18時半の一時間くらいだろうか。
地下鉄の駅を出た私は、家のある方向へ歩いて行った。
ビルの向こうからは、切り取られた真っ赤に染まった夕焼け空が見える。
駅から少し歩いたときに私は、
(そういえば涼しくなったよな?)
と感じた。
一月前だとこの時間帯でも暑く、日射しもまぶしかった。だが、お盆を過ぎてしまうと暑さや日射しの強さも少しはマシになってきた。昼の暑さに気を取られてばかりいた数年前だったら、こうした季節の変化には気づかなかっただろう。
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
飛鳥時代の皇族額田王が詠んだ歌のように、秋というものは見えないところから進んでいくものらしい。
秋になると楽しみにしていることがいくつかある。読書とサイクリングの2つだ。
秋になると、よく公園へ行く。
公園のベンチに座ったあと、リュックサックから文庫本や漫画の単行本を取り出して読む。
とても刺激のないことのように見えるが、世捨て人である私にとっては、これが秋の楽しみの一つだ。豪遊好きな人間には到底理解できないであろう。
秋の穏やかな陽射しの中で本を読んでいると、あっという間に時間が過ぎていく。春や夏と違って日照時間が短いので、本当に一瞬に感じてしまう。本を読むのに集中してしまって、気がつけば午後4時ということが何度あったことか。また、休憩するときにお茶を飲んだり、おやつを食べたりする。そのとき食べるお菓子やお茶の味が一際おいしく感じるのもこの季節だ。
秋は極端に暑くいわけでもなく、寒いわけでもない。そして空気も清々しく、陽射しも気持ちがいい。だから、本を読むのに集中できるうえ、食べ物もおいしく感じるのだろうか。
秋晴れの日は、デジカメをウエストポーチに入れて自転車に乗って遠出をしたくなる。そして遠くの街までペダルを漕いで行く。
行く場所は紅葉のきれいな寺社仏閣や公園。そこで紅葉や銀杏の写真を撮ったり、そこにある庭園や池を見て無心になったり、お参りをしたり。紅葉のきれいな寺社仏閣や公園と決めているのは、こんな他愛ないことをしたいというのが大きな理由だ。特に深い意味はない。
もちろん道の途中でも写真は撮る。車やバス、電車で行くとつい見過ごしてしまうようなきれいなもの、面白いもの、おいしいものがたくさんあるからだ。
そして帰りは真っ赤な夕焼け空を見ながら帰途に着く。
帰るときになると、体力が行きよりも少なくなっているので、どうしてもゆっくりになってしまう。
けれども、それがいい。
ゆっくりと走るから、夕焼けがじっくり見られるし、どこかおいしいお店を見つけ、そこでおいしい夕食を食べることができるから。
ちなみに今年も自転車に乗ってどこかへ行こうと考えている。といっても、実行するのは本格的に涼しくなる10月下旬から11月にかけての予定だが。
これから楽しみにしていた秋がやってくる。今年の秋も公園で読書をしたり、遠くまでサイクリングをしたりしようかな。そして帰りは夕焼けでも眺めて、一人感傷にでも浸ろうか。
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