第2話

謎の老婆と出会った翌日。

赤崎はさよならボタンの使い道について考えていた。

もちろんあの変なボタンを信じているわけじゃない。

だが、もし自分のほしいものが一押しで手に入るとしたら誰だって考えることだろう。

考えれば考えるほど赤崎を苦しめる。

赤崎は過去に母親と妹を亡くしていた。それは病や事故などではなく、実に残酷な死に様だった...


***


「おにいちゃん!これ買って!」

自動販売機の前でメロンソーダをねだってくる。

僕の妹の咲は本当に可愛い。

こんな柔和な表情で見つめられたら誰だって買ってしまう。

「しょうがないなー特別だぞ!」

「やった!ありがと!」

手が届かないようなので代わりにボタンを押してあげる。

蓋を開け、ごくごくと美味しそうに飲んでいる。

「あんまり飲むと晩ごはん入らなくなるぞ。」

「メロンソーダは別腹だからいいのー」

「なんだそれ」

「へへ〜ん」

咲の表情についにやけながらも時計を見ると17時を回っていた。

「もう帰ろう」

「うん!」

手を繋いで家へと帰る。

まだ小学三年ということもあってとても手が小さい。

自宅までわずか100メートルだが永遠とも思えるほど時の流れが遅く感じる。

咲と一緒に帰る時間がたまらなく幸せだ。


翌日、学校を適当に過ごし、下校している最中だった。

慎吾は学校から家がそこそこ近いので自転車通学だ。

少々体力を使うので億劫だ。

まあ帰ったら咲が迎えてくれるのでなんとか耐えられるだろう。

下り坂で感じる風が気持ち良い。

家に着き、自転車の鍵を施錠して扉を開ける。

「ただいまー」

返事はなく、静寂に包まれていた。

誰も帰っていないのを残念に思いながらも乾いている喉を潤そうとリビングに向かう。

リビングに入ると血なまぐさい臭いがする。そして床に水が...

「うぐっ」

暗くてすぐには気づかなかったが床一面に血が広がっている。

初めて感じる妙な感情にものすごい吐き気を覚える。

思わず口を手で覆ってしまった。

とにかくここは耐えられない。

廊下を逆戻りで走り、外に出て肺に溜まった空気を入れ替える。

いったいどうなっているんだ...リビングに血?

脳の理解が全く追いつかない。

冷や汗が体全体を伝う。

こんな時は警察を呼ぶべきなのだろうが、慎吾はリビングにある血だまりに少しばかり興味をそそられた。

もちろん変な意味ではない。ただ、どうしてあのようなことになったのか気になるのだ。

「少しだけならいいよな。」

再び家の中に入り、恐る恐る奥に進んでいく。

「ぅぐ...」

奥から喘ぎ声が聞こえてくる。

誰かが中にいる。

そう思うとものすごく嫌な予感がした。

決してそう思いたくない。

だが今は現実を見なければいけない。

そして慎吾は全力でリビングのほうに走り、扉を開けた。

やはり辺りは暗い。

息を止め、注意深く周りを見る。

するとテーブルの脇に人が倒れこんでいた。

床に広がる血など気にせず、すぐさま寄り添う。

「大丈夫ですか!?」

「お兄ちゃん...」

咲の腹に包丁が深く突き刺さっていた。

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