第5話 鬼語り
「触るな……」
ようやくたどり着いた、祠の付近は金網の策で覆われていて……
網には触れると流れる高圧電流が流れている。
策に近づきよじ登り始めかねないキサラにそう言い聞かせる。
しかし、いったい……なんのための……?
鬼を閉じ込めておくために……?
なら……鬼はどうやってここを出たのか。
電流の流れを止めるスイッチのようなものがあるのだろうが……
ぐるりと策を見て回る。
通り抜けられそうな隙間も、突き破ったような穴も無い。
上を見上げる。
「……飛び越えたか?」
この高さを……?
網の隙間から中の様子を見る。
鬼刀家の者と先にこの現場を確認しにきた連中にきちんと話を聞いておくんだったな……。
そう、自分の手際の悪さを反省する。
祠、その周辺にはドラム缶のようなものが並んでいる。
若干ではあるが……生活観のようなものが見られる。
「周辺には何もありませんねぇ」
がさがさと草木を掻き分け、キサラが戻ってくる。
「この金網を管理している装置みたいのが周辺にあるのかなと思ったんですが……」
そう言いながら八神の元に来る。
確かに……管理している何かがあるとは思うが……
ゆっくりと思考を巡らせる……
「さらに、上にあるんでしょうか?」
キサラは崖の上を眺め言うが……
「いや……
そう言って、八神は地面に不自然に突き出した取っ手を手に取ると地下に繋がる階段が現れる。
「すごい……なにこれ?」
素直にそれに感心したように言葉を漏らすキサラ。
「よほど、見られたくない何かがあるんだろうな……」
ここに来た警官の一人からこの先の祠の報告があった……
それは、本当に真実だったのか?
本当にこの先を確認しているのか……
八神はその地下に存在した装置を迷いもなく操作し、その電源を落とす。
地上に戻ると、金網に流れる電流は止まっていた。
扉を抉じ開けるとその先に進む。
誰かが……何かを隠そうとしている……そう直感が告げる。
この金網から見えない場所、祠の先にある洞穴……
八神は迷いもなくそこに向かった。
異臭……予感……
「小娘……来るな」
そう八神がキサラに告げるが……
「なに……これ?」
すでにその忠告は遅かった。
沢山の死体がそこには放置されている。
「鬼の仕業か……」
そう八神が呟き……
「それか……鬼を狩る者の仕業か……」
そう付け加える。
「……どういう意味?」
キサラがそう尋ねるが……
「さぁな……ただ……ここには、正義も悪も鬼しかいないのかもしれないな……」
その目の前の異様な光景を目にしながら八神が言う。
・
・
・
何があったかは知らない。
屋敷と屋敷を繋ぐ渡り廊下で、二人は取っ組み合いとなっていた。
いや……取っ組み合いと言うよりは一方的だ。
鬼刀コウにまたがるように、乾コタロウタは何度も何度も拳を振り下ろしている。
鬼刀コウはただ、顔をガードするようなポーズを取るだけで、
その行為が収まるのをただ、待っている。
二人の年齢はさほどの差は無さそうで……
「何してるんだよっ」
それを見たヒイラギがコタロウタを止めに入る。
「気持ちわりぃんだよ、何考えてるんだよっお前!!」
ヒイラギに止めなれながらも、そうコタロウタはコウに罵声を浴びせている。
コウは虚ろな目で起き上がり、まるで今の出来事が他人事の事のようにくるりと方向を変えて立ち去る。
……不自然な光景だ。
それでも、理由をつけるなら……
末っ子である彼は……後妻の連れ子。
使用人といっても……もしかするとその関係性の優越が入れ替わっているのかもしれない。
それよりもずっと不自然な光景はその前に見ている。
その不自然に気がつくのは8時間後……その光景を見てからだ。
次の犠牲者。
8時間後……外はすっかりと真っ暗になっていた。
一人、屋敷の調査をしていたボクはそれを発見しそれに遭遇する。
同じ渡り廊下。
その真ん中で横たわっている人の影。
まさかという気持ちと……実際目のあたりにしてやっぱりという感情……
その視線にはずっと気がついていた。
ここに着てからずっと……
もしかすると……その前から……
渡り廊下の中央には……乾 コタロウタの死骸が転がっている。
中央には刀が突き刺されていて……
不意に近づく影にボクは咄嗟に身を遠ざけその一撃を回避する。
ちりちりと前髪の数本が宙に舞う。
黒い包帯を全体に巻きぼろぼろのフードつきのマントを羽織った何者かがそこに居る。
「……君が鬼?いったいボクに何のようなのかな?」
目の前のバケモノは何一つ語らない。
一人、こんな場所をうろついていた……
当然と言えば当然……
あっという間に追い詰められる。
ボクに次の攻撃を避けるだけの身体能力は無い。
あっけなく散るか……
今更、助けを呼んだところで、目の前のバケモノはそれを待ってなどくれない。
その視線に気がついていた……
あの八神というボクにとって最悪に出会う前から……
このバケモノという存在に出会う前から……
「ねぇ……何時までそこで見ているつもり……?」
バケモノの包帯から突き出したナイフがボクに迫る……
情けなくボクは助けを……その名を呼ぶ。
「そろそろ、出てきなよ…… ……ウミちゃんっ」
その言葉と同時に……キンッと金属の重なる音が響く。
ボクの目の前にふわりと人影が下りて、
波打つように、青い髪がボクの目の前でなびいていた。
「まったく、私は……トウタ君のための
そう現れたウミちゃんは言い……
バケモノの両腕から飛び出している刃物を、両手に装備したナイフで起用に弾く。
互いに互いの凶器を防ぐが、その隙をつくようにウミちゃんの蹴りが何度かバケモノに直撃している。
相変わらずその身体能力は一般人を凌駕している。
そして、目の前のバケモノすら寄せ付けない。
「………っ」
目の前のバケモノもその存在に戸惑っている。
バケモノは刃を振るい、それを回避するため一歩後ろに下がったウミちゃんを確認すると、彼女に背を向け逃走を試みる……が。
ウミちゃんは瞬時に地を蹴り逃走する道を塞ぐ。
彼女は何にでも成り代われる……
完全に鬼という立場すら奪い取っている。
ウミちゃんの後ろから不意に現れた……何者かが刀を振るう。
それも容易に回避するウミちゃんだったが……
回避するために空いた道をバケモノは走り去るように駆け抜ける。
「どうする……?」
追うかとボクに尋ねるウミちゃん。
「いや……」
ボクはそう返す。
事件はもう終結する……
間もなく……
「……任せる」
後は任せると再びウミちゃんはその視線だけを残し何処かに消えた。
嘘も本当も……
偽りも真実も……
裏切りと擁護も……
いろんなものがごっちゃまぜで……
それでも、正解は……そこにひとつ。
もう……終わりにしよう。
これまで屋敷を調査していた……
求めていた資料は見つけた……
後は、その証拠を二人が持ち帰ってくれるのを待つだけだ。
・
・
・
「どうした……トウタ、みんなを
ヒイラギがそうボクに聞く。
その後、ボクはヤシャちゃんに頼み、屋敷にいる全員をその場に集めた。
「この場所を正しい形に戻したいんだ……」
ボクがそうその場にいる全員に告げる。
「誰が……誰を庇い、嘘を偽りを受け入れているのかはわからない……」
ボクはそう続け……
ボクは先ほど見つけた資料を取り出す……
「それは……?」
ネイネちゃんがその資料に目を向ける。
「……災いと鬼がこの場所に産まれた理由だよ」
ボクはそう告げる。
ヤシャちゃん、コウ君、コトハさんの三人は黙ってその場に座っている。
レイさんは、コタロウタ君の死を嘆き悲しんでいる。
「この
ボクはその資料で見た事実を話していく。
「死にまで至る病……当然、その病に抗うため、薬の作成が急がれる……」
ボクは資料に書かれてることを簡潔に説明していく。
「薬のサンプルが完成する……だが、時は一刻も争う、そんな人たちで溢れている……その効果の信頼性もないのに、母親のため、恋人のため、子供のためと奪い合うようにそれを求めた……」
そう続ける……
「……だけど、以外にその効力はその病に打ち勝つものだった……だけど」
そう……未だ、黙っている人間に目を向ける。
「副作用的な効果があった……薬を飲んだ半数以上の人間がまるで感情をなくしたかのように言葉を発しなくなり、そして衝動的に人を傷つけるようになった」
その言葉にヒイラギとネイネちゃんが息を呑む。
「この町の長を務める鬼刀家……そんな主である鬼刀 ガイはその事実を町の外にでないよう隠蔽することにする」
三人は表情一つ変えない。
……当然だ。
ここまでは全員が当たり前に知っていた事だ。
「その副作用で豹変した鬼の存在を隠し……山奥に住む鬼を作り上げた」
「そして、その鬼への生贄という理由で豹変した人間を山に連れて行き、鬼狩りという理由をつけ、鬼刀家はその副作用に負けた人間を手にかけてきた」
そうボクは真相を語る。
「あはは~、僕、馬鹿だから今の話を聞いていても誰が鬼さんかわからないや」
不謹慎にナギちゃんが笑って聞いている。
この流行病を鬼とするのか……副作用で豹変してしまった人間を鬼とするのか……それを鬼狩りとして殺める
「……それじゃ、これは鬼として、生贄として狩られてきた人たちの鬼刀家への復讐ってこと?」
そうネイネちゃんがボクに問う。
「資料にはない部分がある……ここからは少しボクの憶測も含めて言う」
ボクはそう続け……
「ヤシャちゃん……末っ子は存在しないって言ったよね?」
そうボクは彼女に尋ねる。
「……うん」
力なく彼女は答える。
「それは……本当なの?」
そう尋ねるが返答は返ってこない。
「末っ子は存在していた……」
ボクはそう続けるが……
「……していた?」
ネイネちゃんがその部分に食いつく。
「……予想すらしていなかった事態、流行病に鬼刀家の末っ子である家族までもがかかってしまった、もちろん家族はその副作用の利用を許しなどしなかった、だけど母親であるアゲハさんは、家族に黙ってその薬を我が子に飲ませた」
その事実を告げても沈黙を貫いている。
「彼女は祠の先にある洞穴に息子を隠し、度々食事を運んでいた……が、それもすぐにばれてしまう、鬼刀 ガイは決してその行いを許しなどしなかった、彼女が運んでいた食事に少量の毒を混ぜ、子もろともアゲハさんの殺害を考えた……」
黙っている……
「そして、時を同じくして……子が同じように流行病にかかり悩んでいる家族がいた……乾家……薬を手に入れることのできなかったその家族に、アゲハさんは一つ条件を出し、その薬を分け与えた」
黙っている……
「入れ替わりですよね……もちろん、アゲハさんとして鬼刀家に居座ることはできない……だから義母としてこの場に嫁いだ、そして……お手伝い、乾家として、アゲハさんは鬼刀家へ戻ってきた」
恐らく、ここまでがヤシャちゃんも知ってる真実。
「乾家のコタロウタって子はその副作用にかからなかったということか?」
ヒイラギがそう尋ね、
「じゃぁ……母親が連れ帰ったという鬼ってのは……」
ヒイラギが一人の人間に目を向ける。
ずっと無表情に……無関心に……
虚ろな目で何処かを見つめている。
「おかしいと思ったんだ……」
ボクは彼を見て……
「その顔の傷……レイさんやコタロウタ君に殴られてできた傷じゃないだろ?」
そうボクは彼に尋ねる。
「凶悪な殺人鬼キラーにやられたんだよね?」
八神ソウスイ……
彼と初日に一戦交えていると聞いている。
「膨大に転んでできる様な傷でもない」
ボクはそう続ける。
聞こえているのか……聞こえていないのか……
「お前が、お前がっ、コタロウタをっ!!」
レイさんが手にしたステッキで何度も何度もコウ君を殴り続ける。
「……さん、お…かぁさん」
ぶつぶつとコウ君は何かを呟いている。
「やめなさい……」
アゲハさんはそうレイさんの手をとめる。
「とめるな、てめぇの子が私の大事な子をっ」
そうレイさんはアゲハさんに手をあげようとするが……
「……コウはとっくに死んでいるわ」
そうアゲハさんはボクが辿り着けなかった最後の偽りを正す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます