第3話 偽り正す者と鬼を狩る者
「トウタ……何かわかったの?」
与えられた部屋でボク、ヒイラギ、ナギちゃん、ネイネちゃん、キサラギちゃんの5名は集まっていた。
そして、ネイネちゃんがボクにそう尋ねる。
「……わからないけど、皆はあのジンさんの話を聞いてどう思ったかな?」
ボクはそう逆に尋ねる。
「ジンさんの話?あの……鬼が居て……母親がってやつ?」
キサラギちゃんがボクにそう問う。
「うん……変だと思わなかった?」
そうボクは尋ねる。
「まぁ……鬼とかそんな存在を出されるとねぇ」
ネイネちゃんがそう答える。
「話すべきと言った割には余りにも情報が曖昧……実の母親の死すら確認が取れていない、相打ちとなったという話なのに鬼は眠りから覚ました……そして眠りから覚めた鬼は、再び生贄を求めず、鬼刀 ガイを殺めた……」
ボクはそう告げる。
「ジンさんの話が全部、デタラメってことか?」
ヒイラギがそうボクに言う。
「わからないけど……何か肝心な所を語っていない、隠しているんじゃないかって……」
ボクはそう返す。
「肝心な事?隠し事?」
そうキサラギちゃんがボクに問う。
「母親と鬼が相打ちになった……その遺体を裏の祠へ放置し、鬼と共に封印するかな……ボクも含め、その母親の
ボクはそう返す。
「鬼は最初から死んでなんていないってこと?」
ナギちゃんがそう尋ねる。
「わからないけど……祠の奥にある封印した洞穴からは誰の遺体も見つかってないと現場に向かった警官から聞いている……もしも……」
ひとつの可能性……
「最初から鬼退治なんてモノに誰も向かっていなかったとして……逆に鬼と呼ばれる存在をこの場所に連れ帰っていたとしたら……」
ボクのその言葉にナギちゃん以外の者、恐怖じみた表情をしている。
「……だとしても、どうしてジンって人はそんな私たちを惑わすこと言うんだ?」
ネイネちゃんがそうボクに聞く。
「……ひとつの可能性として……鬼刀家は母親の生存を隠している」
ボクはそう答える。
・
・
・
「道の整備くらいしておけ……」
そう独り言を呟きながら八神は山奥の祠と洞穴を目指していた。
現場の確認……それが手っ取り早い解決だと思った。
「………」
山奥に向かう時からその視線に気づいていた。
あえて、泳がせていたが……
それが、今回の
余りにも下手糞過ぎる。
「出て来い、なんのつもりだ」
そう、後ろで姿を隠している人物に告げる。
「……え、あの……ごめんなさい」
キサラが八神の前に姿を出す。
「今度は何が目的だ?」
そう八神がキサラに問う。
「私も何かお手伝いできないかって……」
逸見トウタ、八神ソウスイに……自分なりに今此処に居るせめての役に立ちたいと。
「手伝いたいなら、もっと……安全な場所で仕事を探せ、俺の邪魔をするな」
そう八神がキサラに言うが……
「大丈夫です、八神さんがピンチになったら私は一目散に逃げます、そして助けを呼びます、八神さん一人だとそれはできません」
そうキサラがにっこりと微笑む。
ちっと八神は舌打ちをして、特に何も語らず祠を求め山の奥に進み始める。
「ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
キサラがそう八神に尋ねる。
「……」
八神は一瞬目線をキサラに送り、どちらとも取れない意思をキサラに伝える。
「ひより……さんって……誰ですか?」
八神の傷を手当していたとき、一度口にした誰かの名前。
「ひっ……」
気がつくと、警棒がのど仏に突きつけられている。
「仕事と関係のない、余計な詮索をするな……」
そう冷たくキサラに視線を送る。
「ごめんなさい……」
そう素直に言葉にする。
再び、山道を進む。
八神は一度歩みを止める。
八神の送る目線の先、頭上の崖の上には大きな岩が転がっている。
何かの拍子に崖から落ちてきてもおかしくは無い。
「少し、道を反れるぞ」
そう八神は言い、ルートを反れるが、
「ちっ……」
そう舌打ちをし、警棒を引き抜く。
ギンと金属の重なる音……
黒い包帯を巻き、小汚いフードを被ったバケモノの姿が目の前にある。
「てめぇの方からわざわざ現れたか」
そう八神は言い、警棒を振り回すが、それらを回避するバケモノ。
そして、包帯を突き破り現れた刃物が八神を襲う。
それらを八神も回避する。
幾度か互いに攻防を重ね、八神の攻撃が何度かバケモノに当たるが、逆にバケモノの刃物をその身体に何度か受ける。
「小娘っ何してる……さっさと逃げろ、自分の言った事くらい実行しろ」
そうキサラに八神が言うと、キサラは一気に走り抜ける。
バケモノがその後を追おうとするが、八神がそれを阻止する。
八神の攻撃が命中するが、同時にバケモノが放った攻撃も八神に命中する。
「ちっ……」
こんな
幾度目かのバケモノの攻撃、右腕を捕らえた。
警棒が宙に舞い、地に落ちる。
次の攻撃を覚悟するが……
「!?」
頭上から、大岩が落ちてくる。
目の前でその大岩にバケモノが巻き込まれ、砕けた岩の瓦礫でその姿を見失った。
「大丈夫ですかっ、八神さん」
それに巻き込まれていないか心配そうにキサラが崖の上から叫ぶように言う。
「あの……小娘が?」
情けなく……助けられたと言うのか……
日も暮れ始めていた。
少なからず、自分の傷もそれなりのものだ。
幸いにも近くにあった無人の小屋で、その身を潜める。
「大丈夫ですか……」
再び、キサラに手当てをされている。
そんな中、再び目の前の小娘を通し、違う誰かの記憶を眺める。
手当てを終え、日がくれ、冷える小屋の中……
中央の囲炉裏に火をつけ、キサラはひとり毛布に包まっている。
「!?」
不意にがらりとドアが開くと……
「少ないが食べられそうなものを取ってきた」
八神がきのこや果物を両手に抱え帰ってくる。
腹も満たされ、ただ無言の時間が続く……
「……妹の名前だ」
そう唐突に八神が口を開く。
「え……?」
さすがに話がわからず、キサラが口にする。
「妹の名前が……ひよりだ」
そう囲炉裏で燃える炎を眺めながら……
「ふっ……てめぇみたいなクソガキだった」
そう……呟くように告げる。
「えっ?」
八神は腰に装着していた拳銃をキサラに投げ渡す。
「この先は、てめぇの危険はてめぇで何とかしろ……」
そう八神は告げ……
「俺がもし死ねば、てめぇはてめぇで守らないとならない……」
そう続ける。
「……いいか、殺人鬼に情けなどかけるな、後悔したくないなら絶対にだ」
もし、その武器をつかう時があるなら、絶対に躊躇せずそれを仕留めろと……そう言うように。
「……ひよりさんは今?」
そんな残酷な質問……彼女は気づいているはずなのに……
答えない……
疲れたように目を瞑る八神。
「情けなどかけるな……奴らにそんな感情は不要だ……」
彼の記憶に残る後悔……
あの日、あの時、今のような卑劣を実行できる人間であったなら……
・
・
・
鬼刀家 屋敷内。
客間に食事が並んでいた。
八神とキサラギちゃんのために用意された席だけが、無人だった。
鬼刀 ジン……長男、黒い髪……席についている。
鬼刀 ヤシャ……三女、長い黒い髪、ボクの元に食事を運ぶと、その隣に座る。
「危ないじゃないっ、コタロウタ大丈夫かいっ」
鬼刀 レイ……茶髪の髪の義母にあたる女性の少しヒステリックな声が響く。
手にした、ステッキのようなものでバシバシと末っ子の顔を殴っている……
帽子を目元まで隠れそうなくらい深く被り、顔には怪我を隠すようにガーゼがはられている。
いつも、こんな風に暴力を受けているのだろうか。
鬼刀 コウ……うずくまるような体制でただ、じっとそれに耐えている。
乾コタロウタ……茶髪の髪……レイと、コウのやり取りをただじっと見ている。
乾コトハ……黒い髪……コタロウタの隣で同じように眺めている。
「……なるほどね」
ボクはそう一言呟いた。
「何かわかったの……トウタ?」
隣に座ったヤシャちゃんがボクに尋ねる。
「ううん……たぶん事件と関係のないこと」
ボクはそうヤシャちゃんに伝える。
ヤシャちゃんを疑っている訳じゃない。
それでも……慎重に……
彼女はその嘘を何処まで知っている?
その偽りを何処まで受け入れている?
誰が何処まで知っている?
なぜ、誰もがその偽りを受け入れている?
屋敷の主が死に……次男が死んでまで演じなければならないほど……
「鬼が怖いの?」
説明も無く、その真実をヤシャちゃんに問う。
「……そうだね、多分……ジンにぃも、私も……鬼刀家の人間は皆、鬼に殺される……から」
そうヤシャちゃんは少しだけ怯えるように言った。
「……見たものだけ信じろ……逸見トウタ」
目の前で叩かれている……鬼刀 コウ。
それを叩いている、鬼刀 レイ。
その様子をただ、見ている……乾コタロウタと乾コトハ。
それらを眺め、目線をスライドさせ、鬼刀 ジンとボクの隣のヤシャちゃんを見る。
嘘を見抜くだけの素材は揃っている。
さっさと気がつけよ。
お前が探している
だったら……殺人鬼は誰だ?
逸見トウタ……今回のお前は脇役だ。
主役の二人は今も、この山奥で死闘を繰り広げている。
だったらせめて、この事件……
この場所を正しい形に戻せ……
それがボクの仕事だ。
それがボクの痴れ事だ。
「ヤシャちゃん……大丈夫、君は死なないよ」
その言葉にヤシャちゃんは少し期待する眼差しで……
「ボクが……事件を解決する……鬼は二人が退治する……」
そうボクが答える。
「私、助かるの……?」
そうヤシャちゃんの問いに……
「……嘘を受け入れ、本当の世界が……ヤシャちゃんにとって救いの世界であれば……だけど……、痴れ事だけどね」
その言葉に……ヤシャちゃんは目を伏せる。
当然だ……。
元に戻す?
逸見トウタ……どの口が言っている。
お前は……壊そうとしているだけだ。
間違いを壊すだけだ。
それは、元に戻すなんて言わない。
お前の痴れ事は誰も救わない。
ただ、文字通りに
ここに訪れてからずっと……その視線に気づいていたんだ。
今もそこからずっと見ているんだろう。
自分の役目を……ボクがその名を呼ぶのを待っているかのように……
ただ……じっと……。
ボクの間抜けな推理を笑うように……ずっと。
ボクがそれに頼る事を、運命的に知っているように……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます